国内ガス業界初のデジタルツインシステムを AWS 上に構築
世界最大級の LP ガスハブ充填基地をベースに LPG 託送事業を展開し
充填・配送コストと CO2 排出量を 50% 削減へ

2022

関東エリアを中心に、総合エネルギー事業を展開する日本瓦斯株式会社(以下、ニチガス)。同社は、ガス業界初のデジタルツインシステム『ニチガスツイン on DL(ディープ・ラーニング)』を開発し、2021 年 3 月より運用を開始しています。同システムにおいて、ビッグデータを活用するデータプラットフォーム、および世界最大の LPG 充填工場『夢の絆・川崎』における充填を自動化する制御システムを、フューチャーアーキテクト株式会社の支援を受けて、アマゾン ウェブ サービス(AWS)上に構築しました。充填拠点の集約化とデータを活用した配送指示の確立により、充填・配送コストと CO2 排出量の 50% 削減を目指しています。

AWS 導入事例  | 日本瓦斯株式会社
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世界最大規模の LP ガスハブ充填基地『夢の絆・川崎』で実現した『ニチガスツイン on DL』により、LPG 託送システムを全国のガス会社にも提供し、業界全体で CO2 の排出量の半減を目指していきます

吉田 恵一 氏
日本瓦斯株式会社
専務執行役員 エネルギー事業本部長

LP ガスハブ充填基地を開設し同所を起点とした LPG 託送事業を開始

関東 1 都 6 県と山梨県・静岡県で事業を展開し、グループ全体で 192 万件(2021 年 9 月末現在)を超える顧客に、エネルギーを供給しているニチガス。65 年以上の歴史を持つ企業でありながら、2010 年にはフルクラウド化を打ち出し、2013 年には基幹業務をフルクラウド化した『雲の宇宙船』をリリースするなど、先進的な取り組みを推進しています。「ニチガスには『同じ成功を繰り返さない』という社風があり、新しいことにチャレンジするカルチャーが根付いています」と語るのは、専務執行役員 エネルギー事業本部長の吉田恵一氏です。

2021 年 3 月には神奈川県川崎市に、DX を実装した世界最大規模の LP ガスハブ充填基地『夢の絆・川崎』を開設し、同所を起点とした LPG 託送事業を開始しました。LPG 託送の目的は、最適化したニチガスのオペレーションを他社に提供し、業界全体の CO2 排出量を半減させることです。

一般的な LPG の物流モデルでは、輸入基地と充填所が離れているため、タンクローリーが昼間配送となり、物流コストが高止まりします。個別配送トラックの走行距離も長く、効率化の妨げとなっています。一方、ニチガスモデルでは、ハブ充填基地となる夢の絆・川崎は輸入基地まで片道 5 分と近く、そこから関東地方 18 か所のデポステーション(個配拠点)までの、ガスを充填したボンベの輸送は安価な夜間配送を利用します。利用者への配送も、ガスメーターに取り付けた自動検針システムから 1 時間単位で取得したデータに基づき計画的に行われるため、配送頻度を抑えることができます。
「結果として、充填・配送コストと CO2 の排出量を、他社比で約 50 % に下げることが可能になります。(※ニチガス試算による) 2022 年からはプラットフォーム事業を本格化し、テクノロジーを他事業者との差別化に使うのではなく、他事業者との共創により、社会の活性化への貢献を目指します」(吉田氏)

託送事業を支えるデジタルツインシステムを AWS のサーバーレスアーキテクチャで構築

ニチガスが進める配送 4.0/LPG 託送事業を、デジタルで支えるのが、夢の絆・川崎の開設と同時にリリースしたデジタルツインシステム『ニチガスツイン on DL』です。一般的には、現実世界のデータをサイバー空間で数値化し、定量的な分析結果をフィードバックすることで、現実世界で最適な結果を導き出す CPS(サイバーフィジカルシステム)と呼ばれるものです。

ニチガスツイン on DL の特徴は、LPG 事業における製造(充填)、配送、在庫、需要のサイクルから収集したデータを、サイバー空間上で AI が分析・処理し、環境負荷の低いシステムに最適化することにあります。執行役員 エネルギー事業本部 情報通信技術部長の松田祐毅氏は「ニチガスツイン on DL は、配送システムと LP ガスの作業者向けアプリと連携し、一連の作業を効率化させる資産管理システムです。データを AI で分析しながら、システムを常に進化させています」と語ります。

ニチガスツイン on DL は、自社エリアで約 100 万台設置されている IoT 検針デバイス『スペース蛍』のデータを取得して蓄積するデータプラットフォームの MDDM(Meter Device and Data Management)と、充填工場において需要予測に基づき、効率的な充填を実現する製造計画システム、それと連動して充填の自動化・最適化を実現する工場機器制御システムで構成されています。それぞれのプラットフォームには AWS を採用し、フルサーバーレスで拡張性の高いアーキテクチャを構成しています。
「サーバーレス環境を構築するなら、選択肢はサービスが充実している AWS の一択でした。IoT デバイスから取得したデータを集約するデータプラットフォームであるニチガスストリームでも、AWS を採用している実績もあり、エンジニアのスキルや開発のアジリティを考慮して採用を決めました」(松田氏)

IoT デバイスのデータを取得する管理基盤と充填工場の制御システムで配送 4.0 を実現

構築パートナーには、AWS パートナーのフューチャーアーキテクト株式会社を採用し、共同で開発を進めました。プロジェクトでは MDDM を先行して構築し、2020 年 5 月より外部企業への提供を開始しています。MDDM では、ニチガスとソラコム社が共同開発したスペース蛍からアップリンクされるマイコンメーターの信号を、人が理解できる形で連携。スペース蛍が採用する Sigfox と LTE-M の 2 つの通信プロトコルの違いを吸収し、利用側に意識させることなく、透過的に操作可能としています。

フューチャーアーキテクトの真野隼記氏は「AWS のサーバーレスアーキテクチャで WebAPI を構築し、正しい形でデータが吸収できるように工夫しました。何百万台もの IoT デバイスのオーダーに耐えるため、データベースには拡張性のある Amazon DynamoDB を採用しました」と語ります。

製造計画システムと工場機器制御システムでは、エッジサーバーを排除し、工場のリアルタイムな生産状況の可視化や、製造計画を変更するアプリケーション向けに API を用意しました。ボンベの位置はカメラで把握し、AWS 上で処理してから、PLC にデータをフィードバックしています。現在は夢の絆において、1 日当たり 4,000 本のボンベを本システムで制御しています。

プロジェクトを通したフューチャーアーキテクトの支援に対して、松田氏は「当社のエネルギー構想に当初から高い関心を示し、一緒に考えていただきました。プログラム言語の Go や Python に精通したエンジニアが多くおり、とても有意義なプロジェクトになりました」と振り返ります。

デジタルツインシステムを他工場に横展開し全国のガス会社に MDDM を展開

スペース蛍を活用した最適なガス残量計算と、そのデータを活用した配送指示が実現したことで、従来は戸建て住宅の場合 2 本あるボンベの半数、1 本ずつで交換していた業務ルールを、2 本一緒に交換する全交換に変更。これにより、容器配送効率を 50% 程度軽減することが可能になりました。今後は他の充填工場にも展開し、24 時間 365 日体制で IoT による設備コントロールや、予兆検知による保守サービスを拡大していく方針です。
「現時点でスペース蛍の展開は、LPG と都市ガス合わせて自社で約 100 万台、他社で 7 万台に過ぎません。全国に 5,852 万の世帯(2019 年総務省自治行政局住民制度課資料参照)がある中、スペース蛍は多くのポテンシャルを持っています」(松田氏)
「将来的には脱炭素への取り組みとして、地域と一体となった『ニチガス版スマートシティ』の展開を構想しています。LP ガス、電気、太陽光発電、EV(蓄電池機能)、ハイブリッド給湯器などをすべて制御し、取得したデータをニチガスストリームに取り込みながら、配電網全体をコントロールしていきます。そのために総合エネルギー託送 5.0 を実現し、他事業者との共創を進めながら、環境に配慮したエネルギー事業を展開していきます」(吉田氏)

吉田 恵一 氏

松田 祐毅 氏


カスタマープロフィール:日本瓦斯株式会社

  • 設立: 1955 年 7 月 29 日
  • 資本金: 70 億 7,000 万円
  • 従業員数: 1,793 名(連結 2021 年 4 月 1 日時点)
  • 事業内容:LP ガス事業、都市ガス事業、ガス小売事業、高圧ガス事業、電力事業、生活関連事業、リフォーム事業、総合設備工事

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • LPG 託送の共創基盤となる「ニチガスツイン on DL」の実現
  • IoT 検針デバイス『スペース蛍』を活用したガスの残量計算とデータを活用した配送指示により、LPG ボンベの交換ルールを残量ゼロの全交換に変更し、容器配送効率を 50% 程度軽減
  • 「 ニチガスツイン on DL」を他の充填工場に展開し、24 時間 365 日体制で設備をコントロール

AWS セレクトコンサルティングパートナー

フューチャーアーキテクト株式会社

さまざまな業界と技術のエキスパートが経営戦略から業務改革まであらゆる課題に向き合い、最新テクノロジーをベースに経営と IT をデザインする IT コンサルティング企業。「経営・業務・ IT の三位一体改革の実現」「中立的なポジションで技術力を発揮」「一気通貫のプロジェクトマネジメント」を強みに、お客様のビジネス変革を通じて未来に新たな価値を創造している。


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