AWS のマネージドサービスを活用することで、コンソールでの監視といったインフラ管理の仕事から解放され、複数機能の開発や運用を 1 人で楽に回せるようになり、機能改善にリソースを当てることが容易になりました。
朝日新聞社は、よりよい明日のために『ともに考え、ともにつくる』という企業理念を掲げ、原点であるジャーナリズムを守りながら既成概念にとらわれずデジタル化にも積極的に取り組んでいる総合メディア企業です。今や人々の暮らしにも欠かせない新たなメディアとなっているインターネットやソーシャルメディアへの対応等、コンテンツのデジタル化にも力を入れています。
朝日新聞社では、新聞記事をデジタルコンテンツ化して配信する際、過去の関連記事のリンクや写真等の情報を付加することで読者にさらなる価値を提供しています。しかし、当時は掲載する写真や関連記事を探す際、編集者は朝日新聞デジタルのニュースサイトに蓄積されている膨大な画像や過去記事を手動でキーワード検索するだけでなく、探した記事や画像の ID を別途社内システムへ入力する等、非常に手間のかかる作業となっていました。そのため、「IT 技術を活用して編集者の作業負荷を軽減するとともに、1 本あたりの記事編集にかける時間を短縮して生産性を向上できないかと考えました。」と話すのは、株式会社 朝日新聞社 情報技術本部 開発部の落合 隆文氏です。
朝日新聞社ではこうした課題を解決するため、2016 年 11 月頃から記事に対して最適な関連記事情報と写真を提供する『編集者向け記事・画像検索システム』のプロトタイプの構築を、社内 R&D 組織(ICTRAD)の作業の一環として開始しました。この検索システムは Web サービスとなっており、ブラウザを経由して編集者が簡単に利用できる仕組みとなっています。朝日新聞社では、業務システムや外部向け Web サイト等で既に AWS の利用実績がある点、またプロトタイプ開発を安価かつ迅速に開始でき、開発環境の追加にも柔軟に対応できるといった点を評価し、このシステムの基盤として AWS の採用を決めました。
朝日新聞社では当初この検索システムを Amazon EC2 上に構築する予定でした。しかし、今後このシステムを社内公開すれば、ニュースサイトの編集という業務要件から 24 時間 365 日の運用が必要となるため、少人数で運用するのが難しいという課題がありました。「そこで私たちが選んだのが、AWS Lambda、 Amazon API Gateway といったサーバーレスのサービスです。サーバーレスであれば、インフラ管理やセキュリティ対策等の手間がほぼかからないため、少人数でも機能開発に集中でき、さらに運用保守の面でもメリットがあると考えました。そしてサーバーレスの技術では、AWS がかなり先行していると判断しました。」(落合氏)
サーバーレスで構築されたプロトタイプの評価を経て、朝日新聞社では 2017 年 4 月から検索システムの正式な開発を内製で開始しました。その後、開発と編集担当からのフィードバックサイクルを繰り返し、2017 年 6 月に社内へ公開されました。
公開された検索システムでは、記事の文章を入力するとそれに合った過去の関連記事と写真が自動で提案され、検索結果のリストは、最新順、ページビュー順、有料会員化したコンバージョンレート順等でソート表示もできるようになっています。このため、編集者はこの検索システムで瞬時に関連記事や写真を探し出せるようになりました。
関連記事や画像を提案する機能のフロントエンド部分は Python で開発され、AWS Lambda と Amazon API Gateway を組み合わせた環境で実行されます。記事との関連性の検索では Amazon Elasticsearch Service を活用し、ユーザーがどのような検索をしたか等のログデータは、Amazon DynamoDB に格納しています。そのログデータを用いて行動分析を行うことで、新たなリコメンド機能も実現できます。Amazon DynamoDB のデータは、Amazon EMR を経て Amazon S3 に日次で蓄積される仕組みとなっており、データレイクとしての利用も可能です。「サーバーレスで構築したことで、フロントエンド部分の費用は非常に安価となり、Amazon EC2 で開発した場合と比較して 99%のコスト削減を実現しました。さらにサーバーレスの環境は、10 数行の設定スクリプトを書けばすぐに用意できるのも魅力の1つです。約 2 時間もあれば Amazon Route 53 での DNS 設定まで完了できます。」(落合氏)
さらに今後フロントエンド部分に機能を追加しても AWS の利用費用はほとんど増加しません。また、バックエンドと分離されているため、フロントエンドに変更を加えるだけで容易に外部向けサービスを実装することもでき、そのための認証機能も AWS には用意されています。「AWS のマネージドサービスを活用することで、コンソールで監視をするようなインフラ管理の仕事から解放され、複数機能の開発や運用を 1 人で楽に回せるようになり、機能改善にリソースを当てることができるようになりました。さらに、本番への展開も容易に行うことができ、将来的に利用者が増えても簡単にスケールすることができるので、インフラ構成に悩む必要がありません。」(落合氏)
AWS を活用することで、開発部では機能開発に注力できるようになり、編集者のニーズをくみ取りながら一緒に機能を作っていく提案型の業務スタイルに変わってきています。「AWSを活用しシステムを内製化することで、編集者と開発者でコミュニケーションを取り、必要な機能を必要に応じて開発する進め方が可能となりました。AWS は、当社のように最小限のコストで迅速にシステムを開発したい企業に最適だと感じています。」(落合氏)
今後はさらにコンテナサービスである Amazon ECS の活用や、AWS Cloud9 を使った Web アプリケーション開発スピードの高速化等にも取り組んでいきたいと考えています。また Amazon SageMaker 等を活用した機械学習技術を取り入れることでさらなる編集作業の効率化を進めていく予定です。
また朝日新聞社では、作業効率化による社員負担の軽減をはじめとする社内向けの働き方改革の推進と並行して、朝日新聞デジタルの読者向けサービスをさらに充実させることにより、読者の満足度向上を目指しています。
AWS クラウドがメディア・エンターテインメント企業でどのように役立つかに関する詳細は、デジタルメディアとエンターテインメントの詳細ページをご参照ください。