Richard Taylor:
優れたリーダーになるうえで、運や他者からのサポートはどのような役割を果たしますか?
Harry Kraemer 氏:
なるほど。面白いですね、Taylor さん。あなたの質問は本当にすばらしいです。なぜなら、あなたは今、「真の謙虚さ」という 4 番目のトピックにたどり着いたからです。私は真の謙虚さを持つことがとても重要だと本当に信じています。私は世界中の人々、私の部下の若手社員、さらには CEO にまで、どのようにして今の地位にたどり着いたのかをたずねてきました。 あなたが相手だとすると、「あなたはすばらしいキャリアを歩んでいて、EY や AWS などに勤めてきましたが、どのようにして今の地位にたどり着いたのですか?」というようにたずねます。 誰と話しても、上位 2 つの回答は次のようなものです。「どのようにして今の地位にたどり着いたか、ですか? Kraemer さん、1 つは、私がとても一生懸命働いた、ということです。そして、2 つ目は、私が特定のスキルセットを持っているということです。一生懸命働くことと、スキルセットを組み合わせることによって、今の地位にたどり着いたのです」。
しかし、これは私には当てはまりません。私は内省的です。あなたから、「Kraemer さん、あなたはどのようにして今の地位にたどり着いたのですか?」とたずねられたら、 私は次のように答えるでしょう。「5 つ挙げましょう。1 つ目は運です」。 運について少し考えてみましょう。私はかなり幸運でした。「2 つ目は、タイミングです。私は、適切なタイミングで、適切な場所にいました」。
運、タイミング、チーム。これらについてはたくさん話してきましたね。適切なチームが必要です。4 つ目はメンター、スポンサーです。私には、Don Jacobs 氏や Graham 氏などの人々がいました。これらの人々がいなかったら、私がこれらの仕事に就くことはなかったでしょう。運、タイミング、チーム、メンターと、これまで 4 つを挙げました。5 つ目は、もう少し個人的なことですが、信仰、宗教的見解です。私の場合、これらの才能は天からの贈り物です。私が成し遂げたことではありません。運、タイミング、チーム、メンターなど、これらのいずれかがうまく働いたら、それが自分の力ではないことに気づきはじめます。
一人ひとりが大切なのです。Taylor さん、私が「真の謙虚さ」と言うのは、謙虚なふりはできても、実際には謙虚さがまったくない多くの人を目にするからです。謙虚さがあるように振る舞ってもすぐにバレます。間抜けに見えます。そして、そのように考える能力や、行うあらゆることは...Taylor さん、少し面白いことをお話ししましょう。先日の夜に授業がありました。100 人の生徒がいて、あなたは手を挙げる必要はありませんが、私は 100 人の生徒に次のようにたずねました。
「皆さんの中で、バリューベースのリーダーに本当になりたい人はどのくらいいますか?」。 生徒たちは手を挙げました。「皆さんの中で、本当に人とうまく関係を築けると思っている人はどのくらいいますか?」。 また、生徒たちは手を挙げました。私は言いました。「次は手を挙げないでくださいよ。誰にも恥をかいてもらいたくはありませんから。皆さんの中で、建物に入るとき、受付係に挨拶して、どのような 1 日を過ごしているのかをたずねる人はどのくらいいますか? カフェテリアにいるとき、カフェテリアで働いている人々の名前や、その人たちの好きなスポーツチームを知っている人はどのくらいいますか? 夜遅く、時には仕事が遅くなり、清掃員が来たとき、手を止めてゴミ箱を空にし、これらの人々がしてくれていることについての感謝を伝え、どうせ使わないスポーツイベントのチケットをあげる人はどのくらいいるでしょうか?」。
そして、私が時々ゴミ箱を空にするのが好きな理由を学生たちに話します…別にいい人ぶっているわけではなく、実際にはかなり利己的です。なぜなら、私がゴミ箱を空にするのは、自分が何を事実として知っているのかに気づく瞬間を与えてくれるからなのです。 運、タイミング、チーム、メンター、そして天の助けがなかったとしたら、私は清掃員だったかもしれません。自分の出発点を決して忘れてはならないのです。それはウィンウィンの関係です。それは正しい価値観に基づく行動であり、チームを作りたいならまさになすべきことなのです。人々を気遣えば、それらの人々はあなたのために何でもしてくれるでしょう。
Richard Taylor:
なるほど。すばらしいですね。では、それを踏まえて、大規模な組織で、バリューベースの観点からリーダーシップにアプローチする場合、リーダーはどのようにして組織全体でバリューベースの文化を育むことができるのでしょうか?
Harry Kraemer 氏:
なるほど。私の意見では、それはリーダーであるあなたから始まります。あなたが示す模範から始まるのです。人々の話に耳を傾け、わからないことを認め、考えを変える覚悟があり、真剣に話を聞いて意見を変える覚悟があり、一人ひとりを十分に気遣っていることを示すことができれば、私の考えでは、あなたの模範はすばらしい基準となります。これが 1 つです。そして 2 つ目です。あなたは明確な模範を示しましたね。さらに進んで、あなたは明確な期待事項を設定し、それを伝達して、人々に責任を負わせ、結果に応じた対応を取ります。
つまり、あなたが設定した規範とあなたが設定した期待事項が重要なのです。そして、一貫している必要があります。ところで、人々は「なぜそれが価値なのですか?」とたずねます。 それが「価値」であるなら、2 つのことが当てはまります。あなたは決して妥協しないということ、そして、交渉しないということです。妥協したり、交渉したりする気があるなら、それは「好み」ではあるかもしれませんが、「価値」にはなり得ないと思います。
Richard Taylor:
それを価値として忠実に守っていないからですね。バリューベースのリーダーシップや、そのような特性を備えた組織は、イノベーションとリスクテイクにおいてどのような影響をもたらすのでしょうか?
Harry Kraemer 氏:
大きな影響をもたらすと思います。なぜなら、私がそれを実施し、組織を運営していて、従業員が「Kraemer さんはあなたを大事に思っている」、「Kraemer さんは私たちがリスクを取るのを恐れないことを知っている」、「Kraemer さんは、私たちが時々失敗するが、早い段階で失敗して、そこから多くのことを学ぶことを知っている」というメッセージを発しており、さらに私が、自分の可能性を最大限に発揮し、既成概念にとらわれずに考え、AWS が常に行っているのとまったく同じように何か新しいことを思いつくことを奨励していれば、従業員は挑戦できるからです。あなたが従業員を信頼し、従業員に共感し、好奇心を持ち、全員が一丸となり、階層構造を考えるのではなく、できるだけ多くの従業員と会うことで、それらの従業員は才能を発揮できるのです。
Richard Taylor:
少し話題を変えましょう。教授としての立場のあなたについてお伺いします。多くの人があなたと話したがるテーマはどのようなものですか?
Harry Kraemer 氏:
Taylor さん、本当にたくさんあります。あなたが既に取り上げたテーマのいくつかも含まれています。「どうすればより優れたリーダーになれるのか?」、 「それはどのようなものなのか?」、 「組織内の人材をどのように育成すればよいのか?」などです。 また、コロナ禍以降の私の講演では、バリューベースの人生を送るにはどうしたらよいのかについて、とても頻繁に議論しています。 なぜなら、Taylor さん、私には多くの組織と話す機会があり、そこではワークライフバランスについて話すことになります。私はいつもこれらの組織をからかって、「ワークライフバランスというのは、仕事をしているか、生活しているかのどちらかしかないみたいですね。私たちの何人かは仕事をしていますが、それは生活しているのではない、ということになりますね」と言います。そして、私はこう言うのです。「それは『ライフバランス』でなければならないのです」と。そして私たちは、それが本当に意味することについて、多くの講演を行います。 つまり、キャリア、家族、健康、精神性、キャリアで違いを生み出したいという願望のバランスをどのように取るのか、 それらすべてをどのように行うのか、ということです。
Richard Taylor:
あなたは、高く評価されているビジネスリーダーであり、教授であり、出版著書がある作家でもありますね。「成功」をどのようなものだとお考えでしょうか?
Harry Kraemer 氏:
私は「成功」という言葉よりも、「意義」という言葉を使いたいです。私はどのような模範を示しているのか? 人々の価値観やリーダーシップ、そして、それらの人々が及ぼしている影響に何らかの影響を及ぼす自分の価値観をどれほど多くの人と共有できているか? 私は物質的なものに対する関心はあまりありません。なぜなら、既にあなたとお話ししたように、過去に経験したリトリートから、私は自分がこの世にいるのはほんの一瞬であることを認識しているからです。そして、人生の現実は、多くの人々が物質的なものを集めることに夢中になっていますが、この世からいなくなるときにはそれらを持っていくことができないということです。これらの人々が、そのようなすべてのものをどうしているのか私にはわかりません。これらのことから、「成功」という言葉を聞くたびに、私は「意義」について考えるのです。
Richard Taylor:
なるほど。「変化は不変である」という古い決まり文句は、まさに今、現実になっていますよね。テクノロジー、生成 AI など、何であれ、変化は指数関数的に急速に進んでいるように感じます。リーダーシップはそのような変化とともに変わっていくでしょうか? 将来のリーダーシップについてどのようにお考えですか?
Harry Kraemer 氏:
私は、リーダーシップは主要な部分では変化しないと考えています。しかし、あなたの仰るとおり、変化のレベルが大きくなるにつれて、必要なのは、より多くのコミュニケーション、人間中心の姿勢をより重視すること、そして、不確実性を軽減する方法を見つけるために常に考え抜く能力だと思います。 このように考えてください。あなたが私の部下で、これから組織にある程度の変化が起きるとします。そして、私はあなたに、その変化の一部になってほしいとお願いします。私がただそれだけしか言わなければ、個人としてあなたは不安になりますよね。「家族に影響はあるのか?」、 「転勤しなければならないのか?」、 「仕事はどうなるのか?」、 「上司は変わるのか?」など、いろいろ考えるでしょう。
しかし、私たちが、「Taylor さん、今回の変化による影響はこのようなもので、このような理由から、これには対処可能なのです」と説明できれば、 あなたは、「なるほど。不確実性は減ったな。その変化に対処できるだろう」と考えることができます。 変化のスピードは本当にすごいです。今ここでセミナーを聴いているだけでもそれを実感できます。本当に信じられないほどのスピードです。しかし、オープンな姿勢を維持し、人とつながり、想定される影響や、仕事で AI がどのように役立つのかを理解できるようにサポートして、仕事を奪うものとして AI をとらえることのないようにすることで、変化は前向きなものとなるでしょう。 そのような継続的なコミュニケーションが信じられないほど重要になると思います。
Richard Taylor:
それは依然として、バリューベースのリーダーシップの柱の中に位置づけられるということですね。
Harry Kraemer 氏:
そのとおりです。
Richard Taylor:
その点では、あまり変化はないのですね。現時点において、AI はリーダーシップの領域で何らかの役割を果たしているとお考えですか?
Harry Kraemer 氏:
実際のところ、AI は 4 つの原則のすべてで役に立つと思います。どういうことかと言うと...あまり内省しない人が多いのはなぜでしょうか? これらの人々には時間がないのです。しかし、ここに来る前に聞こえたセミナーでも言ってましたが、AI はその時間を短縮してくれるのです。そうすると、どうなると思いますか? 私なら、さらに活動するのではなく、その時間の一部を内省に割り当てたり、3 日間のリトリートに行ったりするでしょう。このように、AI は適切に使用すれば助けになるのです。バランスの問題についてはどうでしょうか? 複数の視点を持っている人はあまり多くありません。しかし、AI を活用すれば、あなたとお話ししたことにもつながりますが、「これはこういう理由で理にかなっている」、「これはこういう理由で理にかなっていない」とすぐに判断するのに役立ちます。AI は私の役に立ち続けています。
Richard Taylor:
すばらしいお話でした。あなたはちょうど 4 冊目の本を出版したばかりですね。
Harry Kraemer 氏:
なるほど。
Richard Taylor:
おめでとうございます。
Harry Kraemer 氏:
心から感謝します。
Richard Taylor:
読者にどのようなことを感じてもらいたいですか?
Harry Kraemer 氏:
レガシーとは本当は何を意味するのかについての考えを理解してもらいたいです。 それは必ずしもお金や財団の設立を意味しません。レガシーとは、日々の生活において、自分自身で、家族、子ども、組織に、どのように影響をもたらすことができるのか、そして、自分の人生を超えて何かが残るようにするために何ができるのか、ということなのです。
Richard Taylor:
リーダーシップの地位に就くことを考えている人が身につけるべき日常の習慣を 1 つ教えていただけますか?
Harry Kraemer 氏:
Taylor さん、何よりも重要なのは、私が「少しの内省」と呼んでいるものに尽きると思います。ご存知のとおり、どのようなリーダーもやるべきことがたくさんあります。休みなく、とにかく走り続け、やるべきことはさらに増え、より多くの時間が必要になり、スピードも増していきます。そのような中で、私はすべてのリーダーが、ほんのわずかな時間でもよいので、内省する時間を持つべきだと心から信じています。つまり、 デバイスをオフにして、一人きりになり、自分自身に一連の質問をするのです。そのように物事を考えることで、はるかに優れたリーダーになることができるでしょう。
Richard Taylor:
Harry Kraemer さん、お話を伺うことができて、光栄でした。本日は本当にありがとうございました。
Harry Kraemer 氏:
とても楽しい時間でしたよ、Taylor さん。
Richard Taylor:
心から感謝します。