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生成 AI Frontier Meet Up ~学びと繋がりの場~ 開催報告
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS ジャパン)が2024 年 7 月に発表した「生成 AI 実用化推進プログラム」は、生成 AI 基盤の「モデル開発」支援に加え、既存「モデル利用」したビジネス課題解決も支援対象としています。
2024 年 11 月 15 日、生成 AI 実用化推進プログラムの参加者やGENIAC ( Generative AI Accelerator Challenge ) 関係者、生成 AI に関心のある企業が一堂に会する「生成 AI Frontier Meet Up」イベントが開催されました。
イベントは二部構成で、第一部では AWS スピーカーによる最新トレンドのセッションと参加者間の情報交換が行われました。第二部では開発者モデルの紹介とビジネスマッチングの場が設けられ、活発な交流が見られました。
参加者からは「各社の具体的な取り組み発表に刺激を受けた」「多用な立場の参加者から新しい視点を得られた」「一緒に取り組みたい企業と出会うことができた」との声が上がり、生成 AI 技術の実用化を加速させる重要な機会となりました。
多くのお客様にご活用いただいている生成 AI 実用化推進プログラムは、
好評につき申請締め切りを 2025 年 2 月 14 日まで延長いたしました。
現在検討中の方はもちろん、このブログで初めてプログラムをお知りになった方も、
ぜひこの機会にご参加をご検討ください。申し込みはこちら。
ここからはイベントレポートをお届けします。
第一部 ご挨拶
AWS ジャパン 常務執行役員 サービス & テクノロジー統括本部 統括本部長 安田 俊彦
AWS ジャパン 常務執行役員 サービス & テクノロジー統括本部長の安田俊彦が開会の挨拶を行いました。安田は生成 AI 実用化におけるユーザーコミュニティの重要性を強調し、本イベントを通じて参加者が新たな学びや繋がりを得て、革新的なアイデアが生まれることへの期待を述べました。
AWSスピーカーによるセッション
AWS ジャパン 機械学習ソリューションアーキテクト 卜部 達也
AWS ジャパンの機械学習ソリューションアーキテクト、卜部達也が、生成 AI の取り組みとトレンド、実用化への課題、そして AWS のソリューションについて講演しました。2024 年を「生成 AI 実用化元年」と位置づけ、AWS ジャパンは生成AI実用化推進プログラムを通じて企業の本格導入を支援しています。Amazon の 25 年以上にわたるAI技術投資の成果を活かし、インフラからアプリケーション開発、実際の利用まで幅広くサポートします。業界の主要トレンドとして、特化モデルへの移行や複数モデルの活用が挙げられました。実用化に向けては、セキュリティ、コスト管理、スケーラビリティなどの課題に対し、AWS は責任ある AI の実現を重視し、新機能を次々と導入しています。実例として、レアジョブテクノロジーズのレッスンレポート自動化や iSmart Technologies の生産現場データ解析効率化が紹介されました。
プログラム参加者によるライトニングトーク
生成 AI 実用化推進プログラムに参加している 5 社の企業代表者が登壇し、それぞれの取り組みを紹介しました。AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人と、AWS シニア スタートアップ ML ソリューションアーキテクトの針原佳貴がモデレーターを務め、登壇者に質問を投げかけることで、参加企業の取り組みについて理解を深める機会となりました。
AWS ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長 小林 正人 (写真右)
AWS シニア スタートアップ ML ソリューションアーキテクト 針原 佳貴(写真左)
アライズイノベーション株式会社 代表取締役社長 CEO 清水 真 氏
「モデル開発者」として参加するアライズイノベーション株式会社の代表取締役社長 CEO、清水真氏が革新的 AI-OCR プロジェクトについて紹介しました。自社開発の既存システム「 AIRead 」に生成AI技術を組み合わせ、文書のデジタル化プロセスの効率を劇的に向上させることを目指しています。従来の AI-OCR と新たに調整されたVision-Language Model ( VLM ) を組み合わせることで、OCR 結果の検証作業を最大 80% 削減できる可能性があるとのことです。特に年間数百万枚の文書を処理する金融機関にとって、この技術は革命的な変化をもたらすと期待されています。オープンソース VLM を基にしたカスタムモデルの採用により、オフライン環境での使用、コスト管理の容易さ、顧客固有データでの調整が可能になります。金融業界を皮切りに幅広い分野での採用が期待されています。
Anti-pattern 代表取締役 CEO 兼 VPoE 小笹 佑京 氏
2社目は「モデル利用者」のAnti-pattern 社、代表取締役CEO 兼 VPoE 小笹佑京氏が登壇しました。同社が開発した SaaSus Platform は、SaaS 開発を効率化するツールで、最新の生成 AI 活用 API Gateway 機能により、API の自動生成や管理が可能になりました。
このプラットフォームはテナント管理、認証、請求などの SaaS 共通機能を提供し、開発者がコア機能に集中できる環境を整えます。新機能により、ソースコードのアップロードと簡単な設定だけで API の公開が可能になりました。SaaSus Platform は新規開発から既存システムの SaaS化まで幅広く対応し、AWS サービスとの連携で高度な機能を実現。これにより、SaaS 開発の障壁が低くなり、多くの企業の SaaS ビジネス参入を促進することが期待されます。
株式会社 NTT データ テクノロジーコンサルティング事業本部 デジタルサクセスコンサルティング事業部 主任 鯨田 連也 氏
3社目は「モデル利用者」のNTT データ デジタルサクセスコンサルティング事業部主任、鯨田連也氏が登壇し、AI Agent による広告生成ソリューションを紹介しました。このソリューションは生成 AI と AI エージェントを活用し、広告作成プロセスを半自動化。非専門家でも高品質な広告を迅速かつ低コストで作成できることを目指しています。 AI エージェントが各ステップを管理しつつ、ユーザー入力を取り入れることで、品質と柔軟性を確保しています。訴求ポイントの生成から広告画像の作成まで、ユーザーフィードバックを交えながらプロセスを進行。技術面では、Amazon Bedrock を活用し、AWS Cloud Development Kit (AWS CDK) で IaC化することで、堅牢性と展開性を高めています。このソリューションは広告作成の属人化解消とコスト削減の解決策として期待されています。
株式会社三陽商会 経営統括本部 システム部 花輪 俊夫 氏
4 社目は「モデル利用者」の株式会社三陽商会 経営統括本部 システム部の花輪俊夫氏が登壇し、アパレル企業ならではの生成 AI 活用について紹介しました。三陽商会は人間の創造性拡張を目的とした生成 AI 導入を戦略的に進めており、全従業員向け AI アシスタントの導入、商品画像やウェブコンテンツの定性的分析の高度化、そしてクリエイティブプロセスへの AI 適用を主な取り組みとしています。実施アプローチは段階的で、AI チャットアシスタント導入から始め、徐々に高度な分析や創造的プロセスへ展開していく予定です。社内文書の RAG 適合性の低さ、従業員の AI 不慣れ、既存業務文化との調和などの課題がありますが、これらに対処しながら進めていく方針です。この取り組みは、技術革新と従業員の適応、既存業務文化のバランスを取りつつ、段階的に推進されます。
株式会社昭栄美術 営業開発室 室長 榎本 光孝 氏
5 社目は「モデル利用者」の株式会社昭栄美術 営業開発室長、榎本光孝氏が登壇し、リアルイベントや展示会におけるデータ活用の革新的な取り組みを紹介しました。コロナ後のリアル回帰を捉え、物理的イベントでのデータ収集・分析に注力しています。AWS の各種サービスを駆使し、来場者データの収集から高度な分析までをシームレスに行う環境を構築しています。大学との産学連携も進め、AI による分析結果と従来の手作業分析を比較検証し、精度向上を図っています。今後は市場環境やターゲットニーズ、アクセスデータなどの付加情報を分析に組み込み、より深い洞察を目指します。また、イベント主催社側が出展社集客のため、出展した場合のRoIを示すデータの提供をすることで集客率アップを目指すような取り組みも進めています。
第一部参加者交流会
登壇者への質問を希望する参加者が列を作るなど、積極的な交流が見られました。
第二部 ご挨拶
AWSジャパン Data&AI事業開発本部 本部長 瀧川 大爾
第二部の開始にあたり、AWSジャパン Data & AI 事業開発本部長の瀧川大爾が開会の挨拶を行い、本イベントへの期待と、生成 AI 実用化推進プログラムが多くの顧客に活用されていることを改めて強調しました。
開発者のモデルご紹介
生成AI実用化推進プログラムの「モデル開発者」として応募した企業、2023年の LLM 開発支援プログラムに参加し、GENIAC にも採択された企業の方々が、開発したモデルについて紹介しました。第一部と同様、モデレーターの小林と針原が登壇者に質問を投げかけ、参加者の理解を深める形式で進行しました。
株式会社リワイア 生成 AI プロダクトマネージャー 八百 俊哉 氏
プログラム「モデル開発者」の株式会社リワイア 生成 AI プロダクトマネージャー、八百俊哉氏が安全な基盤モデルによるオーダーメイド画像生成 AI について発表しました。リワイアが開発したGenerright は、生成 AI の信頼性と公平性を確立し、クリエイティブの持続可能な発展を目指しています。許諾データのみで構築した安全な基盤モデルと IP 所有企業との協業により、炎上リスクを回避しつつ新コンテンツの活用を可能にします。さらに、トレーサビリティ確保のためのメタ情報付与や、コンテンツの来歴情報付与(C2PA)により、国際基準を用いた審議判定や、メタデータを保持した画像編集が可能になります。これらの機能により、AI による画像生成の信頼性と透明性が大幅に向上します。
カラクリ株式会社 取締役CPO 中山 智文 氏
LLM 開発支援モデル参加者かつ GENIAC 採択者のカラクリ株式会社 取締役 CPO、中山智文氏が「日本のカスタマーサポートのための高品質 AI エージェントモデルの開発」について発表しました。東京大学発の AI スタートアップであるカラクリは、カスタマーサポート業界向けの特化型 AI エージェントモデル開発に着手。これは人材不足や生産性向上の課題に対する革新的ソリューションとして注目されています。同社はオープンソースの「 KARAKURI LM 」シリーズで高精度の日本語モデルを実現し、今回のプロジェクトではカスタマーサポート特有のデータセットとベンチマークを作成。「 Tool use 」と「 Computer use 」という 2 つの革新的アプローチを採用し、ハルシネーションリスクの低減と高度なセキュリティを目指しています。開発成果をオープンソース化することで業界全体のAI導入加速を目指すカラクリの取り組みは、カスタマーサポート業界の生産性向上とプロフィットセンター化への有望な解決策として期待されています。
株式会社リコー AI インテグレーションセンター 所長 梅津 良昭 氏
LLM 開発支援プログラム参加者かつ GENIAC 採択者の株式会社リコー AI インテグレーションセンター所長、梅津良昭氏が「 AI エージェントやりませんか?」と題して発表しました。リコーは 2023 年 4 月の 7B パラメータ LLM 発表から 1 年で GPT-4 に匹敵する 70B モデルまで進化させ、AI エージェントとデジタルヒューマンの開発に注力しています。リコーカップの AI CM が YouTube で 28 万回以上再生されるなど、成果を上げています。同社は AI エージェントが製品やサービスの評価を左右する重要要素になると予測し、24 時間多言語対応可能なボイスエージェントの例を挙げてその重要性を強調しています。
課題である日本企業の技術マニュアルの難解さに対し、マニュアル専用言語モデル( LMM )の開発を計画。すべての日本企業への AI エージェント提供を目指し、共同開発パートナーや参加企業を募集しています。
ストックマーク株式会社 取締役 CTO 有馬 幸介 氏
最後に、LLM 開発者支援プログラム参加者かつ GENIAC 採択者のストックマーク株式会社 取締役 CTO、有馬幸介氏が「ドキュメント読解 LLM とナレッジグラフ」について発表しました。2016 年創業のストックマークは、自然言語処理AIを活用した情報収集・資料作成支援サービスを提供し、日経 225 企業の 30% を含む 300 社以上に導入されています。同社の技術チームは、複雑なビジネス文書を効率的に解析する深層学習技術を開発。多様なレイアウトや図表が混在する文書を自動構造化し、検索可能なデータに変換します。また、社内文書から自動的にナレッジグラフを生成し、企業固有の知識を活用した AI による高度な回答生成を可能にしています。特に文書のレイアウト解析と要素間の関係抽出の精度が高く、競合他社の API より正確に文書要素をグルーピングできます。この技術は製造業の R&D 部門や新規事業開発チームに重宝され、市場調査や技術情報収集、社内外の情報統合に活用されています。
全体交流会の様子
全体交流会では、開発者モデルを紹介した 4 社のブースへの質問、AWS よろず相談コーナーでの相談、プログラム参加企業の紹介スライドの閲覧など、参加者が積極的に学びを深める姿が見られました。会場全体で活発な意見交換が行われ、このイベントを通じて多くの新たなつながりが生まれたことが感じられ、主催者としても大変うれしく思っています。
最後に
今回初めての Meet up イベント開催で至らない点もありましたが、参加者の皆様が各セッションに熱心に耳を傾け、積極的に交流される姿が見られ、非常に活気のあるイベントとなりました。「次回はいつですか?」というお問い合わせも多く、嬉しく思います。第二回は2025年に開催を予定していますので、ぜひご参加ください。