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【Edtech Meetup】急成長サービスの秘訣と実践戦略【開催報告】

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)は 2024 年 11 月 27 日に、「【Edtech Meetup】急成長サービスの秘訣と実践戦略」を AWS Startup Loft Tokyo にて開催しました。

近年、EdTech 分野はテクノロジーの進化と教育ニーズの変化により、急速に発展しています。 本イベントでは、EdTech スタートアップや教育業界の主要な企業から CxO・取締役の方々をお招きし、「急成長サービスの秘訣と実践戦略」をテーマにパネルディスカッションを行いました。パネルディスカッション後には、ライトニングトークや懇親会を行いました。 EdTech スタートアップ、教育業界など、総勢 80 名以上の方々にお集まりいただき、本 Meetup を通じて交流を深めていただきました。本ブログではそのレポートをお届けします。

オープニング

greeting-shiraishiAWS パブリックセクター統括本部 教育・研究事業本部 事業本部長 白石智良

イベント冒頭では、AWS パブリックセクター統括本部 教育・研究事業本部 事業本部長 白石智良がオープニングの挨拶を行いました。 「教育業界の DX の波の中で、どのようなことを実現できるのか。どのように教育業界をより良くしていけるのか、一緒にディスカッションを行えればと思っています。」と挨拶を行いました。


パネルディスカッション「急成長サービスの秘訣と実践戦略

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<ファシリテーター>
AWS パブリックセクター統括本部 教育・研究事業本部 初等中等教育・EdTech 営業部 アカウントエグゼクティブ 尾島菜穂

<パネリスト>
Classi 株式会社 取締役 プロダクト部 本部長 伊藤徹郎 氏
株式会社シンプルエデュケーション 代表取締役 平田直紀 氏
千株式会社 執行役員 CTO 竹澤有貴 氏

2 年間で 4200 校以上に普及。スピード感の秘訣

panel-discussion-classiClassi 株式会社の伊藤氏は、教育 ICT サービスの Classi が 2400 校に普及するまでには 8 年の歳月を要したのに対し、保護者連絡ツールの tetoru は 2 年間で 4200 校以上に普及したというスピード感のある成長の秘訣について、下記のように述べました。

「10 年前は学校に Wi-Fi さえない環境でしたが、コロナ禍を機に Classi のサービスが大きく広がるきっかけとなりました。一方、tetoru は Classi での経験を活かし、ネット・プロモーター・スコアなどのマーケティング指標を定期的に測定し、評判を重視しています。その結果、ユーザーの口コミによる拡散が進んでいます。」

「Classi は市場のニーズに応えるべく、次々と新機能を提供していましたが、一方で運用面で課題もありました。コロナ禍でサービスの接続性に問題が生じたことをきっかけに、より慎重なプロダクト開発を心がけるようになりました。この経験から生まれた tetoru も順調に成長を遂げています。」

「Classi の強みは営業力にあります。ICT 環境が整っていない学校に対しても、一から必要性を説得し、販売していきました。一方、tetoru はプロダクトの品質向上に注力しています。AWS の基盤を活用し、スケーラビリティを重視しているため、大雨や台風などによるアクセス急増時にも柔軟にスケーリングできる体制を整えています。」

口コミでサービスが広がるプロセスとは?

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4000 校の公立中学校・高校へ採点支援システム「百問繚乱」の導入が進んでいる、株式会社シンプルエデュケーションの平田氏も同様に、口コミでサービスが広まるプロセスについて言及しました。

平田氏は、「会社に営業力が無い中での対応として、日本全国の先生にファンになっていただき、つい紹介したくなるプロダクト作りを心掛けてきました。先生が使いたくなるプロダクト作りに注力しています。同社はネット・プロモーター・スコア(NPS)で『10点』を目指すことにこだわり、多くの顧客から高評価を得ています。」と述べました。

「初期のユーザー獲得は困難でしたが、大阪の ICT イベントをきっかけに先生たちに無料で利用してもらい、どんなフィードバックも真摯に受け取り、サービスに取り入れました。その結果、3 年目にはサービスが軌道に乗り、それ以降は自然と広がるようになりました。百問繚乱においては、学校契約が増えていき最終的に教育委員会との契約となるケースがほとんどです。現在では、全国 約 13,000 校ある公立中学校・高校への導入が進み、今後は小学校も視野に入れています。」

「限られた営業リソースの中で、開発力に注力し、毎年スケーリングと成長を繰り返してきました。AWS の柔軟なリソースを活用することで、成長に伴う需要にも迅速かつ効率的に対応できています。」

「はいチーズ!」急激な伸びの要因は?

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保育園・幼稚園向け写真撮影販売サービスや、園業務支援 ICT サービスなど「はいチーズ!」シリーズを提供する千株式会社 竹澤氏は、コロナ禍でイベントが減少した時期を経て、子供たちの成長を記録しようという意識が業界の中で再び高まったと指摘しています。

「保育園のイベントは比較的固定されていることが多く、新たな需要を創出することは難しいものの、地域を巻き込んだ子育てイベントなどを提供することで需要を増やす工夫をしています。同社は『みんなの記憶を預かり、形にする』ことに注力しています。」と竹澤氏は述べました。

「『はいチーズ!』のビジネスは、印刷業界やカメラマンなど、現実世界でのリアルな取引が多い特徴があります。そのため、ICT の導入が進んでいない保育現場に適した営業アプローチが必要となっており、人的リソースの効果的な配分が重要になっています。」と続けて述べました。

このような背景により、竹澤氏は、DX が保育を含む教育業界にとって不可欠であると考えており、AI の活用などにも積極的に取り組む意向を示しています。開発への投資も今後さらに増やしていく方針を示されました。

竹澤氏は、「教育業界は、これまで営業力に重点を置いていた戦略から、プロダクト力を重視する方向へシフトしています。口コミなどを通じて、『プロダクトの力』で競争できる時代になってきた」とコメントしました。

パネルセッション終了後は、会場の参加者から質問を募りました。活発な質疑応答セッションとなり、パネリストからは自身のユニークな経験や業界の動向など、様々な観点から回答を行いました。


ライトニングトーク①「生成 AI を用いた新しい学びの体験を提供するまでの道のり」

パネルディスカッション終了後は、ライトニングトークへと続きました。

LT-atama-plusatama plus 株式会社 Engineering Management 室 VPoE 前田和樹 氏

atama plus 社は、個々の生徒の「得意」「苦手」「伸び」「つまずき」などのデータを分析し、パーソナライズされた学習プロセスを提供しています。ナレッジグラフを用いた学習体験を提供し、各生徒に最適なカリキュラムを作成しています。

従来の演習コンテンツでは、問題 → 解答 → 解説の流れを採用していましたが、生徒によっては解説を読むだけでは内容を理解できず、その結果、学習のモチベーションが下がったり、解答を丸暗記してしまったりすることがあります。この問題を解決するため、atama plus 社は生成 AI を活用した新しいアプローチを導入しました。

この新しいシステムでは、生成 AI を使用して長い解説文を分割し、チャット形式で提示します。学習者の理解度を対話的に測定し、理解が不十分な場合はさらに詳しい説明を提供します。生成 AI の使用に関する懸念に対しては、自社の解説を基に AI を制御することで、一定のガードレールを設けています。

atama plus 社は、開発過程から直営塾の生徒にインタビューを行い、ユーザーのニーズを反映させました。リリースから 1 ヶ月が経過した現在、限定的なリリースにもかかわらず利用実績は増加傾向にあり、75 %以上の生徒が AI ステップ解説によって理解が深まったと回答しています。

個別の反応としても、「ここまで鳥肌が立つ勉強法はない!」といった非常にポジティブなフィードバックを得ています。現在は一部の生徒に限定して提供し、有効性と価値の検証を行っている段階ですが、今後さらに改良を重ねて本格的な展開を目指しているとのことです。

ライトニングトーク② 一枚の授業風景写真から見えた、問題解決の糸口

LT-LifeIsTechライフイズテック株式会社 サービス開発部 インフラ/ SRE グループ マネジャー 浅倉正芳 氏

ライフイズテック株式会社 は、「中高生ひとり一人の可能性を一人でも多く、最大限伸ばす」というミッションのもと、2010 年の創業以来、中高生向けの IT・プログラミング事業を展開しています。

同社の製品である「ライフイズテックレッスン」は、中学校・高校向けのプログラミング学習用 EdTech 教材です。2019 年秋にリリースされ、実際に Web サイトなどを作りながらプログラミングを学べる設計となっています。現在、全国 600 自治体、4,400 校、135 万人の中高生に導入されています。

技術面では、様々な AWS のサポートを活用してアプリケーションのアーキテクチャを構築しています。主に Amazon ECS コンテナと Amazon Aurora データベースを使用し、教材ファイルは Amazon FSx for OpenZFS に格納、学習進捗ログは Amazon DynamoDB で管理しています。また、AWS Cloud9 との連携機能も提供しています。

浅倉氏はこのようなサービスを提供する中で直面した問題とその解決に至った過程について述べました。

一つ目の問題は、「コスト」です。AWS Cloud9 の利用に関して、当初、デフォルト設定(生徒一人あたりAmazon EBS 10GB)で利用していたため費用が増大しました。そこで、教材ファイルの Amazon EBS(生徒一人あたり 1GB)を分離し、起動済みのインスタンスに動的にアタッチする方法に改善しました。

二つ目の問題は、AWS Cloud9 の接続問題です。Connecting という表示のまま開発環境が表示されないという問い合わせが増加し、原因の特定が難しかったため、サポートの方で手動で都度停止・起動を行っていました。 そんな問題の解決の糸口となったのは、一枚の授業風景写真でした。写真から、生徒が複数の端末やブラウザのタブで サービスを立ち上げていることが判明し、メモリ不足を引き起こしていたことが原因でした。そこで対策として、複数の端末で開かないよう注意書きを追加し、ブラウザの同じタブで開くよう修正をリリースしました。

浅倉氏は、実際に利用されている現場を見ることの重要性を強調し、現場の使い方から問題解決につながった事例を紹介しました。最後には「これからも AWS を活用したサービスで 教育業界を盛り上げていきましょう!」と述べました。

ライトニングトーク③ Education-JAWS のご紹介

LT-EduJAWSEducation-JAWS 大学一年生 栗栖 幸久 氏 社会人 前原 良美 氏

JAWS-UG (AWS User Group – Japan) は、日本の AWS を利用する人たちの集まり・コミュニティで、勉強会や交流会を実施しています。 今回栗栖氏・前原氏から紹介のあった Education-JAWS は、JAWS-UG の「教育に関する専門支部」として新しく設立されました。幼児、小学校、中・高等学校、専門学校・高専・大学、社会人まで、幅広い教育段階を対象としています。

Education-JAWS は、以下の 3 つの目標を掲げて活動しています:

  1. 教育現場でのクラウド利用増進
  2. 学生に外に出る機会を提供
  3. クラウド利用の教育手法の発展

大学 1 年生の栗栖氏は、去年まで中等教育を受けていた立場から、教育現場の DX を間近で見てきた経験を共有しました。教育分野におけるクラウド活用には大きな可能性があり、まだ発展の余地があると指摘しました。

Education-JAWS は、教育現場でのクラウド活用方法や最新の知見を共有する場として機能しています。メンバーになることで、教育と AWS に関する最新情報をキャッチアップできる機会が得られます。

直近では、2025 年 1 月 11 日(土)に Education-JAWS 勉強会が開催予定となっています。ご興味のある方はぜひ Education-JAWS より、最新の情報をチェックしてください。


AWS ソリューションアーキテクトより、成長を支える AWS サービスのご紹介

AWS からは、パブリックセクター技術統括本部 教育・研究技術本部より、ソリューションアーキテクトの梅田昌太、大南賢亮、山本ひかるが登壇し、成長を支える AWS サービスについてライトニングトークを行いました。

LT-AWS-Yamamoto山本からは「Amazon Bedrock アップデート」と題し、様々な基盤モデルが使用可能な AWS の提供する生成 AI ツールである Amazon Bedrock について、Anthropic 社の Claude モデルのアップデートや、生成 AI ワークフロー構築ツールである Amazon Bedrock Prompt Flows、責任ある AI を構築するための Amazon Bedrock ガードレール など、2024 年のメジャーなアップデートを 3 つピックアップしてご紹介しました。

詳細については下記リンクをご参照ください。

LT-AWS-Umeda

梅田からは、「Redshift ML と SQL で今日から始める データを使った生成AIアプリケーション」というテーマで、既存アプリケーションへの生成 AI の組み込み方法や、データ活用の手法を紹介しました。

Amazon Redshift ML を活用することで、SQL クエリを使いながら Amazon SageMaker と連携した ML モデルの作成やトレーニングが簡単に行え、さらに Amazon Bedrock との統合により柔軟な生成 AI 開発が可能になったことを強調しました。 また、SQL と Redshift ML を用いることで、多くのエンジニアが馴染みやすい形でお客様データを活用した生成 AI アプリケーションの開発が容易になり、Zero-ETL 統合によってデータ準備も迅速化できる点が利点として挙げられました。 これらの技術を活用することで企業が独自の生成 AI アプリケーション開発にすぐ取り組めることを強調し、実践的なAI導入の可能性を示しました。

詳細については下記リンクをご参照ください。

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大南からは、「年末までに改善する AWS のガバナンス&セキュリティ」と題し発表しました。ガバナンスとセキュリティに関するタスクは幅広く、完全にカバーするのは難しい現状がある上で、AWS のベストプラクティス活用の重要性を強調しました。

AWS では、AWS Startup Security BaselineAWS Control TowerAWS Trusted AdvisorAWS Well-Architected FrameworkAWS Security Reference Architecture など、多くのガバナンス・セキュリティをカバーするサービス・ツールをご利用・ご参照いただけます。 特に AWS Trusted Advisor は、AWS ベストプラクティスに基づく推奨事項を提供し、コスト最適化、システム可用性、パフォーマンス向上、セキュリティ強化をサポートします。ガバナンスとセキュリティ課題へ AWS ベストプラクティス活用し、まずはできるところから取り組むことが大切です。最後は「年末までに是非 AWS Trusted Advisor の再点検を!」と締めくくりました。


最後に

最後はご登壇いただいた方々の記念写真、そして参加者の皆さんでの懇親会を行い、EdTech Meetup は幕を閉じました。活発な会話、議論が行われている様子が印象的で、参加者の皆さまに交流を深めていただける良い機会となりました。

また、過去の EdTech Meetup に関しましては、下記のブログをご参照ください。

AWS パブリックセクターは今後も、EdTech がイノベーションを加速させるための、さまざまなテクニカル・ビジネスセッションやコミュニティ活動を実施予定です。 ご関心を持たれた方は、お気軽にお問い合わせください。教育のイノベーションに取り組まれる皆さまのご参加をお待ちしております。

次回の EdTech Meetup も是非お楽しみに!

このブログは、アマゾン ウェブサービス ジャパン合同会社 パブリックセクター ソリューションアーキテクト 山本ひかるが執筆しました。