生成 AI x クラウドがもたらす次世代のイノベーション !
AWS Summit Japan Day1 基調講演をグラレコで解説
Author : 米倉 裕基 (監修 : 中村 誠子, 小林 洋平, 川島 拓海)
日本の生成 AI 活用を支援 - 生成 AI がもたらす利点、最新アップデート、実装解説、日本の事例を学ぶ
builders.flash 読者のみなさん、こんにちは! テクニカルライターの米倉裕基と申します。
6 月 20 日 (木)、21 日 (金) の 2 日間、日本最大の「AWS を学ぶイベント」AWS Summit Japan が開催されました。オンライン視聴を含め、延べ 50,000 人を超える多くの方々にご参加いただいた大規模なサミットとなりました。AWS および Amazon のエグゼクティブリーダーや業界をリードするパートナー企業による基調講演、150 を超えるブレイクアウトセッション、260 を超える展示ブースが設けられ、最新の AWS のテクノロジーに触れる絶好の機会となりました。
2024 年の AWS Summit Japan では、次世代を切り拓くキーテクノロジーとして特に「生成 AI」が大きく取り上げられ、基調講演をはじめ、多数のセッションや展示ブースで 生成 AI 関連のサービスやソリューションが紹介されました。
本記事では、Day 1 基調講演の模様を 生成 AI に焦点を当てて振り返ります。Day 1 の基調講演を見逃した方も、生成 AI とクラウドがもたらす新たなイノベーションの可能性を感じ取っていただければ幸いです。
- クラウドが切り拓く「生成 AI」の未来 - マット ガーマン
- 日本への投資と「生成 AI」の普及 - ハイミ バレス
- 善のためのテクノロジーと社会貢献 - ヴァーナー ボーガス
- 「生成 AI」のビジネス活用に向けたサポート体制 - 恒松幹彦
- AI の進化と責任ある AI への挑戦 - ジャレッド カプラン氏
- 「生成 AI」の民主化と社内活用 - 小寺 剛 氏
- 月面探査プロジェクトにおける AWS 活用 - ウッドハム ジュニア ダン ラマー 氏
それでは、項目ごとに詳しく見ていきましょう。
クラウドが切り拓く「生成 AI」の未来
マット ガーマン (Amazon Web Services, Inc. 最高経営責任者 (CEO))
AWS Summit Japan 2024 の開始を告げたのは、AWS の最高経営責任者マット ガーマンでした。ビデオメッセージによる登壇で、生成 AI とクラウドの融合が切り拓く未来への熱い思いを力強く語りました。
日本への投資と生成 AI の重要性
ガーマン氏は冒頭で、日本が AWS にとって長年の中心的な存在であり続けていることを強調しました。今回の 2 兆 2,600 億円に上る国内クラウドインフラ投資は、日本のデジタルエコノミー実現を全力で後押しするためだと宣言し、生成 AI をはじめとする革新的テクノロジーを日本のお客様に早期に提供していく考えを示しています。
画像をクリックすると拡大します
ガーマン氏は、生成 AI は企業のビジネスプロセスを変革し、新サービスの創出にもつながる可能性を秘めていると述べると同時に、生成 AI を本格活用するにはクラウド基盤が不可欠であることを強調します。
クラウドとの融合で広がる可能性
生成 AI モデルの構築や運用には膨大な計算リソースが求められます。クラウドであればそうした要求を柔軟に対応でき、必要に応じてリソースを拡張できます。クラウドの力なくして 生成 AI の発展はあり得ません。加えて、クラウド上でデータレイクを構築すれば、あらゆるデータを統合的に管理できます。そして AI サービスを活用することで、高品質な学習データを用意できるでしょう。
ガーマン氏は、生成 AI とクラウドが密接に関係しながら新たな価値創造の可能性を切り拓いていくと説いています。さらに、お客様の革新的な取り組み事例に触れられることをエキサイティングだと紹介し、本サミットでは導入事例や次世代のテクノロジートレンド、生成 AI とクラウドで新たな事業価値を実現する方法などを詳しく取り上げる予定だと意気込みを見せました。
そして最後に、日本のテクノロジー業界に対する熱い言葉で日本の聴衆の期待を盛り上げています。
AWS の 生成 AI x クラウドによるビジネスイノベーションについて詳しくは、「生成 AI でビジネスを変革」をご覧ください。
日本への投資と「生成 AI」の普及
ハイミ バレス (Amazon Web Services Inc. APJ バイスプレジデント兼日本マネージングディレクター)
ハイミ バレスは講演の冒頭で、AWS Summit Japan が今年で 13 回目を迎え、登録者数が 50,000 人を超えたことに触れ、日本へのコミットメントを重視している点を強調しました。
日本へのコミットメント
2011 年に東京リージョン、2021 年に大阪リージョンを開設したことに加え、昨年は米国に次いで 2 か国目として Amazon Bedrock を日本に立ち上げたことを説明します。
画像をクリックすると拡大します
バレス氏は、2027 年までに 2 兆 2,600 億円を投資し、日本のクラウドインフラを整備し、お客様のイノベーションを促進する方針を明らかにしました。特に、今後有望視される 生成 AI の分野において、日本への投資を重点的に行う考えを示しました。
AWS Summit Japan 2024 について
バレス氏は、AWS Summit Japan 2024 は 生成 AI にかかわる学びと交流の機会が満載であると紹介しました。多数のスポンサー企業の支援を受け、多くのセッションと展示ブースが用意されています。
- 150 以上のブレイクアウトセッション
- 260 の展示ブース
- 119 社のスポンサー企業
バレス氏は「この AWS Summit Japan 2024 の 2 日間では、基調講演、ユースケース、ゲストスピーカーなどを通じて、AWS の 生成 AI 戦略や最新動向を知ることができる絶好の機会となるでしょう」と述べ、生成 AI の重要性を改めてアピールしています。
ガーマン氏のビデオメッセージに加え、バレス氏のメッセージからも、AWS が日本の成長を確信しており、特に 生成 AI の分野で積極的な投資を行い、お客様のイノベーションをサポートしていく姿勢が伝わります。生成 AI の普及に向けた取り組みが、今後さらに加速していくことが予見される内容になっていました。
AWS による国内クラウドインフラへの継続的な投資については、「AWS、日本への 2 兆 2,600 億円の投資計画を発表 2027 年までに国内クラウドインフラに継続投資」をご覧ください。
善のためのテクノロジーと社会貢献
ヴァーナー ボーガス (Amazon.com, Inc. 最高技術責任者 (CTO) 兼バイスプレジデント)
次に登壇したのは、Amazon.com の CTO を務めるヴァーナー ボーガスです。ボーガス氏の講演全体を貫くテーマは、以下の発言に集約されています。
社会問題を解決するためにこそテクノロジーが不可欠であり、今日飛躍的な発展を遂げている AI はその有力な候補となり得るテクノロジーです。生成 AI などの最新のテクノロジーにかかわる技術者は、同時にそれが善のために活用されることを見守る責任を負っています。
AI の歴史的背景
ボーガス氏は、人工知能 (AI) の歴史に触れ、当初のアプローチには限界がありましたが、その後の技術革新によって AI は飛躍的な進化を遂げてきたと説明しました。
- 3000 年以上前:ソクラテス、プラトン、アリストテレスの時代から、すでに人間の脳を機械でエミュレートすれば人間の能力を発揮できるのではないかと考えられていた。プラトンは人型ロボットが家事をする世界を想像。
- 1930 - 40 年代:最初のコンピューターが登場し、人間の脳の信号操作を実現。アラン・チューリングが「機械は思考できるのか」と問い、チューリングテストを提唱。
- 1956 年:ダートマス会議で、ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキーといった科学者が集まり、初めて「人工知能(AI)」という言葉が使われた。
- 1960 - 80 年代:ルールベースのエキスパートシステムなど初期の AI アプローチが登場するが、スケール面で限界があった。
ボーガス氏が AI 関連のテクノロジーに携わり始めた当初は、ルールベースのエキスパートシステムなどのアプローチが主流でしたが、ルール数が増すにつれスケール面における限界に直面しました。しかし、その後ロボット工学の発展により人間の感覚器官をエミュレートする試みが行われ、現在の音声認識や画像認識の技術につながりました。さらに深層学習、強化学習、教師なし学習、などの登場により、AI テクノロジーは飛躍的な発展を遂げています。近年の大規模言語モデル (LLM) を用いた 生成 AI は、AI の進化の 1 つの到達点と言えるまでにいたりました。
AI の発展とテクノロジーの社会貢献
AI の発展の歴史を紐解いた上で、ボーガス氏は、画像認識、予測、検索、レコメンデーションなど、今や日常的に使われているテクノロジーの多くが、かつては「AI」と呼ばれていた事実を指摘しました。これらの従来の AI テクノロジーは、今日では以下のような分野で現実的に社会課題解決に活用されている実例を紹介しました。
画像をクリックすると拡大します
分野 | 企業/組織 | 取り組み内容 |
食料生産 | 国際米研究所 (IRRI) | 種子の選別や最適な肥料量の算出に AI を活用。ゴールデンライス (ビタミン A 強化米) の開発にも取り組む。 |
精密農業 | ヤンマー | 温室内の個々の作物の成長を最適化する AI システムを導入。収量と品質の向上を図る。 |
農地調査 | HARA | 小規模農家にデジタル ID を付与し、農地面積や収穫データを収集。金融機関への信用力向上につなげる。 |
診断支援 | スウェーデン公共医療 | 乳がん検査の画像診断支援に AI を活用。放射線科医よりも高い精度で危険を察知できる。 |
予防医療 | dr.consulta | AI で医療記録分析し、疾患予防医療に活用。低所得者向けのジェネリック医薬品提供にも取り組む。 |
災害支援 | OpenStreetMap | 人道的プロジェクトとして被災地の地図データを提供。支援物資の配送や被災者の救助に役立てられる。 |
環境保護 | Digital Earth Africa | アフリカ大陸の詳細な地理データを提供。AI を活用して森林破壊監視や違法採掘の道路検知などを実施。 |
児童虐待対策 | Thorn | 画像認識などの AI を活用し、児童の性的虐待コンテンツや未成年をグルーミングする会話を検知するプラットフォームを提供。 |
かつて「AI」と呼ばれていたテクノロジーが、現在では生活に溶け込んで当たり前のものとなったように、生成 AI も将来的には私たちの生活の基盤を支える存在になるでしょう。ただ、テクノロジーが社会に浸透していく過程で、技術者が忘れてはならないのは、それがより良い社会のためのテクノロジーなのかを今一度問い直すことであることをボーガス氏は強調します。
ボーガス氏による世界各地のテクノロジーを巡る旅を追った「Now Go Build - ヴァーナー・ボーガスと巡る旅」シリーズは、YouTube の AWS 公式チャンネル や Prime Video でも視聴できます。
「生成 AI」のビジネス活用に向けたサポート体制
恒松 幹彦 (アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員)
次に登壇したのは、AWS Japan の執行役員である恒松 幹彦です。恒松氏は、生成 AI がビジネスプロセスの変革や新サービス創出など、企業のイノベーションを大きく後押しする可能性を秘めていると指摘しました。
しかし、その一方で、生成 AI の可能性を最大限に引き出すには、クラウドの高い計算能力とスケーラビリティが不可欠であることも強調しています。
画像をクリックすると拡大します
恒松氏は、クラウド上でデータレイクを構築すれば、あらゆるデータを統合的に管理できるとし、AWS の AI サービスを活用することで、高品質な学習データを用意できると説きます。
3 層構造の生成 AI テクノロジースタック
AWS では、LLM と基盤モデルのトレーニングと推論に最適化されたインフラストラクチャ、アプリケーション構築のためのツール、LLM と基盤モデルを活用するアプリケーションの3 層構造で、総合的に 生成 AI のテクノロジーを支援しています。
レイヤー | 内容 |
ツール | Amazon Bedrock で Amazon Titan ファミリーを含む 31 種類を超える基盤モデルに単一の GUI でアクセス可能。また、画像生成では著作権を意識した業界初の電子透かし機能を搭載。 |
アプリケーション | Amazon Q Business で AI アシスタントを構築し、社内データや規定に基づく適切な回答を実現。Amazon Q Developer ではクラウドサービスの選定や開発支援。Amazon Q と Amazon Connect や Amazon QuickSight の統合により既存のクラウドサービスの利便性が向上。 |
インフラストラクチャ | AI に特化した GPU などの高性能コンピューティングリソースの提供。AWS Trainium (トレーニング向け)、AWS Inferentia (推論向け) の専用チップの提供。 |
AWS ではすでに厳選された 31 種類の基盤モデルを準備し、生成 AI が組み込まれたサービスの数は 28 にもおよびます。また、2024 年に入ってからの 生成 AI 関連サービスの機能アップデートは 75 回に至り、生成 AI 領域の進化は目覚ましい速度で続いています。
恒松氏は講演の中で、アジアパシフィック (東京) リージョンで 7 月から「Claude 3」を、同じくアジアパシフィック (東京) リージョンで Amazon Q Business および日本語版を年内に提供開始する予定であることを発表しました。また、AWS Summit Japan 2024 期間中には、Anthropic 社の Claude ファミリー最新モデルである「Claude 3.5 Sonnet」が米国東部 (バージニア北部) リージョンにて提供を開始しています。
AI 人材育成の重視
恒松氏は、生成 AI 導入に伴う文化的変化への対応や、AI 人材の育成も重要だと説き、AWS のコミュニティやベストプラクティスを活用しながら、お客様に合ったアプローチを提案していく考えを示しました。
AI 人材のスキル証明のために、新たに以下の 2 つの AWS 認定資格が 8 月から開始します。
- AWS Certified AI Practitioner (AIF):
AI、ML、データ分析のコンセプトについての基礎知識を持ち、ビジネスニーズに対応したソリューション構築に活用できることを証明する基礎レベルの資格です。 - AWS Certified Machine Learning Engineer - Associate (MLA):
AI/ML のモデル構築、トレーニング、デプロイに関する技術的かつ実践的な知識を持ち、機械学習ワークフローの実装とオペレーションを行う能力を示す資格です。
また、新たに 生成 AI 実用化推進プログラム (詳細は近日公開) の提供と AWS IT トランスフォーメーションパッケージ ファミリー (ITX) に 生成 AI 活用と公共機関のデータ移行に関わる新パッケージ を追加し、お客様の 生成 AI の実用化に向けた本格的な支援体制を整えていくことを宣言しました。
恒松氏は、AWS における 生成 AI へのお客様支援への決意を力強く述べ、講演を締めくくりました。
AWS はすでに多様な業界のお客様に 生成 AI に関わるソリューションを提供しています。生成 AI ソリューションのお客様事例について詳しくは、「生成 AI のお客様事例」をご覧ください。
AI の進化と責任ある AI への挑戦
ジャレッド カプラン氏 (Anthropic (アンソロピック) 共同創設者 兼 チーフサイエンティスト)
次に登壇したのは、Anthropic の共同創設者であるジャレッド カプラン氏です。カプラン氏は、AI の急速な進化と信頼のおける 生成 AI 開発について自身の見解を述べました。
AI の急速な進化
カプラン氏は、AI の進化における「より高い演算能力があれば、AI の知能を予測的に向上させることができる」という原則に基づき、以下の見解を述べます。
通常、新しいテクノロジーは試作期、拡張期、成熟期を経て徐々に進化しますが、カプラン氏にとって AI はその例に当てはまらないと指摘します。AI は一旦拡張期に入ると従来のテクノロジーよりもはるかに急速に進化を続け、大半のナレッジワークの生産性を 10 倍以上向上させるまでに成長する可能性があるとの見方を示しました。
このような AI の加速度的な進化に注目が集まる一方で、カプラン氏は「生成 AI の革新的な可能性をいかにして安全かつ責任ある形で提供できるか」が極めて重要な課題であることを強調します。
画像をクリックすると拡大します
責任ある AI 開発への取り組み
Anthropic 社は 4 年前から、AI の安全性を担保し研究する企業として、信頼性が高く最も高度な AI システムの構築を目指してきました。その取り組みの 1 つが「Constitutional AI (憲法 AI)」です。AI モデルの学習時に、あらかじめ設定された原則や価値観に基づく損失関数を組み込むことで、AI は特定のルール「憲法」に従った振る舞いを身につけるようになります。
カプラン氏によると、Anthropic 社は責任あるスケーリングポリシーを持つ初の AI 企業となり、AI のリスクが自らの能力を超えて発生する前に、それらを評価、管理、予防するフレームワークを構築します。また、ブラックボックスになりがちなモデル内部の推論の「解釈可能性」への投資や、セキュリティ面での配慮なども行っていると主張します。
恒松氏の講演でも言及があったように、Anthropic 社の 生成 AI モデル「Claude」は、AWS のクラウドサービス「Amazon Bedrock」上で提供されています。カプラン氏は、AWS との提携により、信頼性の高いクラウド環境で「Claude」をプライベートかつセキュアに展開でき、生成 AI をより安全に利用できるとしています。
カプラン氏は、AI モデルのインテリジェンス、スピード、コストが今後も加速度的に改善することを予見し、聴衆に今すぐにでも AI 事業への参入を促すことで講演を締めくくりました。Anthropic 社の AI の高性能かつ責任ある AI への取り組みと、AWS の信頼性の高いクラウドインフラを組み合わせることで、最先端の AI ソリューション開発が実現できることを示す、非常に示唆に富んだ講演でした。
Amazon Bedrock 上での Claude の利用について詳しくは、公式サイトの「Amazon Bedrock での Anthropic の Claude」をご覧ください。
「生成 AI」の民主化と社内活用
小寺 剛氏 (ソニーグループ株式会社 常務 CDO 兼 CIO)
次に登壇したのは、ソニーグループの常務 CDO 兼 CIO を務める小寺剛氏です。小寺氏はまず、ソニーグループのパーパス (存在意義) として「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことを掲げていると前置きし、そのパーパスを実現するために 生成 AI に期待する役割を説きます。
クリエイティビティとテクノロジーの融合
ゲーム、音楽、映画、エレクトロニクス、半導体、金融と多様な事業を展開するソニーグループにとって、お客様やクリエイター、パートナーなどの「人に近づく」テクノロジーの活用が重要な経営方針となっています。そして小寺氏は、生成 AI の活用こそが、この方針の実現に大きく貢献するという見解を述べています。
ソニーグループでは、すでにディープラーニング (深層学習) などの AI 技術を製品やサービス、オペレーションに導入していますが、お客様やクリエイターにさらなる価値を提供するために 生成 AI の活用が不可欠だとの考えを小寺氏は説きます。また社外だけでなく社内でも 生成 AI の活用を推進しており、社内専用の 生成 AI 環境「Enterprise LLM」を展開し、現在日本とアメリカで 18,000 人を超える社員がアクティブユーザーとなっています。
画像をクリックすると拡大します
このように、ソニーグループでは内製の「Enterprise LLM」を活用し、社員全員が安全性を担保しつつ、自身のタスクに適した LLM を利用できる 生成 AI の民主化を実現しています。
Amazon Bedrock で LLM を『使い倒す』
進化の速い多様な LLM を適切に活用するには、状況に応じた良いモデルを使い分け、社員一人ひとりが多くの LLM を『使い倒す』ことが何より重要だと小寺氏は説きます。
そのためには、自社の強みとなる分野には徹底的にこだわりながらも、他社との連携を積極的に図る柔軟さが不可欠です。この点において、AWS が提供する Amazon Bedrock は、複数のクラウドや基盤モデルを柔軟に組み合わせて利用できる環境を実現しており、ソニーグループの思想と合致していると小寺氏は評価します。
最後に小寺氏は、お客様とクリエイターとのエンゲージメント強化、シームレスな連携、サービス拡充、エンターテイメントコミュニティの成長に貢献していく方針を示しました。そのために、データ活用や 生成 AI などの技術を『使い倒し』、この方針の実現に向けて AWS とともに推進していく決意を披露し講演を締めくくりました。
その他、AWS を活用しているソニーグループ各社のお客様事例について詳しくは、「お客様事例」をご覧ください。
月面探査プロジェクトにおける AWS 活用
ウッドハム ジュニア ダン ラマー氏 (株式会社 ispace Director of Information Security and Global IT)
基調講演の最後に登壇したのは、 「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す」宇宙スタートアップ企業 ispace のウッドハム ジュニア ダン ラマー氏です。ispace 社は、月面を含む宇宙空間での産業革命を目指す民間宇宙開発企業です。
ラマー氏によると、月には地球の 6 分の 1 の重力しかなく、月面に存在する水は容易に蒸発してしまうため、月面で水資源を確保することは極めて重要です。
幸いなことに、月の極域には水氷が存在することが確認されており、ispace 社はこの月極域の水氷の分布を詳しく調査し、その利用方法を調査しています。この月面の水氷から水資源を確保できれば、将来の月面活動に不可欠な飲料水や、機械の冷却システム、さらには燃料や酸素の製造原料としても活用できるはずです。
画像をクリックすると拡大します
ispace の 3 つの核
ispace 社は、月面の水資源の確保以外に、「ペイロードサービス」、「データサービス」、「パートナーシップサービス」の 3 つをビジネスの中核としています。
- ペイロードサービス:
月面への貨物輸送サービス。顧客の探査機や実験装置などを月着陸機に搭載して月面に運搬する。 - データサービス:
月面での高解像度の映像や測定データを取得し、顧客に提供するサービス。月面の詳細な地形データや資源分布などを提供する。 - パートナーシップサービス:
ispace のランダーおよびローバーにスポンサーのロゴを掲載。月面探査に関する技術開発や事業化において、他社・機関とのパートナーシップを提供する。
これらのビジネスを実行するためには、高性能なコンピューティングリソースとデータ処理機能、そして柔軟なスケーリング性能が必要不可欠だと言います。
AWS のスケーラビリティが月面探査を支える
ラマー氏は、ispace 社の月面探査プロジェクトでは、ミッション 計画に合わせて IT リソースに対するニーズが大きく変動するため、リソースを柔軟に拡張できる AWS のスケーラビリティが適していると述べます。
ラマー氏によると、具体的に以下のように AWS のサービスを活用し、ミッションコントロールセンター (管制室) の運用効率とセキュリティを最大化しました。
- AWS Control Tower を活用した包括的なガバナンス、セキュリティ、コンプライアンスを確保
- 宇宙ミッションコントロールのプロフェッショナルサービス による AWS のエキスパートエンジニアの迅速なサポート
- AWS の ゼロトラストアプローチ による ispace とのスムーズなネットワーク統合
- ミッションコントロールセンター (管制室) を AWS 上に移行。今後 サーバーレス や データレイク などを組み込んだシステム構成に移行を予定
ispace 社は日本の本社に加え、アメリカとルクセンブルクにもオフィスを構えています。そのため、ラマー氏は AWS のソリューションが各国のレギュレーションにも対応可能という点も重視しています。AWS のスケーラブルかつグローバルに展開されたクラウドインフラストラクチャが、ispace 社の月面探査プロジェクトを強力に支援する原動力となっていることがわかります。
AWS は生成 AI だけでなく、社会や地球のために活動するお客様を支援する一環として未来に向けた活動にも力を入れています。その中で、ラマー氏のセッションは月面探査プロジェクトという壮大かつ最先端のプロジェクトにおいても、AWS のテクノロジーが広く活用されていることを示す貴重な事例となりました。AWS のイノベーションを支える力は、AI に限らず様々な最先端分野で発揮されていくことがわかります。
ispace 社のサービス内容について詳しくは、ispace 公式サイト をご覧ください。
まとめ
最後に、本記事で紹介した基調講演の全体図を見てみましょう。
画像をクリックすると拡大します
AWS と先進的な取り組みを行うテクノロジー企業による「生成 AI」への高まる期待と、その実現に向けた強力な取り組みが AWS Summit Japan 2024 Day1 の基調講演全体を貫いていました。
生成 AI の可能性を最大限に引き出すには、最高品質のコンピューティングリソースと柔軟なスケーラビリティが不可欠です。また、サービス提供者側は性能面ばかりでなく、生成 AI が生み出しうるリスクについても正しく把握し、責任ある AI の提供を行う義務を持ちます。AWS は今後もインフラストラクチャ、ツール、アプリケーションの 3 層構造で 生成 AI の加速度的な進化を支える強固かつ安全な基盤を提供し続けます。AWS とともに、生成 AI × クラウドが切り拓く新たなイノベーションを共に歩んでいきましょう。
本記事では、AWS Summit Japan 2024 の Day1 の基調講演を特集しましたが、AWS における生成 AI をこれから学習・検証したいとお考えの方は、ぜひ「日本の生成 AI 活用を支援」のコンテンツハブをご覧ください ! 今お探しのコンテンツがきっと見つかるでしょう。
また、 「Developers on Live」は開発者に向けたより実践的な AWS サービスの活用方法やベストプラクティスを学ぶ内容となっています。アーカイブ視聴可能ですので、AWS サービスのよりテクニカルな側面に興味がある方はぜひご覧ください。
AWS グラレコ解説のその他の記事はこちら
- 選択
- 今話題のブロックチェーンをAWSで実現する仕組みをグラレコで解説 »
- サーバーレスって何が便利なの ? AWS でサーバーレスを構築するためのサービスをグラレコで解説 »
- 機械学習のワークフローってどうなっているの ? AWS の機械学習サービスをグラレコで解説 »
- 外部から AWS のバックエンドサービス利用を実現する仕組みをグラレコで解説 »
- AWS でデプロイの自動化を実現するベストプラクティスをグラレコで解説 »
- コンテナを使ってモノリスを分割する方法をグラレコで解説 »
- クラウドへ移行する理由とそのステップをグラレコで解説 »
- Windows ワークロードをクラウドへ移行するためのベストプラクティスをグラレコで解説 »
- サーバーレスのイベントバスって何 ? Amazon EventBridge をグラレコで解説 »
- サーバーレスで SaaS を構築する方法をグラレコで解説 »
- 「あなたへのおすすめ」はどう生成するの ? Amazon Personalize で簡単に実現する方法をグラレコで解説 »
- クラウド設計・運用のベストプラクティス集「AWS Well-Architectedフレームワーク」をグラレコで解説 »
- 特定の顧客セグメントにメッセージ送信。「Amazon Pinpoint」の仕組みをグラレコで解説 »
- アプリにユーザー認証機能を簡単に追加できる「Amazon Cognito」をグラレコで解説 »
- わずか数分で WordPress サイトを構築できる「Amazon Lightsail」をグラレコで解説 »
- 異なるアプリケーション同士の疎結合を実現。「Amazon SQS」をグラレコで解説 »
- Web アプリを高速に開発できる「AWS Amplify」をグラレコで解説 »
- 機械学習の知識ゼロでもテキストデータを分析。Amazon Comprehend をグラレコで解説 »
- ビジネスデータをまとめて可視化 & 分析。Amazon QuickSight をグラレコで解説
- 人工衛星の地上局を 1 分単位で利用。AWS Ground Station をグラレコで解説
- カオスエンジニアリングで本当にカオスにならないための進め方をグラレコで解説
- GraphQL API を簡単に作成 & 運用。AWS AppSync をグラレコで解説
- IoT 環境を必要な機能を選択するだけで構築。AWS IoT をグラレコで解説
- 高い可用性と耐久性のオブジェクトストレージ。Amazon S3 をグラレコで解説
- サーバーレスでイベント駆動型アプリケーションを実現。AWS Lambda をグラレコで解説
- データサイエンス教育の強い味方。Amazon SageMaker Studio Lab をグラレコで解説
- 高速で柔軟な NoSQL データベースサービス。Amazon DynamoDB をグラレコで解説
- リレーショナルデータベースを簡単・迅速に実現。Amazon RDS をグラレコで解説
- アプリのワークフローを視覚的に構成。 AWS Step Functions をグラレコで解説
- データ保護に使う暗号化キーを一元管理。AWS KMS をグラレコで解説
- アプリケーションへのトラフィックを効率的に負荷分散。Application Load Balancer をグラレコで解説
- AWS で簡単にコンテナアプリケーションを構築 ! Amazon ECS をグラレコで解説
- 大規模データセットも簡単クエリ! Amazon Athena をグラレコで解説
- キャッシュ機能でアプリの高速化を実現 ! Amazon ElastiCache をグラレコで解説
- 使い慣れたプログラミング言語でクラウド環境を構築 ! AWS CDK をグラレコで解説
- ストリーミングデータを簡単にキャプチャ、処理、保存 ! Amazon Kinesis Data Streams をグラレコで解説
- AWS で始める機械学習はじめの一歩 ! AWS の主要な AI/ML サービスをグラレコで解説
- リレーショナルデータベースをサーバーレス化 ! Amazon Aurora Serverless をグラレコで解説
- ML 駆動の検索エンジンで企業の情報管理を革新! Amazon Kendra をグラレコで解説
- オンプレミス、エッジ、どこでも楽々コンテナ管理 ! Amazon EKS Anywhere をグラレコで解説
- 生成 AI アプリケーション開発をもっと身近に、簡単に ! Amazon Bedrock をグラレコで解説
- わずか数クリックで多様な脅威を監視しクラウドを保護 ! 脅威検出サービス Amazon GuardDuty をグラレコで解説
- データの改ざん耐性と変更履歴の検証可能性を実現 ! 台帳データベース Amazon QLDB をグラレコで解説
- 生成 AI x クラウドがもたらす次世代のイノベーション ! AWS Summit Japan Day 1 基調講演をグラレコで解説
- ビジネス向け生成 AI アシスタント Amazon Q Business をグラレコで解説
- 生成 AI コーディングアシスタント Amazon Q Developer をグラレコで解説
- フロントエンドとバックエンドを統合開発 ! フルスタック TypeScript 開発環境 AWS Amplify Gen 2 をグラレコで解説
筆者プロフィール
米倉 裕基
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
テクニカルライター・イラストレーター
日英テクニカルライター・イラストレーター・ドキュメントエンジニアとして、各種エンジニア向け技術文書の制作を行ってきました。
趣味は娘に隠れてホラーゲームをプレイすることと、暗号通貨自動取引ボットの開発です。
現在、AWS や機械学習、ブロックチェーン関連の資格取得に向け勉強中です。
監修者プロフィール
中村 誠子
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロダクトマーケティングマネージャー
生成 AI をはじめとした AWS が提供するサービスや AWS Summit Japan 基調講演における日本のお客様に向けたマーケティングメッセージ、ストーリー設計を行っています。
趣味は家族や友達と食事に出かけること、旅行、テニスやスキーです。
小林 洋平
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
デジタルコンテンツマネージャー
マーケティング統括本部で、日本のお客様のコンテンツエクスペリエンス向上に取り組んでいます。
世界遺産、博物館、水族館を巡るのが趣味。
川島 拓海
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
ソリューションアーキテクト
2022 年 4 月に入社したソリューションアーキテクトです。食べることが大好きです。あと、ちょっとだけお笑いが好きです。
AWS を無料でお試しいただけます