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AWS 上での Unreal Engine 開発の始め方
このブログは 2023 年 7 月 6 日に Gena Gizzi、Jake Wolf、Noor Fairoza、Chris Blackwell によって執筆された内容を日本語化したものです。原文はこちらを参照して下さい。
AWS 上での Unreal Engine 開発の民主化:エンドユーザコンピューティング(EUC)サービスと高性能な GPU ベースの EC2 インスタンスを用いて
はじめに
ゲーム業界は日々進化しており、中でもユーザ生成コンテンツ(user-generated content、略して UGC)が変革の先駆けとなっています。プレイヤーは自己表現や報酬(マネタリーリワードとソーシャルリワード)を得るためかつてないほど多くの UGC を作り出しています[1]。しかしゲーム開発とコンテンツ作りは複雑で困難です。学生から専門家まであらゆる人が参画できるようにするため、ゲーム業界では開発を民主化するツールを用意する必要があります。そしてそこから次のような新しい課題が生まれます。どうすればゲーム開発のハードルを下げながらもプレイヤーのクリエイティビティを担保できるでしょうか?どのようにして学習コストを下げ、ハードウェアの制約を取り払い、ゲーム開発のコストを下げることができるでしょうか?
これらの課題に対しゲーム業界では多くの新しい試みがなされました。中でも特筆すべきのは Epic Games と Unreal Engine(UE)です。Unreal Engine はフォトリアルなビジュアルと没入的体験を作り出す世界で最も高度な 3D 制作ツールです。UE が脚光を浴びたのはまずゲーム業界でのことでしたが、今では放送、アニメーション制作、シミュレーションなどの業界でも人気なツールとなっています。Epic Games のフォートナイトも Unreal Engine を利用しています。フォートナイトはプレイヤーに UGC やクリエイティブな体験を提供し、今や1つのソーシャルエクスペリエンスとなってきています。
Epic Games は GDC 2023 で Unreal Editor for Fortnite(UEFN)を発表しました。UEFN はゲームや体験を設計、開発し、フォートナイトに直接公開できる新しい PC アプリケーションです。これによりゲーム開発の学習コストが下がり、プレイヤーは今まで以上に簡単に Unreal Engine の機能を使って UGC の創作ができるようになりました。
一方ハードウェアやコスト面での課題はまだ残っています。ゲーム開発ツールを利用するには往々にして高価な GPU 付きハードウェアが必要です。これらのハードウェアは高価なだけでなく入手に時間がかかり、手軽にスケールアップ/スケールダウンもできません。例としてはこちらの Unreal Engine 5 の推奨ハードウェア要件をご覧ください。従業員に最新のハードウェアを購入する予算のない小規模なゲームスタジオや、最新のゲーミング PC とハイエンドな GPU が手に入らないプレイヤーにとって、このようなハードウェア要件は制約になる可能性があります。そこでクラウドが助けになります。クラウド上で UE や UEFN を使う主なメリットはスケーラビリティと柔軟性の向上とコスト削減です。ゲーム開発者やクリエイターは高価な初期費用を心配することなくクラウド上で強力なハードウェアが備わったインスタンスを起動させたり、必要に応じスケールアップ/スケールダウンさせることができます。クラウドを使えば小規模なスタジオでも大きいスタジオと肩を並べることができるようになり、個人開発者もより手軽にコンテンツ制作を始められます。
AWS 上でクラウドベースのゲーム開発をする方法は多くあり、選定の際にはいくつか考慮すべき要素があります。例えば開発者の人数、予算、ユーザペルソナ、所在地、レイテンシ、プレゼンテーション層の要件、カスタマイズ性、セキュリティ要件や特定のユースケースなどが考えられます。Amazon AppStream 2.0、Amazon WorkSpaces、Amazon EC2 は主な選択肢です。本ブログではこれらの選択肢について取り上げ、ご利用のツールにかかわらず(UE、UEFN、またはその他の GPU 要件のあるゲーム開発ツール)、ユースケースに最適なクラウドベースのゲーム開発サービス選定をお手伝いします。
Amazon AppStream 2.0
Amazon AppStream 2.0 はクラウドベースのゲーム開発の選択肢の1つです。AppStream 2.0 はクラウド上でデスクトップライクなアプリケーションストリーミング体験を提供します。ゲーム開発チームはデバイスや場所の制限なしにグラフィック集約型や高性能アプリケーションを利用することができ、時間とコストを節約できます。特に高性能なコンピューティングリソースやグラフィックリソースが必要だが、高価なハードウェアを購入したくないゲーム開発者や 3D モデリングアーティストにとって Amazon AppStream 2.0 は有力な選択肢になるでしょう。そのほか学生や請負業者など特定のアプリケーションを一定期間内だけ利用したいユースケースにおいても AppStream 2.0 は良い選択肢の1つになります。
AppStream 2.0 が良い選択肢だと思いましたらまずはこちらの入門ガイドまたは無料オンラインコースを確認してみましょう。ゲーム開発で利用する場合「Graphics design streaming instances for image builders」と「Graphics design streaming instances for fleets」のサービスクォータの上限緩和申請も必要になります。高性能な 4xlarge から始めることを推奨していますが、ユースケースに合ったインスタンスサイズを利用することが大切です。テストやモニタリングを通して適切なインスタンスサイズを見つけましょう。また、AWS 完全初心者の方は AppStream のプロビジョンニングを開始する前に AWS の基礎知識を学ぶことをおすすめします。
AppStream 2.0 をご利用する上で注意していただきたいのは、AppStream 2.0 のローカルストレージは非永続なため、ユーザはセッションごとにデータを外部の永続化ストレージ(外部の永続化ストレージのオプションはこちらをご参照ください)に保存しないとデータを失うリスクがあるところです。また AppStream と WorkSpaces はどちらもレイトレーシングと Lumen/Nanite をまだサポートしていません。これらのサポートが必要な場合、本ブログで取り上げた選択肢の中で最もカスタマイズ性の高い EC2 の方がユースケースに合う可能性があります。EC2 についてはブログの後半からご確認ください。またブログの最後に AppStream 2.0、WorkSpaces と EC2 の機能比較一覧表もありますので、選定の際ぜひご参照ください。
Amazon WorkSpaces
Amazon WorkSpaces はクラウドベースのゲーム開発のもう1つの選択肢です。仮想デスクトップにフルアクセスしたいグラフィックデベロッパーにとって WorkSpaces はいい選択肢になります。WorkSpaces はあらゆるロケーションからクライアント(Windows、MacOS、Linux、その他モバイルデバイスやタブレットなどに対応。詳細はこちら)を通してアクセスできる仮想デスクトップを提供します。WorkSpaces は必要なツールや開発環境をインストールするようにカスタマイズできるため、特定のソフトウェアや IDE またはツールが必要な開発者にとって役立ちます。WorkSpaces にはデフォルトで永続ストレージが付属されています。また AlwaysOn と AutoStop といった実行モードがあり使っていない時のコスト削減につながります。このように開発者は慣れ親しんできた専用 VDI と似た感覚で WorkSpaces を利用できます。また WorkSpaces は追加の永続ストレージも利用でき、追加料金なしで WorkDocs のストレージを 50GB 利用できます。
Amazon WorkSpaces が良い選択肢だと思いましたら、こちらの入門ガイドを確認して初めての WorkSpace を起動してみましょう。グラフィックスアプリケーションをご利用したい場合、インスタンスタイプは必ず Graphics.g4dn か GraphicsPro.g4dn のどちらかを選ぶようにしましょう。これらのインスタンスタイプは多精度 Turing Tensor Cores および RT Cores を備えた NVIDIA T4 Tensor Core GPU、AWS カスタム第2世代 Intel® Xeon ®スケーラブル (Cascade Lake)プロセッサ、およびローカルデータの高速アクセスが必要なアプリケーションに最適なローカル NVMe ストレージが付属しています。
WorkSpaces は AppStream と同様に AWS リージョンごとのグラフィックスインスタンスの種類とターゲット数の上限緩和申請が必要になります。Graphics と GraphicsPro インスタンスは vCPU の数、RAM と NVMe SSD ストレージの容量に違いがありますが GPU スペックは同等です。ご注意いただきたいのは上限緩和申請が通るまで1週間かかることもあるため、利用開始時や大規模なイベントを控えている際は余裕を持って申請するようにしましょう。
より詳しい情報やコストについては Amazon WorkSpaces のウェブサイトをご参照ください。また無料のオンライントレーニングとして WorkSpaces Primer と WorkSpaces Deep Dive も提供しています。WorkSpaces は AWS マネジメントコンソールからご利用いただけます。
Amazon EC2
Amazon EC2 はクラウド上のゲーム開発の選択肢の中で最もカスタマイズ性の高いものです。Amazon EC2 は事実上特殊要件のあるものも含むすべてのワークロードに対応できるセキュアでサイズ変更可能なコンピューティングリソースを提供します。ゲームスタジオは EC2 を使用して独自のクラウドベース仮想ワークステーションソリューションを構築することができます。これはインフラストラクチャをより細かく制御したい大きめの開発チームにとって特に有用です。また Amazon EC2 はゲームのワークロードに使用可能なインスタンスタイプを幅広く提供しています。例えば Amazon EC2 でクラウドベースのゲーム開発をする場合 G5 インスタンスがおすすめです。G5 は高性能な GPU ベースインスタンスでグラフィック集約型のワークロードに最適です。強力な GPU 以外にも EC2 のカスタマイズ性は非常に高く、高性能なネットワーキングとストレージもご利用可能です。これにより EC2 は 3D モデリング、アニメーション、レンダリングといったゲーム開発タスクにとっても理想的なソリューションになります。
Amazon EC2 を利用する場合、マネージドサービスである Amazon AppStream と Amazon WorkSpaces より多くのインフラストラクチャ管理作業が発生します。EC2 インスタンスのプロビジョニングとオーケストレーションを簡略化するために Amazon Machine Images(AMI)、AWS Marketplace、AWS CloudFormation と AWS Control Tower などのツールが存在します。例えば AWS Marketplace から Unreal Engine 5 AMI を起動させればすぐに開発に着手することができます。ただしチームの規模が小さく時間もあまりない場合、Amazon EC2 を使うとインスタンス、プレゼンテーションレイヤー、インフラストラクチャのスケーリング、パッチあてなどの管理作業が発生することを考慮に入れていただきたいです。
クラウドベースのゲーム開発において最大限の制御とカスタマイズ性が必要な場合、Amazon EC2 は最適な選択肢です。Amazon EC2 の開始方法を確認し初めてのインスタンスを立ち上げてみましょう。その後こちらの Game Production in the Cloud Pipeline を参照してみると良いかもしれません。こちらのリポジトリには仮想ワークステーションのデプロイとセットアップ手順が含まれています。
機能比較
ご自身のワークロードにとってどの選択肢が最適か決めかねていますか?それとも他に特別な要件があるでしょうか?こちらの詳細機能比較一覧表をぜひご参考にしてください(表の情報は 2023 年 7 月 6 日オリジナルのブログ記事公開時までの情報に基づいています)!
Appstream | Workspaces | EC2 | |
---|---|---|---|
永続デスクトップ | X | X | |
選択式永続性 | X | ||
GPU インスタンス (G4) | X | X | X |
GPU インスタンス (G5) | X | ||
サポートされているリージョン数 | 15 | 13 | 全リージョン対応 |
ブラウザからのアクセス | X | X | |
シッククライアントからのアクセス | Windows のみ | X | 任意 |
タブレット入力サポート | X | X | X – via NICE DCV |
ゲーミングコントローラサポート | X – via NICE DCV | ||
Relative Offset | X | ||
OS サポート | Windows 2016, 2019 | Windows 10 | Windows, BYOL, Linux, Marketplace AMIs |
プロトコル | NICE DCV | PCOIP | NICE DCV (推奨), Teradici, Parsec |
休眠モード | X | X | 手動 |
料金体系 | 時間単位で従量課金 | 時間単位、月単位で従量課金 | 時間単位のオンデマンド課金、セービングプラン、リザーブドインスタンス(RI) |
認証方法 | Microsoft Active Directory, AWS Managed Microsoft AD, AppStream 2.0 User Pools, SAML 2.0 Integration, Streaming URL Creation | Microsoft Active Directory, AWS Managed Microsoft AD, SAML 2.0 Integration, AD Connector | 任意 |
マルチモニターサポート | 解像度4Kの場合最大2枚、2Kの場合最大4枚対応 | GraphicsProの場合3840×2160解像度で最大2枚、1920×1200で最大4枚; Graphicsの場合2560×1600解像度で最大1枚 | カスタム可能 |
まとめ
UGC の出現によりゲーム業界は目まぐるしく変化し続けており、すべての人が参画できるようにゲーム開発を民主化することが重要です。Epic Games の Unreal Editor for Fortnite はゲーム開発の民主化への一歩です。UE、UEFN あるいはその他の開発ツールなどツールに関わらず、ゲーム開発ではハードウェア面とコスト面の課題が依然として存在します。これは小さいゲーム会社や個人クリエイターにとっては制約になる可能性があります。AWS は Amazon WorkSpaces、Amazon AppStream と Amazon EC2 などいくつかのクラウドベースのソリューションを提供しています。これらのソリューションは、ゲーム開発上のハードウェア面とコスト面の課題に対処しゲーム開発をよりユーザ重視にすることで、拡張性とコスト効率の向上をお手伝いします。
リソース
こちらのリンクを辿ってもっと学習してみましょう!
- AWS for Games https://thinkwithwp.com/jp/gametech/?nc1=h_ls
- AWS クラウドゲーム開発 https://thinkwithwp.com/jp/gametech/remote-game-production/
- はじめての Unreal Engine 5 https://dev.epicgames.com/community/learning/courses/nE0/unreal-engine-5/4VqE/unreal-engine-5
- はじめての UEFN https://dev.epicgames.com/community/learning/courses/9DG/fortnite-uefn/2bVB/fortnite-uefn
- AWS 入門ガイド – https://thinkwithwp.com/appstream2/getting-started/
- Setup sample applications – https://docs.thinkwithwp.com/appstream2/latest/developerguide/getting-started.html
- Build multiplayer games on cloud – https://thinkwithwp.com/blogs/gametech/online-multiplayer-amazon-gamelift-aws-serverless/
- Unreal Engine 5 Marketplace AMI – https://thinkwithwp.com/marketplace/pp/prodview-iu7szlwdt5clg
[1] https://www.gamedeveloper.com/blogs/how-do-different-kinds-of-ugc-satisfy-players-#close-modal
翻訳はソリューションアーキテクトのBaixiao Linが担当しました。