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【Edtech Meetup】Edtech スタートアップがグローバルに活躍するには?【開催報告】

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS)は 2023 年 11 月 15 日に、「【Edtech Meetup】Edtech スタートアップがグローバルに活躍するには?」と題したイベントを AWS Startup Loft Tokyo にて開催しました。

このイベントでは、グローバルに活躍する Edtech スタートアップの方々をお招きし、Go to Market 戦略やグローバル展開における苦労とその乗り越え方などについてパネルディスカッションを行いました。

Edtech スタートアップや教育業界の方々が集まり、業界のプロフェッショナルの方々との交流を深め、新たなアイデアやビジネスチャンスを見つける機会を創出いたしました。今回はそのレポートをお届けします。

オープニング

イベント冒頭では、AWS パブリックセクター 教育事業本部 初等中等教育/EdTech 営業部長の平塚 建一郎が、オープニングのあいさつをしました。

AWS パブリックセクター 教育事業本部 初等中等教育/EdTech営業部長 平塚 建一郎

日本では、少子高齢化が大きな社会問題になっています。2022 年の日本人出生数は約 77 万人であり、統計を始めた 1899 年以降で最少。初めて 80 万人台を割り込みました。「これは教育関連の事業を手がけている方々にとって、切実な問題ではないかと思います」と平塚は触れます。

日本の人口は徐々に減少していくため、教育関連の事業をグロースさせるうえでは“世界”に目を向けることが重要です。現在、日本の 15 歳未満の人口は約 1,435 万人ですが、世界の 15 歳未満の人口は約 18 億人。単純計算すると、世界には日本の 100 倍以上の市場が存在します。

しかし、日本企業が海外進出するには大きなハードルがあります。商習慣や文化の違い、法規制、販路拡大、知的財産の扱い、人員の確保、資金調達といった問題を乗り越える必要があるのです。そうした課題に対する解決策のヒントを提供するため、AWS は本イベントを開催しました。すでにグローバル展開を行っている各社から、各種の課題をいかにして乗り越えてきたのかを解説していただきます。

「最後になりますが、私たち AWS もグローバル企業のうちの一社です。世界各国で Edtech 企業のご支援をさせていただいております。何かしらの形でみなさまのお役に立てればと考えておりますので、お気軽にご相談ください。何卒よろしくお願いいたします」と、平塚はあいさつを終えました。

パネルディスカッション開始

<モデレーター>

ワンダーファイ株式会社 代表取締役 CCO /ファウンダー 川島 慶 氏

<スピーカー>

ELSA, Corp. 日本法人代表 玉置 俊也 氏

Riiid Inc. 日本代表 Moon YongJoo 氏

Instructure, Inc. Channel Account Manager APAC Japan 玉木 和将 氏

ここからは、グローバル展開を行っている各社が登壇。ワンダーファイ社は、世界中の子どもから「知的なわくわく」を引き出すための教材やコンテンツを開発・運営する会社です。STEAM 教育領域の通信教育サービス「ワンダーボックス」 や、150 カ国 200 万人の子どもが楽しむ思考力が育つアプリ「シンクシンク」を運営しています。

ELSA 社は英語をより正しく、自信を持って話せるようになるための AI パーソナルコーチアプリ「ELSA」を提供する企業。「ELSA」は世界の AI 企業 100 にも選ばれた独自の音声認識技術を用いていて、学習者は自分自身のスピーキングの弱みを把握して短期間で改善できます。現在、100 カ国以上 5,000 万人のユーザーに利用されています。

Riiid 社は多くの AI エンジニア/リサーチャーが在籍する韓国発のディープテックベンチャー。機械学習領域で研究や論文発表を行い、特に教育や学習分野の研究に力を入れてきました。事業としては AI パーソナライズ TOEIC 学習アプリ「Santa」などを提供。「Santa」は韓国と日本で合計 600 万人以上のユーザーが利用しています。

Instructure 社は、アメリカに本拠地を置く Edtech スタートアップ企業です。Web ベースの学習管理システム「Canvas」や評価管理システム「MasteryConnect」の開発・提供を行っています。Instructure 社の顧客数は 6,000 機関以上あり、アメリカのアイビーリーグの全教育機関が「Canvas」を使用しています。

各企業の概要紹介や登壇者による活動内容の紹介の後、パネルディスカッション形式での議論を行いました。

ワンダーファイ株式会社 代表取締役 CCO /ファウンダー 川島 慶 氏

グローバル展開において、さまざまな障壁を乗り越える方法

ここからは、グローバル展開において経験した苦労や障壁、それを乗り越える方法などについて各社が事例を話しました。

玉置 氏は ELSA 社とRiiid 社、Instructure 社の本社が海外にあることを述べたうえで、「本社と日本との商慣習の違いで苦労することが多い」と述べます。たとえばアメリカの企業では多くの場合、可能な限りスピーディーにビジネスの成果を出すことを従業員に求めます。事業の海外展開においても、それは同様です。

しかし、特定の国への進出をゼロからスタートする場合、そんなに簡単には売上を立てられる状態にはなりません。ましてや、日本は「企業同士の関係値や信頼関係を構築してからサービスを契約する」という慣習が根強く、アメリカのように「お互いの利害関係が一致すればすぐにサービスを契約する」という文化ではないのです。その点を、本社へと適切に伝えることが大事だといいます。玉置 氏の所属する ELSA 社においても、日本で最初の顧客を獲得するまでに長い時間がかかりました。

また、Moon 氏は「同じプロダクトであっても、韓国と日本とではユーザーのニーズやユースケースが全く違っていた」と話します。Riiid 社の提供する「Santa」は、TOEIC のための英語学習を行うユーザーを対象としています。韓国では主なユーザーが大学生であり、ほとんどの人が就職活動のために TOEIC を受けます。アプリを利用する期間が数カ月ほどの短期間なのです。

一方、日本では転職活動や昇進などをきっかけに TOEIC の学習をする人が多く、より長期間アプリを使用する傾向にあります。「こうした情報は、実際に現地で働いてみなければなかなか見えてきません」と Moon 氏は述べました。

また、イベント中盤では「各国の拠点の裁量やプレゼンスを大きくしていく方法」についても語られました。川島 氏の所属するワンダーファイ社は、2017 年より国際協力機構(JICA)中小企業海外展開支援事業として、カンボジアにおいて思考力教育の導入事業を手がけています。この事業では、カンボジアの拠点のメンバーがプレゼンスを発揮し、現地の政治家との連携などを行っているのです。

Instructure, Inc. Channel Account Manager APAC Japan 玉木 和将 氏

このテーマについて玉木 氏は「特定の国に新しい拠点を築く場合、ビジネスの土台を作るにはかなりのエネルギーが必要」と述べます。ここで言う“土台”は、パートナー企業の開拓のように“社外”との活動や関係性構築だけではなく、“社内”とのやりとりも含まれます。たとえば、本社に対して日本の商慣習や文化、教育業界の状況などを伝え、ビジネスプランにそれらを活かさなければならないのです。

玉木 氏は過去に経験した印象深い出来事として、日本以外の国で働く Instructure社のメンバーにチャットツール上であいさつをした際のエピソードを挙げます。その社員からは「日本拠点があることを知らなかった」という旨の返答があり、「社内外に向けて積極的に情報発信しなければならない」と痛感したのだといいます。

海外展開を成功させるためのヒント

イベント終盤では、企業が海外展開を成功させる知見について語られました。玉木 氏は、日本における採用とアメリカにおける採用の違いと、それに関連して事業をスケールさせるための考え方を話しました。

アメリカにおける採用では「その人材が特定の職能におけるスペシャリストであり、社内でその役割のみを果たすこと」を期待して人を採ります。社員は一人一役であり、専門性を持ったメンバーがチームとして動くことで企業が成り立っているのです。

一方で、日本における採用では「その人材が部署内のさまざまな業務を担当し、ジェネラリストとして立ち回ること」を期待されることが多いです。異動により、その社員が専門知識を持たない業務を担当することもあります。この仕組みにより、企業全体の生産性がなかなか向上しないという課題が生じます。玉木 氏は「事業をスケールさせるためには、日本企業も“チームとして動くこと”を前提とした組織・制度構築が必要」と語りました。

また、サービスを各国に展開してビジネスを成功させるうえでは、特定の国における成功体験を他の国に持ち込んではならないと玉木 氏は言及。その国の慣習や文化、ユーザーに合わせた形でサービスの機能やプランなどをローカライズしていく必要があるのです。

Riiid Inc. 日本代表 Moon YongJoo 氏(写真右)

Moon 氏も「グローバル展開を考えるならば、必ず一人はその国で働くメンバーが必要。他国に拠点を置かずに簡単にスタートしたいのはわかるが、デスクで他の国を完璧に想像するのはできない。マーケティングクリエイティブすら毎日変わってる中で、他の業務をしながら他国の市場状況を理解するのは不可能に近い。正しい市場反応を得られるためには、正しい検証方法が必須なので、現地を理解して正しい検証ができるメンバーが最低一人は必要になる。また、海外進出は必ず何度も失敗を繰り返すことになるので、何度も失敗してもそこから学んで成功に持っていける体制がもっとも大事です。
現地専任の人ではない限りは、小さな失敗でもすぐ諦める可能性がものすごく高い。現地のことを理解、失敗を繰り返せる体制、この二つなしではどれほど素晴らしいサービスでも必ず失敗してしまう。」と述べました。

玉置 氏は ELSA 社の事例を踏まえて「日本からグローバルに進出する場合、そして他の国から日本に進出する場合に役立ちそうな Tips を最後に共有させてください」と述べました。

ELSA 社がユーザーを増やすために大切にしていることとして、玉置 氏はグロースループを挙げます。これは、特定のユーザーが他のユーザーを呼び込むという制度設計のことです。たとえばインフルエンサーマーケティングにおいても、“共感”をベースに施策を推進することを大切にしているといいます。

ELSA 社では英語の AI パーソナルコーチアプリ「ELSA」の認知拡大のために、お笑い芸人のたむらけんじ 氏をプロモーションに起用しています。たむら 氏は 50 歳の誕生日を機に、活動拠点をアメリカに移しました。その様子を SNS で見ていた ELSA 社の社員が「たむら 氏を手助けしたい」という思いから、彼にアプローチしたのだといいます。その後、たむら 氏は ELSA 社のビジョンや「ELSA」のプロダクトコンセプトに共感し、自発的にさまざまなプロモーションを行ってくれるようになりました。

ELSA, Corp. 日本法人代表 玉置 俊也 氏

この例のように「ユーザーがプロダクトを好きになってくれること」「ユーザーが他の方々と一緒に楽しく学べるようなプロダクトにすること」などを ELSA 社は重視して、施策・機能の設計をしています。

それに加えて、ELSA 社は世代を超えて楽しめる学習体験を作ることも意識しています。例を挙げると、子どもが「ELSA」を使って自宅で英語学習をする際に、家族も一緒に楽しめるような仕掛けを用意しています。それがきっかけで、両親が「ELSA」の良さに気付き、自分の働く企業にプロダクトを導入する可能性が生まれるのです。「こうした共感ベースのアプローチを、ぜひ参考にしていただければ幸いです」と玉置 氏は結びました。

AWS パブリックセクター パートナーアライアンス本部 パートナー事業開発マネジャー 松下 紘之

イベント終盤には AWS からのお知らせとして、AWS パートナーネットワーク(以下、APN)についての紹介をしました。AWS パートナーネットワーク (APN) は、オファリングの構築、マーケティング、およびお客様への販売のためのプログラムとリソースを活用するパートナーのグローバルコミュニティです。

APN への参加後、企業は自社のビジネスに関連するパートナーパスに登録します。パートナーパスには「ソフトウェアパス」「ハードウェアパス」「サービスパス」「トレーニングパス」「ディストリビューションパス」の 5 種類が存在しています。

パートナーパスの詳細はこちら

APN の 加入企業は、AWS を基盤としたビジネスの構築に役立つ AWS パートナープログラムを効果的に活用することで、 事業成長に結びつけていただくことが可能です。

AWS パートナープログラムの詳細はこちら

今回のイベントは AWS パブリックセクターが主催していることもあり、これらのプログラムのうち、AWS 公共部門パートナープログラムについて詳細に解説。そして、このプログラムを積極活用し公共パートナービジネスの急速成長を目指していく企業に対しての、AWS のアクセラレーション支援の概要や事例についてもご紹介しました。

AWS パブリックセクターは今後も、Edtech スタートアップの方々に向けてさまざまなテクニカル・ビジネスセッションやコミュニティ活動を実施予定です。ご関心を持たれた方は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。みなさまのご参加をお待ちしております!

このブログは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 事業開発マネージャー( Startup )である田村 圭が執筆しました。