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寄稿:JFE エンジニアリング株式会社による生成 AI を利用した業務効率化の取り組みをご紹介
本稿は、JFE エンジニアリング株式会社による生成 AI を活用した業務効率化の取り組みについて、プラットフォーム開発をリードされた 上野 晶鋭 様、 武内 数馬 様より寄稿いただきました。
イントロダクション
JFE エンジニアリング株式会社 (以降、当社) は、エネルギー、環境、社会インフラ、産業機械など幅広い分野でプラントや構造物のEPC(設計・調達・建設)、製造、運営事業を展開しています 。また、 AI や IoT を活用したプラント運営の最適化、デジタルツイン技術によるプロセス可視化、データ解析プラットフォーム Pla’cello® や遠隔監視システム GRC の運営など、多岐にわたるデジタルトランスフォーメーションを実行しています。
今回はそれらの取り組みの中で、生成 AI を活用したプラットフォーム「 Pla’cello xChat 」 (以下 xChat) を開発し、建設業における見積りなどの業務を効率化した事例をご紹介します。ブログの中では、プロジェクトの背景、開発体制、 AWS の活用方法についても解説します。
導入経緯
当社では生成 AIでどのようなビジネス価値を創出できるのかを検証するために、 2023 年 5 月より生成 AI 活用のプラットフォームを開発するプロジェクトを開始し、同年 9 月に生成 AI プラットフォーム「 Pla’cello xChat 」をリリースしました。独自のセキュリティ対策と利用ガイドラインを整備し情報漏洩リスクを最小限に抑えた安全な利用環境を提供しており、現在弊社内で 1,000 名以上がこのサービスを利用しています。そして、さらなる利便性向上のために、同年 11 月に事業部メンバーを対象として実際の業務に役立つユースケースを議論するイベントを開催し、そこで集まった 10 件の有望なユースケースについて 3 ヶ月間で PoC を実施し効果検証を行いました。効果のあったユースケースについては、アプリケーションとして xChat への組み込みを進めています。
開発体制・開発フロー方針
生成 AI 活用による成果を素早くかつ確実に挙げるために、適切な分業を行う開発体制・開発フロー・アーキテクチャを整えました。
具体的には、プラットフォームとしての xChat の開発は AWS に詳しい「プラットフォーム開発チーム」が担当し、xChat を使用した生成 AI 活用のユースケースの効果検証は生成 AI に詳しい「データサイエンスチーム」と業務知見を持つ「事業部メンバー」が実施できる体制を作りました。 xChat には PoC を実施するための API を用意しているため、データサイエンスチームと事業部メンバーはすぐにユースケースの効果検証を始めることができます。また、 API を使用することで PoC ごとにプラットフォーム開発チームが xChat の UI などを追加開発する必要がないため、最低限の実装コストで効果検証が行えるようになっています。そして、効果のあるユースケースについては事業部メンバーが実業務で使いやすい形になるように、プラットフォーム開発チームが UI を実装して提供します。以上のような開発フローにより効率良くかつ確実に生成 AI 活用の成果を挙げることが可能となり、利用ユーザーの幅も広がっています。
図 1 開発フロー図
ソリューションの概要
生成 AI による業務効率化を実現するために、xChat において 以下 3 つのコンポーネントを開発しています。
1 つ目は API です。PoC は業務知見をもつ事業部メンバーと生成 AI の知見を持った社内のデータサイエンスチームが共同で実施します。その際、効果検証をすぐに開始できるよう、プラットフォーム開発チームはAPI を公開しました。
2 つ目はユーザーインタフェース (UI) です。PoC の結果、効果があると判断されたユースケースを簡単かつ便利に利用できるようにするために、UI を開発して提供しています。
3 つ目は社内データ検索の仕組みです。実業務に役立つ情報を生成 AI で出力するためには、業務に関連する「社内文書」、「過去のプロジェクトデータ」、「技術資料」などの社内データ参照が不可欠です。これらのデータを検索して生成 AI に読み込ませることで、生成 AI が持つ知識を補い、回答の質や精度の向上が期待できます。当社では Retrieval-Augmented Generation (RAG) の技術を利用して、社内データを検索する仕組みを構築しています。しかし、セキュリティの観点から部署間で検索できるデータ範囲を制限する必要があります。当社では Amazon OpenSearch Service へのクエリ発行時にフィルタを利用することで、部署ごとに検索できるデータの分離を実現しました。
上記 3 つのコンポーネントを表したものが「システムアーキテクチャ図」です。また、「 AWS アーキテクチャ図」のとおり、生成 AI サービスには Amazon Bedrock を採用し、AWS Lambda をはじめとしたフルサーバレス構成を採用しています。
図 2 システムアーキテクチャ図
図 3 AWS アーキテクチャ図
具体的な成果事例
PoC を経て実装されたユースケースの具体例として見積書からのデータ抽出があります。これまで見積書を比較検討する際、各取引業者で違ったフォーマットの見積書から手作業でデータを抽出する必要がありました。ある事業部ではこの作業に年間 5,000 時間もかかっていると言われており、過去には OCR でのデータ抽出自動化を試みましたが、フォーマットが異なるため抽出したデータの比較が難しく業務効率化を実現できませんでした。本課題を解決するために、OCR の文字読取り機能と生成 AI の文章補正を組み合わせ、より精度の高い見積書からのデータ抽出を実現しました。実業務では各社の見積書を xChat にアップロードするだけで、データ抽出と統一フォーマットでの出力を生成 AI が行ってくれるため、事業部メンバーは効率的に見積りの比較が行えます。実際に事業部ユーザーに使用していただいたところ、見積り比較業務を数十 % 削減できるとのフィードバックを得ることができました。
まとめと今後の展望
当社は建設業における業務効率化に生成 AI を活用して取り組んでいます。これまでは、素早くかつ確実に生成 AI 活用の成果を挙げるために開発体制・フロー・アーキテクチャを整備し、AWS 上で生成 AI のアプリケーションを構成することで、ビジネス上の効果を得ることができました。今後は xChat を活用して更なるユースケースの拡大や横展開を継続していきます。また、RAG を用いた社内データ連携の強化やマルチモーダルなデータの取り込み、Agents for Amazon Bedrock などを活用し、事業部メンバーがより便利に xChat を利用できるよう、更なるプラットフォームの機能拡張も継続していきます。
執筆者
上野晶鋭JFE エンジニアリング株式会社
DX 本部 ICT センター データプラットフォーム開発部 Pla’cello 開発室 主幹
大学卒業後、通信業界、小売業界、製薬業界のサービス・システム開発リーダー、システムアーキテクトとして従事後、2022 年に JFE エンジニアリングに入社。入社後はデータ解析プラットフォーム (Pla’cello®) の開発を担当し、現在は生成AI活用基盤 (Pla’cello xChat) の開発・活用を推進。
武内数馬JFE エンジニアリング株式会社
DX 本部 ICT センター データプラットフォーム開発部 Pla’cello 開発室 主任
情報通信企業、AI ベンチャーを経て 2021 年に JFE エンジニアリングに入社。ソフトウェアエンジニアとして、データ解析プラットフォーム (Pla’cello®) におけるローコード ETL ツール、生成 AI 活用基盤 (Pla’cello xChat) の開発を担当。好きな AI は「月は無慈悲な夜の女王」のマイク。