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「データ活用ワークショップ X パートナー企業の力」ユーザ企業の課題解決と短期実践を実現
はじめに
データは現代企業にとって非常に重要な経営資源の一つとなっています。しかし、多くの企業がデータの活用において様々な課題に直面しているのが実情です。
そこで AWS では、パートナー企業と協力して「データ活用ワークショップ(WS)」を開催しました。今回の WS では、複数のユーザー企業が一同に会し、各社が抱える課題や対処方法を共有し合いました。そして、パートナー企業の支援のもと、短期間ながらも素晴らしい成果を上げることができました。
本記事では、その WS の様子と、データ活用におけるパートナー企業の重要性について紹介していきます。データ活用は一企業だけでは難しく、専門知識を持つパートナーと協力することが成功の鍵となります。ぜひ参考にしてみてください。
データ活用 WS とは
データ活用 WS について説明する前に、データ活用における代表的な 4 つの課題について述べていきたいと思います。
- データの収集と管理の難しさ
企業は複数のソースからデータを収集しますが、データ形式が統一されていないことが多く、収集と管理に手間がかかります。また、データの信頼性や完全性を確保することも大きな課題です。 - データ分析人材の不足
データ分析に必要なスキルを持つ人材が不足しているのが実情です。データサイエンティストなどの専門家の確保は容易ではありません。 - データ活用の具体的な方法がわからない
データを収集し分析することは重要だと認識していても、実際にビジネスにどのように活用すればよいかわからないケースが多数あります。 - データ活用に対する経営層の理解不足
データ活用の重要性を経営層が十分に理解していないと、投資が進まず取り組みが遅れがちになります。
データ活用 WS ではこれらの課題について、ユーザー企業が意識して取り組めるような座組みとなっています。まず、参加者は IT 部門が参加するようなテクノロジーに特化した勉強会のようなものではなく、実際にその会社ごとに持つ課題を深掘りして、その課題を解決するような分析ソリューションを構築します。そのためには、事業部門側の積極的関与が必要になります。本WS では、事業部門と IT 部門の参加を必須としており、さらに実際にデータ活用を根付かせるには経営層の理解が必要になることから、エグゼクティブスポンサーをつけていただくことを必須としています。
それにより、データ活用 WS で作られた分析業務を行うダッシュボードは、 IT 部門が作ったきりで使われないダッシュボードになることなく、常に事業部門の意見が取り入れた使い勝手の良いものとなり、さらにこの関係性を継続することにより、常に改善され続けるソリューションとなります。
またデータ分析が根付くには、経営層の理解が必要になります。理解があるからこそ、データの民主化が実現され、今回 のWS 参加者以外にも浸透していくことが期待されます。
以上のような課題解決に重要な考え方は、こちらの Blog「データドリブンカルチャーの作り方」を参照ください。WS の中でもこちらの Blog の内容に触れ、組織のあり方についてもお伝えしました。
この WS では、AWS のデータ分析におけるスペシャリストの講義を受けた上で、Amazon 流のモノづくりのスタイルである Working Backwards を取り入れたグループワークで課題を洗い出し、解決策を考えます。考えた内容は各社で発表しあい、他社からの学びを得ることができるようになっています。さらにパートナー企業がサポートをするため、参加企業は WS の中で有識者からたくさんの知見を得ることができるようになっています。
図1. データ活用WS DAY1 から DAY4 までの流れ
実施期間としては、だいたい 3-4 ヶ月間かけてDay1 〜 Day4 を実施し、Day4 の成果報告会にて各社の成果を発表いただきます。Amazon S3 をデータレイクとして、AWS Glue Crawler でデータカタログを作成し、Amazon Athena でクエリし、Amazon QuickSight にてダッシュボードを作るパターンとするのが、最初のステップとして取り組みやすく、本 WSの中でも推奨しています。
今回は、ユーザー企業 3 社(藤田観光株式会社様、株式会社ルネサンス様、医療機器メーカー A 社様)と、パートナー企業 3 社(クラスメソッド株式会社様、株式会社ジェーエムエーシステムズ様、株式会社システナ様)が参加されました。参加企業の参加時のレベル感はまちまちで、企業内でも部署によっても差がある企業が多いです。これまで実施してきた中でも、データがサイロ化されており事業部ごとにそれぞれデータを保有しているため属人化された作業になっている企業が多く、そういった企業や、そこまでも至っていない企業でも参加が可能になっています。
図2. 各社のデータ活用具合と課題感
4 日間の様子については、以下の章をご覧ください。
データ活用WS実施の様子
Day1
Day1 では、ベースとなるアイデアの発散フェーズと位置づけ、座学とグループワークの 2 つのアジェンダを実施しました。座学では、AWS スペシャリストからの QuickSight に関する基礎知識のインプットセッションが提供されました。
グループワークでは、各々がデータ活用に関して「これまでやってきたこと」「うまくいったこと」「うまくいかなかったこと」を付箋に書き出し、事業部門と IT 部門がそれぞれの取り組みについて理解を深めました。参加企業の中には、この日が事業部門と IT 部門の参加者が初対面という場面もありましたが、ディスカッションを通して互いの意見への理解を深められていました。最後にはディスカッションを通して整理した①過去の取り組み ②自社のデータ活用のレベル感 ③現時点での課題 について、各社より発表をして頂きました。
個人ワークで付箋に書き出し→ホワイトボードに張り付けて整理する、というセットを繰り返し課題の整理を行いました。
Day2
Day2 では、ダッシュボードイメージを作成することをゴールに、座学とグループワークの 2 つのアジェンダを実施しました。
座学では、データ分析・可視化の必要性や、分析要件や指標の定義の仕方、可視化の手法のご紹介といった、ビジネス現場におけるデータ分析の基礎について、AWS のスペシャリストより講義を行いました。座学で学んだデータ分析の考え方をもとに、グループワークではダッシュボードを使うユーザーのペルソナを設定していきます。
図3. Day2 ディスカッションのまとめ方例
当日は上記のフォーマットに従ってホワイトボードで意見を整理していきます。
ダッシュボードイメージを考える際、Amazon 自身が新製品や新サービス開発・社内の業務改善の際に実践している「Working Backwards」と呼ばれるメカニズム(フレームワーク) を活用して課題を整理します。Working Backwards では、「お客様は誰ですか?」「現在の課題と新しい可能性は何ですか?」「お客様にとっての最大のメリットは何ですか?」「お客様のニーズやウォンツをどのように知りましたか?」「お客様の体験はどのように変わりますか?」という5 つの質問を通じて、本当に必要なサービスを企画・開発していきます。今回のグループワークでは、参加企業の皆さまから見た「お客様(=ダッシュボードを使う人)」について徹底的に議論し、必要な要素を洗い出していきました。この際に、事業部門のお困りごとに関するリアルな声が反映されていくことで、より「使われる」ダッシュボードの開発に繋がります。Day2を終え参加者からは、「『お客様を起点に考える』にとても共感しました。」「 今までやりたいことが膨らみ過ぎて、手が付けられない状態になっていました。 Day2 で焦点が整理され、初手の動きが明確化できました。」という感想を頂いており、 座学やグループワークを通してデータ可視化の手順や考え方について学びを得ていただきました。
写真2. Day2発表の様子
Day3
Day3 では、Day2-Day3 の間の期間で開発されたダッシュボードに対し、ダッシュボードの利用者である事業部門の参加者へ中間報告を行います。
一番多かった企業では当日約 40 名様に参加頂き、実際に使う事業側の方から「こういったデータが見たかった」「こういう軸があるとさらに意思決定に役立てられそう」といった意見が飛び交いました。ここで得たフィードバックをもとにユーザー企業の IT 部門の参加者はさらに改良を重ね、Day4 に向けて完成させていきます。この開発期間中、パートナー企業の優れた技術力が開発メンバーの大きな助けとなります。参加企業が QuickSight の使い方に悩んでいる際は、パートナー企業に相談しながら解決策を一緒に考えていました。このようにパートナー企業の力を借りることで高品質なダッシュボードを素早く実装することが出来ました。
Day4
Day4 では、参加企業が Amazon オフィスに集まり成果物の成果発表会を実施します。
ここでは各社から開発までの道のりや今回実装したダッシュボードの発表がなされ、どの企業も短期間で開発したとは思えない素晴らしい出来栄えを披露いただきました。参加企業の 1 社は、データソースからそのままのデータでは表現が難しいものを、データパイプラインを構築した上、1つのダッシュボードの中で期間の比較を簡単に行えるように、検索フィールドを含めた比較的難易度の高い機能をパートナーの支援を受けながら構築し、実用性の高さから会場を沸かせていました。
写真3. 最終発表会の様子
また最後には、参加企業それぞれから MVP を 1 名ずつ選出させていただきました。伴走支援頂いたそれぞれのパートナー企業より、ユーザーに求められるダッシュボードを根気強く作り上げた各社の開発担当者が表彰されました。MVP に選出された皆さまからは、「データをただ見せるだけではあまり意味が無く、誰がどの様に何のために使うのか、という設定がとても重要になってくると学びになりました。」「ダッシュボード作成が可能な人材を社内に増やしていき、QuickSight の利用拡大を加速させる布教活動にも取り組みたいと思っております。」とコメントを頂きました。表彰された MVP の皆さまには AWS より書籍を贈呈いたしました。
成果発表会の終了後は、参加企業同士の懇親会の場が設けられています。データ活用 WS を通して得た学びや、この取り組みを自社に持ち帰り全社展開していくにあたっての悩みなど、ざっくばらんに意見交換がなされました。終了後のアンケートでは、「業界は違うものの、他社の取り組みや課題感を知ることで自分たちの立ち位置を知ることができ、かなり刺激的だった」という声が多くあがっていました。
今後の展望
データ活用 WS は、今後さらにパートナー企業と連携を強化しながら、継続して実施していく予定です。お客様からのフィードバックを参考にしながら、WS の内容を日々改善・進化させています。
また、WS に参加された企業においても、AWS やパートナー企業の支援を受けながら、WS で構築した分析基盤をベースにさらに様々なデータを取り込み、他の部門での課題についても解決できるようなソリューションを構築していく予定です。
事業部門を巻き込んで、会社全体の組織を変革したいとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。データ活用の取り組みを通じて、貴社の事業変革をサポートさせていただきます。
まとめ
本 Blog では、データ活用 WS でパートナー協業型の実施企業の様子をお伝えしました。業界問わず、様々な企業がデータ分析に課題を抱えており、データ活用を推進するためのノウハウや人材の確保が重要な課題となっています。今回の WS では異なる業種の企業が自社の状況を振り返り、それぞれの考え方を共有し合うことで、お互いに学びあい新たな可能性を見出すことができました。参加企業からは、「新しい視点を得ることができました。」「他社の事例から多くの気づきがありました。」「パートナー様および AWS メンバーの方々には手取り足取り色々教えていただきまして、ありがとうございました。」といったコメントをいただきました。コメントにもある通り、自社だけで進めるのではなく、他社の知見やパートナー企業、AWS とともに課題解決が実際にできていました。データ活用は単独の企業だけでは難しく、様々なパートナーと協業することが成功の鍵となります。今後もこうした機会を設けながら、データ活用の裾野を広げていきたいと考えています。
著者について