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“沸騰”するような情熱との出会い「Startup CTO of the year 2024 powered by Amazon Web Services」開催報告
2024 年 11 月 19 日に「Startup CTO of the year 2024 powered by Amazon Web Services」が開催されました。本イベントは「経営と技術の分断を越える」ことを目指し、日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献する CTO を表彰して、その活躍を社会に発信します。本年度のテーマは「沸騰」。CTO たちが心に秘めた、ふつふつと沸き立つような情熱を体験できるイベントとなりました。今回はダイジェスト形式でレポートをお届けします。
オープニングスピーチ
イベント冒頭では、Amazon Web Services のスタートアップエコシステム アジア太平洋・日本地域 ゼネラルマネージャーである Tiffany Bloomquist がオープニングスピーチを行いました。Tiffany は、IT 企業各社の CTO が技術革新の先頭に立ちつつ、ビジネスを支えるソリューションを生み出していることに言及。そうした CTO の方々に光を当てるために「Startup CTO of the year」が設立されたことを説明しました。
Tiffany はまた、AWS がスタートアップを支援する取り組みについても触れ、特に「AWS Activate」プログラムを通じてサポートを行ってきたことを紹介しました。さらに、「Startup CTO of the year」の登壇者や参加者に感謝を述べるとともに、イベントを通じてスタートアップの情熱や革新性を分かち合えることの喜びを語り、この特別な時間を楽しんでほしいと呼びかけました。
ファイナリスト CTO によるピッチコンテスト
ここからはピッチコンテストを実施。事前応募の中から厳正なる審査を経て選ばれた 7 名のファイナリストたちが登壇しました。
1. アセンド株式会社 取締役 CTO 丹羽 健 氏
2. シンプルフォーム株式会社 取締役 CTO 小間 洋和 氏
3. CalTa株式会社 CTO 高見澤 拓哉 氏
4. 株式会社ハイヤールー 代表取締役 葛岡 宏祐 氏
5. 株式会社令和トラベル 執行役員 VPoE 麻柄 翔太郎 氏
6. 株式会社EventHub 取締役 CTO 井関 正也 氏
7. amptalk株式会社 取締役 CTO 鈴木 啓太 氏
審査員を務めるのは、グリー株式会社 取締役 上級執行役員 CTO/デジタル庁 CTO の藤本 真樹 氏と株式会社クレディセゾン 常務執行役員 CTO の小野 和俊 氏、Coral Capital 創業パートナーの澤山 陽平 氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 デジタルサービス技術本部 兼 スタートアップ技術本部 本部長の塚田 朗弘です。
アセンド社は物流業界の課題を、テクノロジーを活用した業務の効率化と経営の高度化によって解決しようとしている企業です。日本では労働力不足や EC の普及による宅配需要の拡大、小ロット・多頻度輸送の増加によって配送ネットワークの維持が困難になっており、2030 年には日本全国で約 35% の荷物が運べなくなると言われています。
丹羽 氏は開発組織の取り組みを「事業」「技術」「組織」の 3 つの軸から解説。とりわけ、プロダクトエンジニアリング(プロダクトの価値追求を開発の中心に置くエンジニアリング)を重視してきたことを強調しました。
シンプルフォーム社は金融機関の法人調査業務をデジタル化し、負担軽減と高度化を実現する「SimpleCheck」を手掛ける企業です。登記情報や行政情報の収集、住所への入居確認などを行い、法人の実体性を調査。さらに、業種に加えて行政処分や風評、住所に関する注意事項などの情報を収集して、実態評価を行います。
小間 氏はこれまで、“データ中心戦略”を掲げてプロダクトを開発・運用してきたことを説明。加えて、多種多様なバックボーンを持つメンバーをマネジメントするための知見を紹介し、「5 年前の創業から現在までエンジニア総勢 25 名を採用し、ひとりも退職者を出していない」と語りました。
CalTa 社は、インフラ事業者を対象としてサービスを提供しています。日本では建設から数十年が経過して老朽化したインフラ設備が増え、安全性や機能の維持が問題になっています。同社のサービスでは小型ドローンによってインフラ設備の動画を取得し、3 次元データを生成。AI による画像解析技術を活用して施工状況や不具合などを検出します。
高見澤 氏はプロダクト開発にあたって直面した「GIS・画像解析・WebGL 圧縮配信・インフラ管理など必要な技術が多岐にわたる」「既存のインフラ構築・管理の業務が図面や写真など 2 次元のデータをベースにしている」といった課題の解決策を説明しました。
ハイヤールー社は採用ミスマッチを解決するコーディング試験サービス「HireRoo」を提供しています。日本でも海外でも、エンジニア採用において重要視している点は技術力とコミュニケーション能力であるとされています。ですが、国内企業の多くは学歴・職歴などのバイアスのかかった採用をしており、結果としてミスマッチが生じているのです。
同社では難易度の高いプロダクトの開発や技術コミュニティへの貢献を、わずか 5 人の少数精鋭のエンジニアで行ってきました。組織の高い生産性を支える仕組みや今後の目標について、葛岡 氏が解説。さらに「エンジニア起業家を増やしたい」という思いを述べました。
令和トラベル社は「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに掲げ、海外旅行予約アプリ「NEWT」などの旅行事業を展開しています。「NEWT」はリリースからわずか 2 年半で、全世界 70 エリア・7 万ツアーを提供。累計で 4 万人以上の海外旅行者を送り出してきました。
旅行会社は一般的に、大量のオペレーターを雇用することでツアー商品の作成や予約の手配、渡航サポートなどの作業を賄っています。人件費が高く粗利率の低い事業構造になっているのです。令和トラベル社は高い生産性や収益性を実現するために「テクノロジーによる旅行代理店業務の完全自動化」を推進。その具体的な取り組みを麻柄 氏は解説しました。
株式会社EventHub は、ウェビナーや大型カンファレンス、オフライン交流会、出展など、あらゆるイベントを効率化するイベントマーケティングプラットフォーム「EventHub」を提供しています。
「EventHub」はもともと、オフラインのイベント交流サービスとして 2019 年の末にリリースされました。しかしその直後、新型コロナウイルス感染症の影響により各企業がイベントを自粛。プロダクトの新規受注がなくなり、既存顧客の契約キャンセルが相次いだのです。その状況下からわずか 2 週間でイベントのオンライン開催を可能にし、プロダクトを成長させてきた過程を井関 氏が語りました。
amptalk株式会社は電話・商談解析ツール「amptalk analysis」を提供しています。毎日の電話・商談を記録・書き起こし・解析して SFA に自動入力。営業メンバーの会話・提案内容を簡単に確認可能になり、スキルアップ・研修・営業の型化といった営業 DX 化からセールスイネーブルメントを実現します。
鈴木 氏は自身の取り組みを「組織開発」「プロダクト開発」「事業開発」の 3 つの軸で紹介。積極的に外国籍のエンジニアを採用したことや書き起こしのソフトウェアを完全内製開発したこと、複数プロダクトのコンパウンド戦略を採っていることなどを述べました。
審査結果 / Startup CTO of the year 2024 最優秀賞・オーディエンス賞発表
審査結果の発表前に株式会社ユーザベース NewsPicks事業執行役員 CPO/CTO の文字 拓郎 氏があいさつをしました。
「今回のイベントテーマは『沸騰』であり、CTO のみなさまが持つ情熱や熱意を共有する機会となりました。私はこのイベントが、CTO にとっての成長の場となっていることを感じます。CEO がピッチを行う場は多い一方で、CTO が自身の考えや未来のビジョンを言語化し再確認する機会は少ないです。本イベントはその貴重な場となり、日本やスタートアップの可能性をさらに広げるきっかけになったと感じます」
そして、いよいよピッチコンテストの審査結果が発表されました。
オーディエンス賞に輝いたのは、アセンド社の丹羽 氏。審査員の塚田は「プロダクトエンジニアリングを組織に導入し、それを効果的に運用されている点が印象的でした。私自身、マネージャーとして組織づくりを行ううえで参考にしたいと感じました。また、TSKaigi をはじめとするコミュニティへの貢献は、丹羽さんの強みであり、スーパーパワーとも言えるものです」と述べました。
丹羽 氏は「このピッチの資料を作る過程で何を伝えたいのかを考えたとき、自分のミッションは『社会を豊かにすること』だと改めて思いました。世の中には、特定の業界を変えるために努力している CTO やエンジニアの方々が多くいらっしゃいます。その方々へのエールとなるような言葉を届けられたことが、今回のオーディエンス賞につながったのだと感じ、大変うれしく思っています」と喜びを語りました。
続いて「Startup CTO of the year 2024」に輝いたのは、令和トラベル社の麻柄 氏。審査員の藤本 氏は「評価点が非常に高かったです。その理由として、プロダクトや組織、リーダーシップといったあらゆる面で事業に貢献しており、経営者としての資質を感じた点が挙げられます。スタートアップの CTO として、責任を持ってプロダクトをユーザーに届ける役割を地に足をつけて遂行している一方で、先を見据えた取り組みもされている。そのバランス感覚が優れていました」と述べました。
麻柄 氏は「素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。そして、このような素晴らしいイベントを開催いただいたことにも感謝します。私は創業フェーズからこの会社に参画し、3 年半にわたり仕事に取り組んできましたが、この期間を振り返る良い機会となりました。これから、日本社会を変えるほどの大きな事業を作り上げたいと思っています。海外旅行の際には、ぜひ令和トラベルをご利用いただければ幸いです」と締めくくりました。
こうして「Startup CTO of the year 2024」の全プログラムは終了。最後に、小野 氏と澤山 氏がイベントの感想や将来の CTO へ向けたメッセージを述べました。
株式会社クレディセゾン 常務執行役員 CTO 小野 和俊 氏
「CTO や VPoE という役職は難しい仕事です。開発組織という近い視点での課題に向き合う一方で、経営への貢献という遠い視点の課題にも向き合わなければなりません。今回、令和トラベル社の麻柄さんに対して、私からも高い評価をさせていただきました。現場目線での本質的な課題を理解しながら着実に解決していく姿勢や、将来的な組織の拡大も見据えて事前に準備を進める計画性に感銘を受けました。まさに、CTO のロールモデルとも言える方だと思います」
Coral Capital 創業パートナー 澤山 陽平 氏
「ベンチャーキャピタリストとして多くのピッチを聞く機会がありますが、CEO ではなく CTO が話される場に参加するのは非常に新鮮でした。『Software Is Eating the World』という言葉の通り、幅広い事業領域でテクノロジーが活用されていることを感じました。審査は拮抗しましたが、それこそがみなさんの取り組みの素晴らしさを示しています。また、このイベント自体も意義深いものだと感じています。CTO という職業が憧れの存在となれば、目指す人も増え、日本からさらに素晴らしいイノベーションが生まれるはずです」