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【開催報告】AWS Autotech Forum 2024

みなさんこんにちは。プリンシパルソリューションズアーキテクトの梶本(かじもと)です。9月11日にAWSが主催する自動車業界向けイベント「AWS Autotech Forum 2024」を開催しました。AWS Japanでは、自動車業界の皆様にクラウドを活用してビジネスを加速して頂くことを目指し、 2018 年より事例や最新技術の活用方法等をご紹介する本イベント「AWS Autotech Forum」 を開催して参りました。今回で7回目となる本イベントは9月11日に目黒にあるAWS Japanオフィスにおいて約100名の方にご参加いただき、また収録内容を9月19日にはWebinar形式で昨年同様オンライン配信も行い1000名以上の多くの方にご登録頂きました。

SDV (Software Defined Vehicle) を中核に、クラウドを活用して車載ソフトウェアを効率的に開発するIn Carの取組み、自動車購入後も様々な顧客価値を利用者に提供するOut Carの取組みがデータを中核に融合しつつある今日、自動車産業が人々に提供する価値が大きくなっていることを私も感じています。今年の本イベントでは、自動車産業の変化を第一線で創造しているお客様を代表して、ソニー・ホンダモビリティ株式会社の高倉様、名古屋大学の高田教授様、トヨタ自動車株式会社の佐々木様、本田技研工業株式会社の野川様にご登壇頂きました。

オープニング

–竹川 寿也 アマゾン ウェブ サービス シニア事業開発マネージャー

オープニングでは、自動車業界全体で加速するIn Car/Out Car全方位のデジタル化と言う今回のAutotech Forumのテーマについて、SDV技術により人間中心に変わった車室空間や、自動車が後から進化する動き、データを駆使した新たな事業を創造する成長トレンドについて触れ、Forumの意図を説明しました。

AFEELAが目指すMobility Experienceのご紹介

–高倉 大樹 様 ソニー・ホンダモビリティ株式会社 ネットワークサービス開発部 General Manager
-柄澤 優子 アマゾンウェブサービス プリンシパルセールス

本セッションでは、ソニー・ホンダモビリティのモビリティブランドであるAFEELAのプロトタイプ車両(AFEELA Prototype 2024)をAmazonのシアトル本社前のThe Spheres広場に展示いただき、現地からAFEELAが目指す顧客体験について、生中継でご説明いただきました。モビリティがユーザーを認識し、ドアが開く様子や、誕生日やドライビングスコアなど、あたかもモビリティがユーザーの友だちであるかのごとくメッセージを提示してくれる様子をデモしていただけました。またSDVを中核に常に進化し続けるサービスを提供することで、ソニー・ホンダモビリティ様では、お客様との接点を長く深く維持し続けるバリューチェーンの構築についてもご説明いただきました。また、エンタテインメントや物流など幅広いサービスで、異業種のパートナー様とも連携したオープンなエコシステムの形成も紹介されました。

このAFEELAの構想をインフラストラクチャとして支えるAWSクラウドは、自動車のデバイス認証やデータ収集でAWS IoT Coreを提供、アプリケーションがデータやイベントの最新情報と同期を取って動作する機能として、AWS AppSyncを提供しており、これらを中核にAFEELAでは、ユーザー、デバイス、スマートフォンなどの認証、連携を実装しています。またデータレイク、分析にも様々なAWSサービスをご利用いただいており、今後もAWSはソニー・ホンダモビリティ様の新たなモビリティ体験の提供をご支援して参ります。

オープンSDVとクラウドサービスへの期待

–高田 広章 様 名古屋大学 教授

名古屋大学の高田先生は、日本におけるコンピュータ科学の重鎮のお一人であり、特に自動車産業に関する造詣も深く、自動車技術会や車載組込みシステムフォーラムなど多くの自動車関連団体の重職を務められています。本セッションでは急速に進む自動車のデジタル化(モビリティDX)やテスラ・中国OEMに代表される新興OEMの急速な進歩と言う大きなビジネス・技術環境の変化に対し、SDV技術を中核に日本の自動車産業をさらに成長路線に導くことを企図した経産省様・国交省様のモビリティDX戦略の意図と、高田先生がリードをされるオープンSDVイニチアチブの狙いについてご説明いただきました。

高田先生は、多種多様なハードウェアとソフトウェアの組合せで構成される自動車においては、SDVの考え方でソフトウェアとハードウェアの分離を行い、相互の進化を受け入れやすくすることが重要であることであることを説明され、次にSDVの進化をOTAによるアップデートが可能なステップ0、OTAにより機能向上し継続的に収益が上げられるステップ1、そしてサードパーティが開発したソフトウェアをインストールすることができる自動車になったステップ2と3段階の進化仮説に触れ、このステップ3を「オープンSDV」と名付けられました。オープンSDVの世界が来るためには安全性に関する取扱いが可能かと言った大きな課題はありますが、移動と言う価値など、自動車はプラットフォームとしてサードパーティに取り魅力的なプラットフォームではないかと高田先生は説かれました。その上で、サードパーティがソフトウェアを作りやすくするためにはビークルAPIの標準化が重要となると投げかけられました。そしてモビリティDX戦略でもビークルAPIの標準化に触れられており、現在COVESAのVSSなど海外でビークルAPIの標準化の動きがあることについても危機感を持たれておられます。そして名古屋大学が中核となりオープンSDVイニチアチブを立ち上げ、オープンなビークルAPI「Open SDV API」を策定していく方針を述べられました。

CXを中核にした「モビリティカンパニー」への取り組み

–佐々木 英彦 様 トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 CX CENTER担当主査 担当部長

佐々木様は、トヨタ自動車株式会社様の中で、広報、デジタルマーケティングを経てお客様接点(CX)の変革を手掛けられてきています。本セッションでは、トヨタ様が提供されている様々なサービスにおいて、これまでは個別に定義されていたお客様ID体系を、NPS®(ネット・プロモーター:スコア)を指標としてTOYOTAアカウントに統合されたCXの変革についてご紹介いただきました。この変革により、お客様のペルソナが推定できるようになり、また、どの顧客接点がお客様に影響を与えているかも具体的に把握できるようになったとのことです。さらに、CX基盤を通じたお客様からのフィードバックから、車両開発における機能やデザインなど最適な商品開発や改良にも活用が始まったそうです。特にサービスからのデータ分析から車両設計へのフィードバックについては、AWSもデータを中心にしたBig Loop構想をSDVで発信していたため、その構想が具現化されている事例として非常に印象に残りました。今後はトヨタブランドを中核に、サービス、トヨタ車の顧客接点をさらにつなぎ、お客様中心の変革を実現し、モビリティカンパニーとしてのトヨタブランドを目指されると締めくくられました。

佐々木様のご講演では、CXお取組み概要を広く言及いただき、CX基盤を構築にあたりAWSの各種サービスを使っていただいているとのことでしたので、AWSとしても、今後も一層、トヨタ様のCX基盤の充実に協力して参ります。

SDMが導くHonda第二の創業期

–野川 忠文 様 本田技研工業株式会社 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 コネクテッドソリューション開発部 部長

ホンダ様は、コネクテッドサービスを以前から手掛けられており、多くの世界初の取り組みを実施されてこられました。そしてコネクテッドサービスは情報配信から車の機能の一部に昇華するとのビジョンを示されました。次に野川様がAWSのイベントであるre:invent 2023にご登壇いただいた時の内容を振り返り、ソフトウェアディファインドモビリティ(SDM)を実現するために、In-CarとOut-Car一体に一歩踏み込んだ「クロスドメイン」連携を行ったことや爆速開発のために、縦割りからクロスドメイン開発のためのSDM Platformを企画、AWSのAmazon Simple Storage Service (Amazon S3) を使ったデータレイク、AWS IoT CoreAWS IoT Fleetwiseを使ったコネクテッド機能などで構築されるDigital Proving Ground (DPG)について紹介されました。また、組織も、従来の縦割り開発チームからDPG Steering Committeeの傘下に開発支援と開発推進の2グループに再編されたOne Teamによつ進められていると報告されました。そして表題にあるHonda第2の創業期として、電動化や知能化を軸としたソフトウェア領域での価値創造を目指すとの方針を示され、多様なモビリティを通じてHonda独自の価値を提供していくSDM世界の実現への意気込みを表明されました。

パネルディスカッション: In Car/Out Carのデジタル化が開くモビリティの未来

パネリスト
–佐々木 英彦 様 トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 CX CENTER担当主査 担当部長
–野川 忠文 様 本田技研工業株式会社 ソフトウェアデファインドモビリティ開発統括部 コネクテッドソリューション開発部 部長
–梶本 一夫 アマゾン ウェブ サービス プリンシパルソリューションズアーキテクト

ファシリテータ
–竹川 寿也 アマゾン ウェブ サービス シニア事業開発マネージャー

パネルディスカッションでは、トヨタ佐々木様、ホンダ野川様に加え、AWSからSDVの技術リプレゼンタティブである梶本も参加して、今回のフォーラムのテーマである「In Car/Out Carのデジタル化が開くモビリティの未来」について、司会の竹川により各パネラーからの考え方や取組みについて改めてディスカッションを行いました。

トヨタの佐々木様からは、CX基盤を通じてお客様起点でフィードバックが入ることが重要で、Out Carのサービス群からIn Carの車両設計が始まった今、「もうIn Car、Out Carと区別することをやめませんか」と、非常に印象に残るご提言をいただきました。

ホンダの野川様からは、DPGによる爆速化の取り組みそのものが、佐々木様のご講演を聞いて正しいと確信したことや、コネクテッドサービスを長年継続することで、お客様起点で車両設計やサービス企画することが大切であることを理解していること、組織としてIn Car、Out Car一体化していることに自信を持てたとのコメントもいただけました。

AWSの梶本からは、ご講演者のお二人の発言を受け、お客様起点で考えるとIn CarとOut Carは区別なく、連続している視点の大切さに感銘した旨を回答。またAWS自身が、多くのお客様に耳を傾け、共通した課題となっている部分でサービスとしてまとめてきた歴史をご紹介し、今後も自動車産業の成長に寄与できるように努力すると決意表明しました。

デモ展示

今回のAutotech Forumでは、会場に来られたお客様に、ミニブースにおけるデモ展示も行いました。デモ展示はAWSからだけではなく、自動車産業に貢献されているパートナー様にも出展いただきました。デモは以下の6点でした。

Elektrobit Automotive GmbH様: Power TrainにおけるEVバッテリープラントモデルの最適制御仮想ECU

スポーツモードなど走行モードにより配下のMCU群に指示を行うSoC上で動作するASIL-B取得のEB corbos Linux環境、バッテリー制御MCUで動作するEB tresos環境をAWS上で動かし、バッテリープラントモデルの制御最適化の試行錯誤をAWS上で行なう事例をご展示いただきました。

パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社様: IVI向け仮想ECU virtual SkipGen、Unified HMI

IVI向け仮想ECU virtual SkipGenでは、Android Automotive OSやAGL (Automotive Grade Linux)、QNXを動かし、その上でのアプリケーション開発をIVI向けECUが無くてもAWS上だけで行うことができます。さらにパナソニックオートモーティブ様がオープンソース化を推進されているUnified HMIを用いることで、様々なOSで制御されている車室空間のあらゆるディスプレイを一つの仮想ディスプレイからのマッピングとして定義でき、同じ車室空間体験の異なる車種への展開や、複数のディスプレイに跨る同時表示などの実装がAWS上で確認することで簡単になると言う事例をご展示いただきました。

Wipro Technologies Limited様: 自動運転アルゴリズム開発ツールチェーンでのシャドーモード実演

ADASの改良においては、現在のアルゴリズムと次のアルゴリズム候補の間で、認識性能が改善されるかを確認していくことが重要となります。Wipro様には、同じ認識対象のインプットに対し、現行アルゴリズムでの処理に加え、シャドーモードで新たなアルゴリズムを同時に動かし、両者での差分も提示できるSDVプラットフォームについてご展示いただきました。認識結果の差分をAWS上のCI/CD環境に自動で入力することで再学習が必要な映像シーンを自動選択し、アルゴリズムを改善することで認識率向上を図ると言う自動化について訴求いただきました。

富士ソフト株式会社様: 運転環境試験用車両シミュレータ

運転制御のアルゴリズム開発においては、制御アルゴリズム適用時の運転者の挙動が重要なインプットとなります。実際に運転者が着座し、緊急ブレーキを体験でき、その運転者の挙動を観測・分析できるドライビング・シミュレータを富士ソフト株式会社様にはご展示いただきました。また制動状況のシミュレーションもAWS上で生成することで、様々な制動パラメータによる走行データで実験できるようになっていることも訴求いただきました。

AWS: ① AWS IoT FleetWiseAmazon QuickSightを用いた路面画像認識の教師データ作成と学習

AWS IoT FleetWiseは、CANデータやADASで使われるカメラ映像を、予め設定した条件に合致した場合にクラウドにアップロードできます。このデモではカメラ映像から降雪やぬかるみなどの路面状況を認識するAIを学習により作成する時、同時にアップロードされるCANデータからタイヤのスリップ状況などを分析した実際の路面状況を教師データとして利用する使い方を訴求しました。Amazon QuickSightを用いて、各シーンごとにご認識してしまったカメラ映像を抽出し、再学習対象のデータとすることで、路面認識AIの精度を上げることができるようになりました。

AWS: ② 生成AIを活用した自然言語による自動運転学習用シーン検索

自動運転のアルゴリズム改善が必要になった時、膨大なカメラ映像の中から特定のシーンのみを再学習用のデータとして抽出したいことが、よくあります。このデモでは生成AIを用いて、自動的に分類されたカメラ映像のカットの中から、「交差点を人が渡っているシーン」など自然言語で指示することで、当該シーンが検索できることを訴求しました。生成AIは、今後、自動車業界においても多くの分野で利用されることが期待されています。

過去のイベント

AWS Autotech Forum 2023
AWS Autotech Forum 2022
AWS Autotech Forum 2021
AWS Autotech Forum 2020 #1
AWS Autotech Forum 2020 #2
AWS Autotech Forum 2019

著者

梶本一夫(Kazuo Kajimoto)
Principal Solutions Architect
Amazon Web Services, Inc.
好きなOLP(Our Leadership Principles)はBias for Actionです。