緊迫する新型コロナ対策現場の課題解決に向けて
保健所の管理業務支援システムをわずか 1 週間で構築

2021

札幌市は、急激に広がった新型コロナウイルス感染症の対策業務に追われていました。同市 保健福祉局 保健所感染症総合対策課は、緊急事態で混乱する現場を救うべく、医療対策室内に情報システム班を編成。情報システム班は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)をベースにわずか 1 週間で業務支援システムのプロトタイプをリリースし、検査データ、患者データの一元化を実現。混乱を収束させつつ、更なる開発期間を確保。およそ3 ヶ月後にはさまざまな作業の簡素化・自動化を果たす事務支援システムを稼働させました。感染症対策事務に関するさまざまなデータを統合したことで、新しい視点での分析にも活用できるようになっています。

AWS 導入事例  | 札幌市
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非常に切迫した状況でしたが、優れたパートナーの支援によって極めて短期間で感染症対策事務システムを構築し、現場の業務負担を大幅に軽減できました

小澤秀弘氏
札幌市 保健福祉局
保健所感染症総合対策課 システム担当課長

新型コロナで緊迫する札幌市

破綻寸前の現場を助けたい

日本最北の政令指定都市である札幌市は、1869 年(明治 2 年)に開拓使を設置して以降、北海道開拓の拠点として発展してきました。現在は人口 190 万を超える北海道最大の都市で、全国でも 5 番目の規模となっています。観光地としても人気が高く、毎年 1,300 万人もの観光客が訪れるそうです。国際的なスポーツ大会や会議などを積極的に誘致・開催しており、国際会議観光都市にも認定されています。

2020 年に全国で流行した新型コロナウイルス感染症は、全国の自治体に大きな打撃を与えました。従来の感染症対策では対応しきれず、管理システムも確立されていないため、感染症対策事務が緊迫した状態に陥りました。全国有数の大都市である札幌市は、日本国内で最も早く感染が広がったことで大きな影響を受けました。

当初、札幌市保健福祉局では、従来どおり表計算ソフトを使って新型コロナウイルス感染症対策業務を行っていました。しかし、4 月には PCR 検査の受付だけでも 1 日 300 件といった件数を管理しなければならず、さらに検査結果/陽性確定者/濃厚接触者/入院状況なども記録していかなければなりません。人的リソースにも限りがあり、切迫した事態になっていきました。未曾有の非常事態で、煩雑な事務作業をサポートしたり、複数の担当者が同時にアクセスしながら並行して作業を可能にしたり、情報を統合するための IT が求められていました。

「感染症対策業務を支援するためのシステムが明らかに不十分でした。札幌市基幹系情報システム再構築プロジェクトを担当した実績のある職員を緊急招集してエキスパートチームを構成し、データベースや業務アプリケーションの構築にかかりました。現場では明日にもシステムが必要という危機的状況の中で、できるかぎり短期間でニーズを満たせるシステムを作らなければなりませんでした」と、札幌市 保健福祉局 保健所感染症総合対策課 システム担当課長を務める小澤秀弘氏は振り返ります。

小澤氏は、この短期間で、従来のオンプレミスシステムでの構築は到底不可能、クラウドを利用するしかないと考え、10 年以上にわたって札幌市の IT をサポートしてきた株式会社アフォーダンスに状況を伝えました。同社が早くからクラウドとアジャイル開発に取り組んでおり、AWS パートナーとして 10 年の知見を蓄積していることを知っていたからです。小澤氏はチームを結成した翌日にアフォーダンスに相談しましたが、相談を受けたアフォーダンスはその日のうちに最適な解決策を提案してくれました。
「新型コロナウイルス感染症対策業務では、非常にセンシティブな個人情報も取り扱います。しかし、オンプレミスシステムよりもクラウドのほうが安全性を高くできるし、特に AWS はセキュリティ機能が豊富であることも聞いていました。セキュリティ対策の知見が豊富で札幌市情報セキュリティポリシーも担当していた職員もチームに加えつつ、アフォーダンスのサポートを受けながら AWS を使えば安全な仕組みを構築できると確信しました」(小澤氏)

わずか 1 週間でプロトタイプ構築

現場業務がみるみる改善

保健所感染症総合対策課とアフォーダンスは、まず Excel で管理していた現場の情報を集約し、一人の入力担当者ではなく、各作業の担当者が同時に情報を入力できるアプリケーションが必要だと考えました。2 日間で状況を調査・分析し、中核となる PCR 検査の管理業務と陽性確定した患者名簿を管理する業務を支援するプロトタイプを 1 週間で構築しました。このアプリケーションとデータベースによって、煩雑な情報をまとめて分析・可視化できるようになりました。その結果、連続したデータがないと実現不可能な「実効再生産数」の算出を、国内自治体でもいち早く実施できるようになっています。

その後、プロトタイプをベースに感染症対策事務を行いながら、さらなる感染拡大に備え、必要な機能の追加を検討。検査の管理、患者の管理だけではなく、入院調整、積極的疫学調査対応等の事務を洗い出し、およそ 40 ユースケースの事務を対象に 3 ヶ月で「新型コロナ感染症対策事務支援システム」が完成しました。それからも現場のノウハウを吸収しながら機能強化・最適化が図られ、稼働後 1 ヶ月で他の自治体でも活用できる本格的なシステムへと成長させています。

「AWS では、実にさまざまなサービスが提供されており、選定にも知識と経験が必要です。アフォーダンスが最適なものを 1 つひとつ選んで組み合わせたことにより、機能/性能/安定性がバランスよく、快適に利用できるシステムに仕上げられました。その柔軟な拡張性と豊富な機能、堅牢なアーキテクチャには目を見張るものがありました。AWS ならでは強みを最大限に活用することで、従来では不可能な短期開発ができたのだと思います。また、自治体が最も気にするセキュリティについても、AWS Direct Connect で安全な通信経路の確保が可能であるなど、私どもが必要とする要件を満たす機能がすべて揃っていると感じました」と、システム担当係長の西條英嗣氏は述べます。

今回開発されたアプリケーションの 1 つである「健康観察者向けショートメッセージ通知システム」は、現場の負荷軽減につながるものの 1 つです。“濃厚接触者”と判断された市民は、14 日間の外出自粛と健康観察を求められます。これまで担当職員は、対象者へ毎日電話をかけて健康状態を確認する必要がありました。最大で 1 日に 1,500 人もの濃厚接触者へ連絡しなければならず、応援スタッフを増やしても追いつかない状況でした。この新システムは、濃厚接触者に対して体調・体温を記録する Web サイトへの案内(URL)を SMS によって送信するというものです。業務をほぼ自動化でき、数名の担当者で賄えるようになりました。

利用者が急増しても安定性を維持

業務・運用ノウハウを今後に活用

札幌市が構築した新型コロナ感染症対策事務システムは、およそ 500 人の職員が活用し、24 時間停止することなく稼働しています。当初は100名弱の体制でシステム利用していましたが、緊急事態ということもあって利用者は急激に増えました。そうした状況に対処できたのも、AWS の高い可用性と安定性があったからこそと評価しています。アフォーダンスの迅速なサポートもあって、極めて短期間でシステムを構築できたことも大きな成果で、従来のシステム構築と比較しても低コストに済みました。

また、新型コロナウイルス感染症に関わる多様なデータを集約したことで、新しい分析も実践できるようになりました。医師など外部の専門家からも、すばらしい取り組みとして高く評価されているとのことです。
「感染症対策は一過性のものではなく、業務・運用のノウハウをためていくことが非常に重要です。応援職員はアサインできても入れ替わりが多いため、そのままだと事務作業が荒れて混乱を招いてしまいます。作業を簡素化したり自動化したりできるシステムを構築したことで、安定的でスムーズな業務が可能となり、感染症対策の品質を向上できたと実感しています」(西條氏)

札幌市 保健福祉局 保健所感染症総合対策課では、この新しいシステムとノウハウは、他の感染症対策にも活用できるものと捉えています。また新システムはアフォーダンスのサービスとして提供されているため、他の自治体でも採用されれば知見の共有化が進み、高度な感染症対策を実現できるのではないかと大いに期待しています。

小澤 秀弘 氏

西條 英嗣 氏


カスタマープロフィール:札幌市

  • 人口: 196 万 1,532 人(2020 年 12 月現在)
  • 世帯数: 107 万 8,806 世帯(2020年12月現在)

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • 1 週間でプロトタイプ、3 ヶ月で管理業務支援システムを構築
  • 作業の簡素化・自動化で業務負荷を大幅に軽減
  • 感染症対策事務に必要な情報を統合、新たな分析も可能に

AWS セレクトコンサルティングパートナー

株式会社アフォーダンス

情報システム開発を支援し、情報とビジネスの架け橋となることを目指すプロフェッショナル企業。北海道に本社を構え、AWS の豊富な経験を基に自治体や民間企業の AWS 導入支援や運用サポートなど幅広く提供している。


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