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株式会社コーテッグ様の AWS 生成 AI 事例 「生成 AI-OCR 機能 で診察券読取業務を効率化、月間 7,500 時間の削減に成功」のご紹介

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの小林大樹です。

近年、AI の進歩は目覚ましいものがありますが、特に生成 AI の発展には目を見張るものがあります。私自身もアイデアの壁打ちやプログラミングに大規模言語モデル (LLM) を活用しており、日々その有用性を実感しています。ところで、生成 AI の真価はテキスト処理だけにとどまらない、ということをご存知でしょうか。

例えば、最新のモデルには、画像も入力として利用できるマルチモーダルモデルと呼ばれるものもあります。本記事では、マルチモーダルモデルを利用した Amazon Bedrock の活用事例として、株式会社コーテッグ様の取り組みをご紹介します。

コーテッグ様の状況と経緯

株式会社コーテッグ様は、総合病院やクリニック、動物病院などの医療機関向けに、予約や受付の対応をスムーズに行うためのサービス「ソトマチ」を開発・提供されています。

ソトマチは、患者が医療機関の予約・受付を行う際に利用します。院内に設置された iPad 受付機や、ユーザー自身のスマホにインストールされた LINE のチャット UI から「診察券や保険証」(以降まとめて診察券と記載) の写真を送信することで、ユーザー登録やログインを不要としたスムーズな予約・受付を実現しています。


医療機関側では、診察券に記載された診察券番号や名前から患者のカルテを特定し、受付を行います。従来は受付のスタッフが人手で行っていたこの作業を自動化するために、ソトマチでは診察券に記載された内容を OCR で読み取り、システム上の登録データと照合する仕組みを導入しました。

しかし、この OCR システムには課題がありました。診察券は医療機関ごとに多種多様なデザインがあります。そのため、新しい医療機関にサービスを導入いただく際には、読み取り項目の設定や、読み取り精度の検証や調整といった事前設定に多くの時間を費やしていました。加えて、診察券のデザインが異なることから、単一の画像認識モデルでは読み取り精度が安定せず、誤って文字起こしが行われるケースも多く、そのような場合には、読み取り後に医療機関のスタッフの方が人手で修正を行っていました。

このような課題に対応するために Amazon Bedrock を活用し、機能改善を行いました。新しい「診察券の自動読み取り機能」は、事前設定を行わずとも、様々な診察券のデザインに対応することができます。さらに、正確に記載内容を読み取ることができており、受付業務の効率化やユーザー体験の向上に大きく貢献しています。

ソリューション/構成内容

Amazon Bedrock を利用した「診察券の自動読み取り機能」は以下のようなアーキテクチャから構成されています。従来の自動読み取り機能からの変更点として、診察券の OCR を行うコンポーネントを、従来の画像認識 AI モデルから、Amazon Bedrock に切り替えたことがあげられます。

Amazon Bedrock から利用できる基盤モデルの中には、Anthropic 社の Claude 3.5 Sonnet など、インプットとしてテキストだけではなく、画像も利用できるマルチモーダルモデルがあります。画像データを入力したうえで、「この画像から診察券番号と氏名を抽出してください」といったプロンプトを入力することで、OCR のように文字の読み取り処理を行うことが可能です。

ソトマチでは、従来の OCR 処理コンポーネントを Claude 3.5 Sonnet に置き換えました。診察券から抽出する項目などの条件をプロンプトで定義し、診察券の画像と併せて Claude 3.5 Sonnet に入力するだけで、高い精度で文字の読み取りができるようになりました。また、Amazon Bedrock は AWS Lambda から呼び出しており、既存のアーキテクチャをほとんど変更することなく、機能を置き換えることができています。

導入効果

ソトマチの「診察券の自動読み取り機能」を Amazon Bedrock で置き換えた結果、以下の 3 つの効果を得ることができました。

1. 医療機関ごとのフォーマット調整時間の削減
従来の画像認識モデルの場合は、診察券番号や氏名が書かれている位置が異なる場合、読み取り精度を向上させるために記載位置情報などの設定を行う必要がありました。しかし、Amazon Bedrock を利用した自動読み取りは特に設定を調整せずとも、柔軟に文字を読み取ることができるため、医療機関ごとの診察券フォーマットの調整が不要となりました

2. 読み取り精度の向上
患者名や診察券番号の抽出精度が向上しました。従来のモデルと比較して約 30% の精度改善が見られ、これにより読み取りミスが大幅に減少しています。以前は読み取りミスが発生すると、医療機関のスタッフが手作業でデータを修正する必要がありましたが、読み取り精度が向上したことにより、効率化を行うことができました。具体的には、1 医療機関あたり月間 30 時間もの作業量を削減することができており、導入医療機関 250 医院全体で見ると月間 7,500 時間の効率化に繋がっています。

3. 生成 AI を利用する際のセキュリティの担保
Amazon Bedrock へのすべての入出力データは、自身の AWS アカウント以外には非公開となっています。また、入出力データはサービスの改善や学習に利用されることがありません。そのため、診察券などの個人の情報が含まれるようなデータについても、安心して入力をすることが可能となっています。

まとめ

今回は AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock を活用し、「診察券の自動読み取り機能」を改善する、というコーテッグ様の挑戦について紹介させていただきました。本事例は、最新の LLM が持つ画像解釈能力を実業務で活かした好例です。ソトマチではこの仕組みを応用して、 医療機関にて運用されている様々な書類 (紹介状や予約表、処方箋など) についてもデジタル化を行う機能を提供予定です。業務の特性上、従来の運用を大きく変えることができない医療施設に対して、生成 AI を活用したソリューションを提供し、医療施設の業務効率化に貢献していきたいとのことです。

コーテッグ様の成功事例が示すように、生成 AI の活用は業務プロセスの根本的な改善をもたらす可能性を秘めています。Amazon Bedrock を利用した生成 AI の活用にご興味をお持ちのお客様は、ぜひ AWS までお問い合わせください。

ソリューションアーキテクト 小林 大樹 (X – @kobayasd)