クラウドと文化の変容を組み合わせて、企業の持続可能性を実現する
Equifax の最高技術責任者である Bryson Koehler 氏との対話
2017 年にデータ漏えいが発生した後、信用報告およびデータ分析の多国籍企業である Equifax は、クラウドネイティブになるための文化および技術面における包括的な変革を開始しました。移行が完了するときには、同社は、すべてのデータとアプリケーションをクラウドに移行し、世界中の 25 の大規模なデータセンターは閉鎖されることになります。CTO として、Bryson Koehler 氏がこの過程を監督しています。
AWS エンタープライズストラテジストの Miriam McLemore とのこの対話において、2018 年に Equifax に入社した Bryson 氏は、クラウドネイティブとなる旨の同社の決定は、技術的な変化であるだけでなく、文化的な変容でもあったことを強調しています。同氏は、プロセスの「最後にセキュリティを追加する」のではなく、「セキュリティを作り込む」こと、お客様との間で信頼を構築し、その変化を活用するためにお客様と協力すること、そしてクラウドが可能にしてきたイノベーションと新製品のリリース速度の驚異的な向上について語ります。
Miriam McLemore: Bryson さん、あなたの経歴と Equifax での役割について教えていただけますか?
Bryson Koehler 氏: 私は心底ギークです。8 歳のときからテクノロジーが大好きです。これまでの私のキャリアでは、企業がテクノロジーを活用してより優れた成果を実現し、それらの企業が自社のアイデンティティや事業の遂行方法を変革するのをサポートしてきました。CTO としての私の役割は、Equifax が自らのジャーニーを続けるのをサポートするために、テクノロジーや当社の製品に関して当社が世界中で行っているあらゆる活動を管理することです。
Miriam McLemore: あなたは、会社にとって厳しい時期である 2018 年に Equifax に入社しました。それについて教えてください。
Bryson Koehler 氏: 優れたエンジニアと同じように、私は難しい問題が大好きです。問題が難しいほど、情熱が高まります。私が入社したのは、当社の CEO である Mark Begor が入社した直後でした。私は、Equifax の立て直しをサポートし、お客様や消費者の皆様に、自らの最も貴重なデータを引き続き当社と共有していただけるよう、その信頼を取り戻すために同社に入社することにしました。当社はデータと意思決定のインテリジェンス企業であるため、当社によるデータの収集、保存、および利用の方法を信頼していただくことができなければ、お客様と協力して問題を解決したり、より良い意思決定を行ったりし続けることは不可能です。そこで、私はテクノロジーを利用して Equifax をその軌道に乗せるのをサポートするために入社しました。
これまでの Equifax の変革について
- プロジェクトの終了までに 25 のデータセンターを閉鎖することを目標としている中で、これまでに 12 のデータセンターを閉鎖しました。
- 100,000 名弱のお客様をクラウドに移行しました。
- 1 日あたり平均 160 から 165 の本稼働用の構築を行っています。これまでは 1 週間に 1 つ程度でした。
- 750 名を超えるエンジニアがクラウド認定を受けました。
Miriam McLemore: どのようなことが行われたのでしょうか?
Bryson Koehler 氏: 2017 年の夏、Equifax は国家主体の行為者によるデータ漏えいを経験しました。それは会社に対する非常に洗練された攻撃であり、Equifax の事業遂行方法や、テクノロジーだけでなく、文化、人、および製品についての考え方にも変革を余儀なくするものでした。
Miriam McLemore: Equifax は、内向き志向で社内に投資することができたにもかかわらず、積極的にクラウドに移行しましたね。
Bryson Koehler 氏: はい。私が入社したとき、現在のシステムにパッチを適用し、適切なレベルのメンテナンスを実行するという手順が設けられていました。それに対して、Mark や他のシニアリーダーシップチームとの協議を経た上での私の意見は、私たちは Equifax を持続可能な未来に対応できるようにするための機会を逃していたというものでした。必要な分野に投資することは 1 つの考えですが、持続可能性のために会社を整えることも考えるべきなのです。クラウドは、常に最新の状態を維持するという考え方を可能にします。いつでも最新のシステムを利用できるように、「壊してデプロイする」アプローチの意識が浸透した文化に変容させる必要があります。
必要な分野に投資することは 1 つの考えですが、持続可能性のために会社を整えることも考えるべきなのです。クラウドは、常に最新の状態を維持するという考え方を本当に可能にしてくれます」
Miriam McLemore: クラウドネイティブになることは、セキュリティ分野におけるリーダーになるという御社の目標に向けてどのように役立ちましたか?
Bryson Koehler 氏: セキュリティ分野のリーダーになるには、エンジニアリングプラクティス、プロセスの規律、反復可能なソフトウェアエンジニアリング、およびデプロイにセキュリティを組み込む必要があります。最後にセキュリティを追加することはできません。
クラウドの無限の水平スケーラビリティを活用することで、データを再考し、ベストオブブリードの暗号化とクラウドコンピューティングを利用して、データガバナンスのエンドツーエンドのビューを提供し、以前の方法では解決できなかった問題を解決できます。
このクラウドネイティブの考え方は、リフトアンドシフトではありません。ホスティングの場所をオンプレミスからクラウドに移動するだけではないのです。それは、「私たちは自らのアイデンティティについて考え、再構築する必要がある」という考え方です。 そして、当社はそれを実行したのです。平均して、1 つのアプリケーションを再構築するごとに 2 つのアプリケーションを廃止しました。これにより、12 のデータセンターをこれまでに閉鎖することができました。この考え方は、古くなったものを移動するだけでなく、排除するのにも役立ちます。
このクラウドネイティブの考え方は、リフトアンドシフトではありません。ホスティングの場所をオンプレミスからクラウドに移動するだけではないのです。それは、『私たちは自らのアイデンティティについて考え、再構築する必要がある』という考え方です」
Miriam McLemore: Equifax クラウドのある説明で、「車がレーストラックを走っても、レースカーにはなるわけではありません。また、アプリケーションをクラウドプロバイダーに配置しても、クラウドネイティブになるわけではありません」という引用を目にしたことがあります。
Bryson Koehler 氏: それは本当に罠と言えるでしょう。クラウドの利点は、常にオンになっていることです。マルチアベイラビリティーゾーンと複数のリージョンを活用し、障害を予期するエンジニアリングを組み込み、それを業務過程の一部とすることができます。古いレガシーアプリケーションは、その目的で構築されていません。リフトアンドシフトだけでは、通常、アプリケーションのパフォーマンスが低下し、コストが高くなります。クラウドネイティブの仕事をするためには、時間をかけなければなりません。
当社がクラウドジャーニーについて語るのは、クラウドに移行することと、時間と注意をクラウドネイティブジャーニーに投資することには違いがあるからです。
Miriam McLemore: あなたは、Equifax をデータ分析およびテクノロジー企業であると説明していると伺いました。それも変革ですね。
Bryson Koehler 氏: そのとおりです。当社は自らをデータと分析の企業であると考えていたので、私はその考え方にテクノロジーを追加したいと考えました。それは当社のアイデンティティを変えるものではありませんでした。当社は常にテクノロジーを有していました。それは主に文化についてでした。テクノロジー企業には異なる文化があります。これらの企業は、継続的インテグレーションと継続的デプロイについて常に考えています。それは反復的でペースの速い文化です。クラウドへの移行では、テクノロジーだけでなく人についての考慮を欠かすことはできません。あるいはテクノロジーよりも人の方が重要かもしれません。そして、テクノロジー企業のように考えることができることは、外部と同様に内部的にも重要なことでした。当社の従業員は、四半期に 1 回新製品をリリースするとは考えていません。1 日に 1 回、または 1 時間に 1 回、継続的かつ反復的にリリースすることを考えているのです。
Miriam McLemore: あなたのご説明によれば、御社がテクノロジー企業でないなら、開発中のものにおけるセキュリティについて毎日考えるのではなく、最後にセキュリティを付加する傾向があるということでしたね。そして Equifax にとって、それは信頼を取り戻す上での核心だったということですね。
Bryson Koehler 氏: まさにそのとおりです。それは単にデータを暗号化するというようなことに留まるものではないからです。データと暗号化キーの使用、それらのキーがお客様または顧客のいずれによって管理されているのか、データについてお客様を信頼しているのは誰か、お客様によるデータの利用方法を顧客が信頼しているか、といったことが関係するのです。本番環境で実行されている機械学習モデルであれ、データの対象要素を調査するデータサイエンティストであれ、それらが滞りなく浸透している必要があります。お客様は正しいデータを持っていたか? お客様はそのデータを適切に利用しているか? お客様はそのデータを適切なものと組み合わせているか?
規制は日々変化しており、データの利用とデータに関する権利に関しては複雑化の一途をたどっています。何かが変わるたびに再構築するのではなく、規制が構成そのものであるシステムを構築する必要がありました。
ほとんどのエグゼクティブはある程度技術に関する知識を有している必要があります。今日において、「私には技術に関する知識がありません」と言う人が成功することはできません。 そのようなパスはありません」
Miriam McLemore: クラウドを採用する方法はいくつもありますが、Equifax はクラウドネイティブになることを選択しました。あなたが経験した意思決定プロセスについてお聞かせいただけますか?
Bryson Koehler 氏: クラウドについて議論すべき事項はたくさんあるので、それは本当に重要なトピックだと思います。しかし、本当のところ、それは何を意味するのでしょうか? アプリケーションをホストするための別の場所としてクラウドを活用することは可能です。あるいは考え方、生き方として、クラウドを採用することもできるでしょう。特に FinTech の分野でしのぎを削っている企業、すなわち、スタートアップ、アジャイル、機敏な企業について考えると、これらの企業はクラウドネイティブとしてゼロから組織を作り上げています。
これらの企業はレガシーを持っていません。これらの企業は新旧の世界にとらわれていません。これらの企業はただ新しい時代に存在しています。そのため、私たちが機敏になることを望む場合であっても、クラウドが提供するすべてのメリットを受け入れて享受したい場合であっても、私たちはその半分も実現できません。クラウドは、アベイラビリティーゾーンまたはリージョンの概念、無限の水平スケーラビリティ、インフラストラクチャの一貫性、Infrastructure as Code として取り扱うことを可能にする機能、環境をスピンアップおよびスピンダウンすることを可能にする機能を提供します。利用状況を心配する必要はありません。私は、そうしたことは別のだれかに心配してもらうようお金を払っているのです。レガシーハイブリッドを利用している場合、インフラストラクチャの一貫性がありません。私が利用している機器には多くの世代があり、実際に最適化されるものはほとんどないでしょう。それを機能させるためにすべての時間を費やすことになります。
したがって、Equifax にとって、完全にクラウドネイティブになるために再構築するということは、当社が競争から一歩抜け出すための機会となりました。これは、当社がすべてのレガシーインフラストラクチャを本当に廃止させる機会となりました。
Miriam McLemore: 技術者として、あなたと私はそれを理解していますが、御社の他のリーダーシップのメンバーのすべてがそれらの利点のいくつかを同じように深く理解していない可能性もありますよね。テクノロジートランスフォーメーションについて、他のメンバーにはどのように伝えていますか?
Bryson Koehler 氏: 今日のほとんどの企業はテクノロジー企業であるか、少なくとも自社のことをテクノロジー企業であると考える必要があります。つまり、ほとんどのエグゼクティブはある程度技術的な知識を有している必要があります。したがって、私は、シニアリーダーシップチーム全体およびすべてのチームにおいて、技術に関する一定レベルの理解があることを確認することを自らの業務の一環と見ています。今日において、「私には技術に関する知識がありません」と言う人が成功することはできません。 そのようなパスはありません。誰もそのようなパスを取得することはできません。全員がコーディングの方法を知っている必要はありませんが、ある程度の技術的知識は必要です。その実現のためには、CIO または CTO が行うべき仕事もあります。時間を設けて、ホワイトボードに説明を書き、ビジネスリーダーが理解できる共通の言葉遣いで説明します。私たちは一丸となって働く必要があります。
ユニットのコスト管理を理解するには、財務担当者と連携する必要があります。テクノロジーへの投資は、多くの人が利用するようになれば、テクノロジーだけで機能させるよりも大きな ROI をもたらすことを理解する必要があります。したがって、CTO または CIO の役割は、経営幹部全体がクラウドネイティブとは何か、なぜそれがより優れたソリューションであるかを確実に理解するようにすることであると私は心から信じています。
Miriam McLemore: Equifax は、お客様が新製品にアクセスして活用できるようにするために、どのようなサポートを提供していますか?
Bryson Koehler 氏: 当社は、非常に技術的で詳細なアーキテクチャに関する多くの対話を通じて信頼を築きました。発表を多く行い、実証してきました。そして、場合によっては、当社に不信感を抱いていたお客様から、あらためてサポートを依頼されることもありました。お客様からリーダーとして認められるにはまだほど遠いと感じていたので、それはチームにとって本当に嬉しいことでした。現在、当社はパブリッククラウドに関して、規制が課されているデータ企業の中で、最も先進的な企業であると思います。
多くの優れた企業がクラウドを活用していますが、Equifax は、高度な規制の対象となっているデータセットを扱うグローバル企業であり、より高度な基準をクリアする必要があるため、別格であると考えています。当社は 26 か国で事業を展開しています。各国では高度な規制が定められており、技術的に対応する必要があります。しかし、その課題に対処したことで、金融サービス業界だけにとどまらず、さまざまな業界においても、クラウドは、最も困難な技術的課題を解決するための場所であるという確信を持つに至りました。
Miriam McLemore: 以前は対応が困難だったことで、現在お客様のためにできることにはどのようなものがありますか?
Bryson Koehler 氏: 残りのお客様ベースを移行したり、従来の施設を廃止したりするなど、まだやるべきことがいくつかあります。新しいものを構築するのは困難ですが、ある意味では、古いものの利用を停止するよりも簡単です。しかし、当社はそれに注力し続ける必要があります。なぜなら、チームがレガシーストアを気にする必要がなくなると、イノベーションの速度とペースが向上するというメリットがあるからです。 そして、昨年は、世界でさまざまなことが起こっているにもかかわらず、Equifax の歴史の中で最も多くの新製品をリリースしました。
昨年は、世界でさまざまなことが起こっているにもかかわらず、Equifax の歴史の中で最も多くの新製品をリリースしました。これは、クラウドが可能にするイノベーションのスピードの証左と言えるでしょう」
Miriam McLemore: そのことについてさらに詳しく教えてください。
Bryson Koehler 氏: 当社はイノベーションを起こすことができるようになりました。Equifax 全体で 1 日あたり平均 160 から 165 の本稼働用の構築を行っています。これまでは 1 週間に 1 つ程度でした。そのため、CICD (継続的インテグレーション、継続的デリバリー) パイプラインは、速度の大幅な向上を実現しています。これは、当社がリスクを低減し、お客様満足度を向上させ、安全性を維持するのに役立ちます。最新のビルドをデプロイするたびにセキュリティが向上します。後で付加するのではありません。
Miriam McLemore: レポートを取得したり、何かを機能させたりするために特定の方法を使用することに慣れている従業員もいたでしょうから、それはテクノロジーの大規模な変化であっただけでなく、文化の変容でもあったはずです。文化を変革するに際して、どのようにその有効性を高めたのでしょうか?
Bryson Koehler 氏: これはテクノロジーよりも人が重要な要素となる過程です。Amazon のようなパートナーと連携している当社は、テクノロジーを発明しているわけではありません。当社は、テクノロジーを利用し、その機能を活用する方法を発明しているのです。当社は、物事をつなぎ合わせる方法や、高度に自動化された安全な方法でテクノロジーをデプロイする方法において、そのユニークさを発揮しています。しかし、当社ではテクノロジーを発明する必要がないので、人に関係する事柄にもっと注意を払うことができます。変革のピーク時には、世界中に 8,500 名を超える FTE と請負業者に業務を依頼していました。これらの人々は、当社が目的に向かって進むのを支えてくれます。そのため、当社はエンジニアリングハンドブックを作成しました。これは、テクノロジーとプロセスに関するバイブルのようなものです。
そして、当社のために働くすべての人がこれを読みます。当社はそのハンドブックの内容についてテストを実施し、それに従って事業を運営していることを確認します。当社は、チームがどの程度そのハンドブックに従って業務を遂行しているのかを自ら評価します。現在、Equifax には 750 名を超えるクラウド認定エンジニアがいます。そして、当社ではチームの大部分を刷新したため、過去にこれを経験したことがある人が、これまで経験したことがない人に教えるようにしました。
リーダーとして、私は 3 つのことを希望しています。第一に、あなたに自分のしていることを大好きになってもらいたい。第二に、あなたが成功するためのサポートをしたい。そして、第三に、あなたをより魅力的な人材にしたい。より魅力的な人材にするということには、スキルを教えることも含みます。そして、クラウドのスキルは技術的なスキルだけではありません。働き方も含まれているのです。
これはテクノロジーよりも人が重要な要素となる過程です。Amazon のようなパートナーと連携している当社は、テクノロジーを発明しているわけではありません。当社は、テクノロジーを利用し、その機能を活用する方法を発明しているのです」