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認知科学と学習 3: エラボレーションを使って概念の理解を強化する
このブログは、認知科学の原則を使って AWS クラウドの学習効果を高める方法に関するシリーズ記事の第 3 回(最終回)です。
このシリーズの前回と前々回では、プレゼンテーションや講義からの情報を受動的にインプットすることばかりに依存しないということが、いかに重要であるかについてを取り上げました。長期的な学習効果を強化していくためにはインプットばかりでなく、その情報を能動的に 記憶から引き出す(または思い出す) よう、セルフテストに挑戦することが大切です。またこの考え方をふまえ、 時間間隔を空けた反復学習 を実践することで、学習をより効率的かつ効果的にする方法についてもご紹介しました。
どちらの戦略でも強調されているのは、学習プロセスにおいては記憶が重要な役割を果たすということです。ある分野についてのプロフェッショナルになるためには、その分野に関する主要な概念や事実といった強固な基礎を身につけることから始める必要があります。たとえば機械学習 (Machine Learnning: ML) について言えば、そもそも特徴量エンジニアリングとは何かを知らなければ、ML モデルで特徴量エンジニアリングを実践することは不可能です。
しかしこれまでに説明してきたことを鑑みると、キーとなる情報を記憶するためにいたずらに反復学習を行うことが正しいとは限りません。情報に対する理解を深めるのに役立つテクニックがいくつかあります。そのうちの 1 つはエラボレーションと呼ばれるものです。
エラボレーションとは
エラボレーションとは、学習中の新しい情報を既存の知識と関連付けていくことで、新たにインプットしている情報に詳細を付け加えていくプロセスのことです。エラボレーションのプロセスでは What (何を) 学習しているかよりも、学習中のトピックの背後にある How (どのように) や Why (なぜ) により重きを置きます。ここでは簡単な例を使って、この概念をより具体的につかんでいきましょう。
エラボレーションの実践
機械学習を例にとった場合、おそらく最初に直面するハードルの 1 つは、この分野特有の用語や概念についての語彙を理解することでしょう。そのためまず Demystifying AI/ML/DL や What is Machine Learning? といったトレーニングを受講し、そこに出てくる用語や概念について時間差学習によって小刻みにセルフテストを行います。
機械学習のタイプの違いを理解しているかを確認するセルフテストの問題の 1 つとして、たとえば以下のような問題があったとします(正解は1)。
次のうち、教師あり学習が最も適しているのはどれか答えなさい
- 画像内の鳥を特定する
- 購買傾向に基づいてある集団をより小さな集団にグループ化する
- データセット内の特徴量の数を減らす
- クレジットカード取引データ内の異常を特定し、不正としてラベル付けする
この問題やその他の同様の問題に正解することはさほど難しくありません。つつまり、回答にあたって教師あり学習ついて深い理解が必要な問題とは言えません。フォローアップの問題に挑戦することでエラボレーション、つまりこのトピックに関する詳細を付け加えていきます。こうすることで、より深い理解が得られます。
以下に示すのは、この状況またはその他の同様の状況でフォローアップエラボレーションとして活用できる問題の例です。
- 「画像内の鳥の特定」が、どのように教師あり学習の良い例であるか説明しなさい
- 他の選択肢が、教師あり学習に適していないのはなぜですか
- 正解の選択肢に加えて、教師あり学習の適切なユースケースを他に挙げなさい
- 正解の選択肢が、教師なし学習の例でないのはなぜですか
エラボレーションが脳に与えるインパクト
エラボレーションの問題が学習に大きな効果をもたらすメカニズムは、脳が情報を最も効果的に保存および取り出す仕組みと関連しています。長期的な観点では、脳内にある他の情報と密接に接続された情報(大きく強固に張りめぐらされたクモの巣状のニューロンをイメージしてください)は、そうでない情報、つまり他の情報との関連付けが乏しく接続の弱い状態で保存された場合と比べて、はるかに簡単に記憶から取り出せるようになります。エラボレーションの問題に取り組み、学習中のトピックに詳細を付け加える訓練を実践すると、先に述べたニューロン同士の密接な結合の形成につながります。
では、この エラボレーション の原則を AWS クラウドの学習に活用するにはどうしたらよいでしょうか。以下にいくつかのアイデアを示します。
- フォローアップ問題に挑戦する。反復学習 (小テストの問題に解答する、メモカードでセルフテストをする、難しい ハンズオンラボ を実施するなど) の際は、記憶から取り出そうとしている情報に詳細を付け加えるエラボレーションの時間を取るようにしてください。単に問題に解いたりラボタスクを完了させたりするのではなく、そのフォローアップとなる Why (なぜ) や How (どのように) に関する問題を自分に出題してみましょう。具体例を挙げるチャレンジを自身に課すことで、学習中の新しい情報を、すでに知っている情報に結びつけるようにします。
- ビジュアルモデルを描いてみる。学習中の情報に詳細を付け加えるエラボレーションの 1 つの方法は、その情報の視覚的なイメージを思い浮かべてみることです。例えば Architecting on AWS を受講していて、サブネット、セキュリティグループ、ルートテーブル、その他の関連サービスや機能が 1 つの VPC 内に含まれた基本的な 3 層ウェブアプリケーションがどのように動作するかについて考えをまとめたい場合は、実際に手を動かしてそれをスケッチしてみましょう。 描きだすという動作を反復学習に取り入れることは、情報を長期記憶に取り込むのに強力な方法です。
- プロジェクトベースのコースを受講する。単なる情報のインプットにとどまらず、インストラクターのガイドを受けながら自分なりの知識を模索し、創り出す機会を得られるような、受講生を中心とした学びの場を選択して参加しましょう。The Machine Learning Pipeline on AWS(英語のみ) のようなプロジェクトベースのコースでは、受講生が主体的に学べる機会が多く設けられています。学習している情報のエラボレーションを実践しやすいのは、こうしたタイプの環境です。
この一連のブログ記事は、絶え間なくリリースされる膨大な AWS のサービスや機能に追いついていくことは、そんなに簡単なことではないという思いから書き始めたものです。AWS トレーニングと認定ブログ読者の皆様が AWS クラウドの学習を開始あるいは継続することに熱心でいらっしゃるということは疑う余地もありません。皆様が今後獲得するスキルや知識には、高い需要があります。この 3 回にわたるシリーズ記事でご紹介した認知科学についてのヒントが、皆様の学習に新たな自信と熱意をもたらし、また AWS ビルダーとして長期的な理解を育てていくための一助になることを願って、このシリーズを締めくくりたいと思います。
By Tom Kelly