AWS クラウドエコノミクスによるモダナイズ時のコスト削減試算
ASP のガバメントクラウド対応方針や国の動向を受け、ガバメントクラウドに移行
共通基盤やネットワーク環境、アカウント環境、認証基盤、セキュリティ環境の単独利用方式で構築とファイルサーバーの統合を実現
概要
最先端の産業都市として日本の経済をリードする川崎市。同市は基幹業務のガバメントクラウドへの移行期限(2025 年度末)を見据えて、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用し、2023 年度より基本設計を開始しました。検討段階では AWS クラウドエコノミクスで経済合理性を標準化対象の全業務で確認。プロジェクト開始後は、AWS クラスルームトレーニングでテクノロジーの基礎を学びながら、共通基盤の設計・構築や、対象システムの移行を進めています。
課題 | 標準仕様に準拠したシステムをガバメントクラウドへ移行
神奈川県の北東部に位置し、約 155 万人の人口を擁する川崎市は、2024 年 7 月で市制 100 周年を迎えた政令指定都市です。2023 年には地上 25 階、高さ 117m を誇る新本庁舎を整備し、11 月より本格稼働しています。
同市では、中長期的な視点でシステム再整備を進めるため、2018 年度から概ね 10 年間を対象とした情報システム全体最適化方針を策定し、利用者ファーストによるシステム導入を推進しています。その中の 1 つが、国の施策を踏まえたシステム運用です。2021 年 9 月に施行された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づき、基幹系 20 業務について、2025 年度末までに国が策定する標準仕様に準拠したシステムへの移行方針を決定しました。
標準準拠システムの IT インフラには、デジタル庁の推奨や補助金の交付条件などを加味してガバメントクラウドを選択しました。「2022 年度の予算要求から動き出し、基幹系 20 業務をカバーする 13 システムを、補助金を活用してガバメントクラウドへ移行する方針としました。」と語るのは、川崎市 総務企画局デジタル化施策推進室担当係長の杉山景平氏です。
毎月の標準化対象システムとの定例会議や ASP 業者と情報共有を行いながら、ガバメントクラウドの基本設計を行い、回線を含めた川崎市のインフラ基盤を整備しています"
根本 茂 氏川
崎市 総務企画局デジタル化施策推進室 担当係長
ソリューション | AWS クラウドエコノミクスで経済合理性を定量的に評価
川崎市はガバメントクラウドで利用するクラウドとして、デジタル庁より提示されている 5 つ(当時は 4 つ)のクラウドサービスの中から AWS を採用しました。「一番の理由は、標準準拠システムを開発するアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)が AWS を採用したことですが、クラウドサービスが複数になると運用管理補助者をサービスごとに立てたり、それぞれにネットワーク環境を構築したりと複雑になってしまいます。運用側としては統一するのがベストと判断し、13 システム全てにおいて実績や開発の容易性を評価して、AWS への移行を決めました」と川崎市 総務企画局デジタル化施策推進室 担当係長の根本茂氏は語ります。
ただし、2023 年度の段階では、2022 年に国が地方公共団体情報システム標準化基本方針で示した情報システムの運用経費等の目標「2018 年度比で少なくとも 3 割の削減を目指す」の実現性には不安がありました。川崎市 総務企画局デジタル化施策推進室の大北優氏は次のように振り返ります。「当初、多くの ASP からはクラウド利用料を事前に見積もるのは難しいという回答でした。また、ASP から提示いただいた見積について、当市としてそれが正しいのか、正しくないのかの判断もつかない状況でした。そこで少しでも参考値が欲しいと考え、現行のオンプレミス環境のシステムをそのまま移行する想定で、オンプレミス環境から AWS に移行することで得られる経済合理性を定量的に評価する『AWS クラウドエコノミクス』の実施を決断しました」
同市は AWS クラウドエコノミクスを、標準化対象の全 13 システムに対して実施。その結果、モダナイズした場合の机上検証の結果としてトータルでの削減が見込まれることがアセスメントの結果として試算されました。「ASP が提供する標準準拠システムが当初からモダナイズされたものであるという望みは極めて薄い状況ではありましたが、少なくとも将来的にそうなる可能性はあるものと理解したところです」(根本氏)
その後、同市が単独利用するガバメントクラウドの基本設計を委任する委託業者を選定し、2023 年 7 月からガイドラインと基本設計資料の作成に着手。同年 10 月には同市が 2023 年度のガバメントクラウド早期移行団体検証事業に採択され、2024 年 2 月までにガバメントクラウドと本庁舎を接続するネットワーク回線を敷設しました。
2024 年度からは運用管理補助者の支援を受けながら、前年度に作成した基本設計に基づき共通基盤やネットワーク環境の構築、アカウント環境、認証基盤、セキュリティ環境の構築、共通ファイルサーバーの導入などを進めています。一部についてはガバメントクラウドの監視、セキュリティ管理などの運用設計も開始しており、今後この共通基盤環境に他システムも載る予定です。
「共通基盤の構築では、デジタル庁から提供された資料をもとに、自治体のセキュリティポリシーガイドラインとあわせて、マイナンバー利用事務系・ LGWAN(地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワーク)接続系・インターネット接続系の 3 層分離など、自治体特有のネットワーク構成を AWS のサービスに当てはめていきました。また、本市はマルチベンダーを活用する方針で、単独・共同利用の 2 つの方式を採用するため ASP 間のネットワークや連携部分について運用管理補助者、担当 ASP と議論しながら設計しています」(根本氏)
導入効果 | ガバメントクラウドの本格運用、システムのモダナイズに向けた体制整備
マルチベンダーで運用している標準化対象の 13 システムは、2025 年度末までの完了に向けて、先行して移行したシステムについては 2025 年度から本格的な移行を開始する予定です。ガバメントクラウドへの移行では、デジタル化施策推進室の中で AWS 認定資格を取得済みの職員がテクニカルな領域を主導していますが、プロジェクトメンバーの技術レベルの底上げを図るため、AWS が公共機関向けに無償で特別開催している「AWS クラスルームトレーニング」を数名が受講しました。AWS クラスルームトレーニングは、ロール別やソリューション別に習得したいコースを選んで上級、中級、初級コースに分かれ、1~3 日で終了します。
「AWS からの提案により無償で受講できたため、AWS の基礎から学ぶことにしました。2023 年度にデジタル化施策推進室に異動してきた私にとって、IT システムやクラウドは初めてでしたので、イメージを掴むという点で有意義なトレーニングになりました」(杉山氏)
「ドキュメントを 1 人で読み解く場合と比べて、講師の方から解説をいただくことで、AWS の思想的な部分から理解ができ、移行への足がかりをつかむことができました」(大北氏)今後については、ガバメントクラウドへの移行と並行しながら、システム障害対策と移行後のシステムのモダナイズを進めていく方針です。川崎市 総務企画局デジタル化施策推進室の猿田裕介氏は次のように語ります。
「2025 年度以降、ガバメントクラウド上で本格運用が始まるシステムが出てきます。市の基幹業務を司るシステムでは障害が許されないため、不測の事態に備えて障害対策を強化していきます。また、コスト削減や運用の効率化のためには、システムのモダナイズも必要です。AWS には引き続きモダナイズに向けた ASP への技術支援や、運用コスト軽減に向けた提案を期待しています」
カスタマープロフィール:川崎市
7 つの行政区からなる政令都市。多摩川を挟んで東京都と隣接し、東京へのアクセスが良いことから人口は増加傾向にあり、2024 年 4 月に 155 万人を突破した。古くから産業都市として日本の高度成長を支え、現在は世界的な企業や研究開発機関が数多く立地する国際的な先端産業都市となっている。音楽や美術、スポーツの振興にも力を入れ、大きな音楽祭も毎年開催。スポーツではサッカーの川崎フロンターレやバスケットボールの川崎ブレイブサンダースなどがホームタウンとしている。
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