AWS Startup ブログ

Amazon Bedrock で文書作成・管理をサポート。AI による新機能を実現したスタディスト社の事例

株式会社スタディストが開発・提供する「Teachme Biz」は、手順書の作成・共有・管理を簡単 & シンプルにし、企業の生産性向上を実現するサービスです。2023 年 5 月より「Teachme Biz」では、AI でマニュアルの作成をサポートする新機能として「AI アシストプラス(β 版)」を提供、2024 年 6 月には正式版として「Teachme AI」をリリースしました。

スタディスト社ではこの機能を実現するために、高パフォーマンスな基盤モデルを利用できるフルマネージド型サービス Amazon Bedrock を採用しています。加えて、AWS の機械学習サービスである Amazon TranscribeAmazon Kendra も活用しながらプロダクトの品質を高めているのです。

今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの植本 宰壮とシニアソリューションアーキテクトの柳 佳音が、スタディスト 開発本部 Teachme Bizエンジニアリング部 プロダクト技術責任者 長谷川 和樹 氏と SRE ユニット 若松 晃洋 氏にお話を伺いました。

かつては他社製の AI サービスを使うも、複数の課題が発生

植本:新機能である「Teachme AI」の開発経緯についてお聞かせください。

長谷川:2023 年の時点で、私が社内のメンバーに向けて「これからは、生成 AI が社会で当たり前に使われる可能性が高い。顧客価値につながるかどうか、検証をしましょう」と呼びかけ、研究・開発のプロジェクトが発足しました。今回リリースした「Teachme AI」は、技術検証を進めた結果として、お客さまに価値を提供できそうなものを機能として販売しています。

第 1 弾としてリリースした「マニュアルドラフト生成機能」は、マニュアル化したい業務・作業に関するキーワードを指定すると、ステップ構造化されたマニュアルのドラフトを自動的に生成します。さらにその後は、文章の校正機能や動画から字幕を自動で生成する機能をリリースしました。

植本:もともとは、Amazon Bedrock ではなく他社製の AI 関連マネージドサービスを利用されていたと伺っています。

長谷川:検証を進めていた当時はまだ Amazon Bedrock が一般提供されておらず、他のクラウドサービスにあるマネージドサービスの API を使用していました。しかし、セキュリティと運用の観点から課題が生じていたのです。そのサービスでは、LLM に投入したプロンプトデータが 30 日間保管されてしまうだけでなく、海外リージョンのモデルを使っている場合に、そのログが海外リージョンに保管されてしまう仕様となっていました。ログが保存されないように何度も申請を出しましたが、数ヶ月も否決され続けるという状況になっていました。また、複数のクラウドを利用しているとセキュリティガイドライン作成の負担が大きくなることから、アプリケーションのインフラとして全面採用している AWS に集約した方が運用観点で効率的だと判断しました。

Amazon Bedrock への移行はわずか 1 週間で完了

柳:そうした経緯もあり、Amazon Bedrock への移行を考えたのですね。

若松:はい。普段から AWS の最新情報をキャッチアップしていますので、Amazon Bedrock が 2023 年 10 月に一般提供されたことを知りました。その後、AWS から Amazon Bedrock Prototyping Camp にお誘いいただいて、実際に Amazon Bedrock を使用したことをきっかけに移行する選択肢として考え始めたのです。

若松氏による Amazon Bedrock Prototyping Camp 参加レポート
https://studist.tech/amazon-bedrock-prototyping-camp-40ec9b0b3b58

植本:若松さんは、AWS の認定資格を全冠(12 冠)獲得されています。AWS のサービスについて積極的に学ばれていますし、スタディスト社は生成 AI を用いての研究・開発にかなり注力されてきました。そうした理由もあり、きっと Amazon Bedrock に興味を持ってくださるのではないかと思い、お声掛けしました。

柳:あのイベントは、Amazon Bedrock がリリースされてから初めて実施したオフラインイベントでした。私たちとしてもこれから Amazon Bedrock を広めていきたいというタイミングでしたので、ご参加いただきサービスの可能性を感じてくださったことを、非常にうれしく思います。

スタディスト 開発本部 Teachme Bizエンジニアリング部 プロダクト技術責任者 長谷川 和樹 氏(写真左)、SRE ユニット 若松 晃洋 氏(写真右)

若松:イベント内で、実サービスにおけるユースケースをソリューションアーキテクトに相談できたため、利用のイメージがかなり湧きました。その後、大規模言語モデルの Claude 2.1 が出たタイミングで、「生成の精度も高いので、移行しよう」と決断しました。

長谷川:AWS は各サービスの SDK を公開していますが、Amazon Bedrock に関しても SDK が用意されているため簡単に扱えます。それがあったからこそ、移行作業もかなり容易でした。移行に際して、アプリケーションコードの書き換えにかかった時間はわずか 1 営業日です。レビューやインフラの変更などの工数を含めても、全作業が 1 週間くらいで済みました。

また、Amazon Bedrock への移行により複数の利点が生じました。ログを保存する・しないを選択できるようになったことで、海外リージョンを使っていてもログの保存を無効にすれば、海外にデータが保存されなくなったこと。複数クラウドを運用する負荷や学習コストが無くなったこと。そして、他社製のサービスを用いていた際には、システムの負荷が高くて使えない時間帯が数多くありましたが、Amazon Bedrock に移行してからはそうしたことがなくなりました。

柳:Amazon Bedrock 以外にも、AWS の機械学習サービスとして音声をテキストに変換する Amazon Transcribe や機械学習を活用した検索システムサービス Amazon Kendra などもご活用くださっているそうですね。

長谷川:お客さまから寄せられている要望として「動画の字幕を自動的に書き起こしてほしい」という声がありました。そこで、生成 AI の検証プロジェクトが動き出したタイミングで Amazon Transcribe の検証も開始し、将来的には「AI アシストプラス」の字幕生成機能としてリリースすることを考えています。

若松:Amazon Kendra は、セマンティック検索を実現するために検証を進めているところです。こちらも将来的には、お客さまに提供したいと考えています。

生成 AI は一過性の流行ではなく、今後さらに導入が進む実用的な技術

柳:「Teachme Biz」や「Teachme AI」の今後のビジョンを教えてください。

長谷川:先日「Teachme AI」の機能をリリースできましたが、生成 AI の研究・開発をするプロジェクトそのものはいったん解散しようということになっています。なぜなら、AI に特化したチームを作るのではなく、各チームが AI 関連の開発をできるようにしようという考えから、体制を再構築することになりました。

今回は Amazon Bedrock についてのお話を主にしましたが、今後は AWS の他の機械学習系サービスなども活用して、新機能を実現していきたいと思っています。たとえば、既存のマニュアルの構造や内容をうまく読み解いて、どのような形式のマニュアルでも「Teachme Biz」へと簡単に乗り換えられる機能を開発することも予定しています。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 アカウントマネージャー 植本 宰壮(写真左)、シニアソリューションアーキテクト 柳 佳音(写真右)

植本:この事例では、新しい技術をうまく取り込んでいくスピード感が、スタディストの大きな特徴でした。企業としてどのような文化や思想があるからこそ、こうしたチャレンジがうまくいくのだと思いますか。

長谷川:弊社が掲げているバリューのなかには、「Try first」というフレーズがあります。これは「悩み過ぎて何もしないことを選択するよりは、まずは一歩前に踏み出してみよう」という意味合いで、チャレンジを推奨する文化があるのは大きいです。

他にも「With the customer」があり、お客さまのニーズや意見を拾い上げて開発に活かすことをとても大事にしています。この事例でも、普段お客さまと接しているビジネスサイドのメンバーたちを積極的に巻き込んで、部署横断のプロジェクトとして進めることができました。

また、スタディストには「ゴキゲンチャレンジ」という文化があります。これは Google の 20% ルールのようなもので、毎週金曜日の午後の時間帯は普段の業務とは違った技術検証や開発などを試せるようになっています。会社としてこうした取り組みをしているのは、意義があるのではないかと個人的に思います。

若松:生成 AI はただの流行りの技術ではなく、今後さらに社会実装が進む、実用性のある技術だと考えています。弊社ではこれからも積極的に活用していきたいですし、世の中の動きとしても生成 AI の活用がより進めば良いなと思っています。