AWS Startup ブログ
日本国内の M&A 件数を増やす意義とは ─ M&Aクラウド社の AWS 活用事例
「M&Aクラウド」は、売り手企業が無料かつオンラインで買い手企業の情報を閲覧し、直接打診ができる M&A のマッチングプラットフォームです。
買い手企業はまるで求人ポータルサイトのように Web 上へ買収窓口を設置でき、M&A の方針・実績を発信して売り手企業を募集できます。また、売り手企業は売却手数料無料で、買い手企業の情報閲覧および直接売却打診のコンタクトが可能です。
2018 年 4 月のサービス開始以降、わずか 3 か月で 9.2 億円のディール(取引)が成立しました。現在は売り手の企業が 8,600 社以上、買い手の企業が 1,600 社以上登録されており、月間約 300 マッチングを生み出すなど順調に事業成長しています。
今回は「M&Aクラウド」を運営する株式会社M&Aクラウドのプロダクト開発部 部長 CTO である荒井 和平 氏に、日本における M&A の現状や AWS 活用事例、今後のビジョンなどを伺いました。
M&A は企業を成長させるうえで有力な選択肢
――今回のインタビューでは、まず日本における M&A の現状について伺います。アメリカや中国などの国々と比べると、日本ではまだまだ企業の M&A 事例が少ないように感じます。日本において M&A 事例を増やすことの意義はどのような点にあるでしょうか。
荒井:弊社のプラットフォームでは、スタートアップ企業の M&A のサポートに特に力を入れているため、それらの企業を取り巻く環境を中心として説明させてください。
おっしゃる通り、アメリカや中国などの国々と比較すると、日本では M&A を行う企業の割合が少ないです。日本のスタートアップ企業は、上場を目指すところと M&A を目指すところの割合が約 7:3 だと言われており、大多数の会社が上場を目指します。この割合がアメリカでは約 1:9 であり、むしろ M&A をする会社のほうが一般的です。
次に、なぜ日本で M&A 事例を増やすことに意義があるのかを解説させてください。上場によってイグジットをする企業数は毎年 100 社程度で推移しており、この数字はそれほど変化がありません。一方で、資金調達をしている企業数は年々増加傾向にあります。つまり今後は、資金調達をしたにもかかわらず上場できない会社が増えることが考えられます。すると、投資家は資金提供をしても回収できず、経営者は金銭的なリターンを得る機会がなくなってしまいます。
この状況を打開する方法として有力なのが、M&A を行うことです。M&A によって、提供した資金を回収できる可能性が高くなれば、投資家はより積極的に投資するようになります。また、上場しなくても M&A によってイグジットできる可能性が高くなれば、起業を考える人の数も増えるはずです。
M&A には他の利点もあります。特に海外の事例でよくあるのですが、優れたサービスを持つスタートアップ企業を大手企業が買収し、大幅な事業成長に結びつけるケースです。買い手側企業の持つ資金や顧客基盤、人的リソース、既存事業とのシナジーなどを活用することで、買収された側の企業は飛躍的に成長できます。こうした多くの利点があるため、日本でも M&A の事例が増えてほしいと私たちは願ってサービス提供しています。
――日本の M&A 成功事例を増やすうえで、御社のサービスを利用する利点はどのような点にありますか。
荒井:「M&Aクラウド」の特徴のひとつとして、IT 企業がとても多いことが挙げられます。現在、日本の上場企業は 3,800 社ほどであり、そのうち IT 企業は 500 社ほどと言われています。そのうちの 30% ほどが「M&Aクラウド」に買い手側の企業として登録されています。つまり、上場している IT 企業との M&A のマッチングをするうえで、非常に利点が大きいサービスになっています。
仮に、自分自身がスタートアップの経営者であり、M&A や資金調達の相談をしたいと考えているならば、事業基盤が安定している上場企業の担当者と直接連絡を取れるほうが良いですよね。それを実現しやすいのが「M&Aクラウド」の特徴になっています。
企業数が増えても、AWS のマネージドサービスならば運用工数は増えない
――ここからは話題を変えて、AWS 活用についてもお話を聞かせてください。システムアーキテクチャの全体的な概要について教えていただけますか。
荒井:「M&Aクラウド」はサーバーサイドは Laravel 製のアプリケーションが Amazon ECS(on AWS Fargate)上で動いています。フロントエンドは Nuxt.js で実装しており、こちらも同様に Amazon ECS(on AWS Fargate)によるホスティングをしています。
また、集客用のメディアを WordPress で構築しており、これは AWS Elastic Beanstalk 上で動いています。基本的には AWS のマネージドサービスを多用しており、他にも Amazon RDS や Amazon ElastiCache(Memcached)、Amazon OpenSearch Service、Amazon SES、Amazon SQS などを使っています。
――Amazon ElastiCache や Amazon SQS ではどのようなデータを取り扱っていますか。
荒井:Amazon ElastiCache には、ログインセッションの情報やアクセスが多い Web ページのキャッシュ情報が格納されています。Amazon SQS には主にメール送信などのジョブキューが格納されています。先ほど述べた Amazon ECS 上で動くバックエンドのサービスには、Web アプリケーションだけではなくワーカーとして動くシステムもあります。このワーカーが Amazon SQS からデータを取得し、ジョブの内容に応じて処理を実行します。
また、ダッシュボードツールの「Redash」も AWS 上で動かしており、これを活用してデータ分析基盤を構築しています。アクティブユーザーの数や各機能の利用状況、施策の効果など分析しているのです。
ユーザーのアクセスログが Amazon CloudWatch Logs に入り、Amazon Kinesis Data Firehose を経由して Amazon OpenSearch Service に格納されます。Amazon OpenSearch Service を活用することにより、「Redash」上でのアクセスログの検索・集計が可能になっています。
――AWS の各種サービスを用いることで、御社のビジネスにはどのような好影響が生じているでしょうか。
荒井:2018 年 4 月の「M&Aクラウド」のサービス開始から現在までで、売り手の登録企業数は 8,600 社以上、買い手の登録企業数は 1,600 社まで増えました。ですが企業数が増えても、システムのパフォーマンスの問題が発生したことは、これまで一度もありません。
もちろん、サービスの成長に伴ってサーバーのスペックを上げたり、インスタンス数を増やしたりはしてきましたが、それくらいの簡易的な対応で事足りています。これは、AWS のマネージドサービスをフル活用しているからこその利点だと思います。
また、弊社はインフラ専任のエンジニアがいないのですが、それでも問題なくシステムを運用できるくらいに AWS はインフラの構築が楽です。それらの特徴があることで、ビジネスの成長にもプラスの影響となっています。
新プラットフォームを展開し、日本企業の事業成長に貢献
――今後の事業展開の予定を教えてください。
荒井:「M&Aクラウド」の 2022 年 1 月から 6 月までの資金調達希望の登録企業数は、2021 年の同時期の登録件数と比較して 43% 増となりました。資金調達希望の企業が増加した背景として、日本全体の株価の低迷や地政学的な理由でベンチャーキャピタルが投資先を絞る動きが続いていることから、資金調達が難しくなっている情勢が挙げられます。
当社では、資金調達を希望するニーズが今後も継続的に増加することを見込み、事業会社からの資金調達ができるプラットフォームを新たに構築することを決めました。それが、先日にリリースした「資金調達クラウド」です。スタートアップが、事業会社から資金と事業シナジーを無料で調達できる新しいサービスです。
複数のプラットフォームを展開するにあたり、両方のシステムで共有的に必要になる処理を共通基盤化していくことも考えています。「M&Aクラウド」と「資金調達クラウド」を、同一のユーザーアカウントでログイン可能にするなどの施策がその一例です。この事業展開に伴い、エンジニアをさらに増やして開発組織を拡大したいと考えています。
――どのようなマインドやスキルのエンジニアに参画してほしいですか。
荒井:弊社のバリューのひとつに「2nd Priority」というものがあります。これは、顧客のことを第一に考え、それ以外のことは 2 番目の優先度にしましょうという意味です。つまり、私たちの開発チームは、とにかくユーザーに使ってもらえるもの、ユーザーにとって価値があるものを作ることを大切にしています。
そうした背景もあり、エンジニアにはフルスタックなスキルを持っていることを期待しています。もしも、フロントエンドしかできないとか、インフラしかやらないというスタンスのエンジニアだと、なかなか「ユーザーに価値提供するために必要な、一連のプロセスに携わること」が難しいです。自分の役割を限定せずに、価値を発揮するためにはなんでもやるというスタンスの人たちと、一緒に働きたいです。
――御社のさらなる成長が楽しみです。今回はありがとうございました。
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