Amazon Web Services ブログ
【開催報告】製品・サービスのスマート化 〜モノ/コトの壁とその解決手法 〜
こんにちは!アマゾンウェブサービスジャパン合同会社で製造業のお客様を支援しているソリューションアーキテクトの村松、吉川、シニア事業開発マネージャーの和田です。
2024年10月3日に製造業向けオンラインセミナー「製品・サービスのスマート化 〜モノ / コトの壁とその解決手法 〜」を開催しました。セミナーの開催報告として、ご紹介した内容や、当日の資料・収録動画などを公開します。
製造業のお客様にとって、自社製品のスマート化や自社ソフトウェアの SaaS 化により、モノ売りからコト売りへ変革していくことが求められています。しかし、コト売りへの変革においては、システムだけでなく、組織、人材、開発プロセス、販売方法、KPIなど様々な変革の壁が存在します。
当セミナーでは、自社製品やソリューションのサービタイゼーションを検討 / 実施されているお客様に、実現するために課題となる部分のご説明や解決のための方法、お客様事例のご紹介を行いました。
どうぞ皆様の事業のご参考に、各講演者の録画/資料をご活用下さい。
サービタイゼーションの壁とその克服のヒント
登壇者:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニア事業開発マネージャー 和田 健太郎
動画:
コト売りにおいてはソリューションを素早く立ち上げ、かつ立ち上げたソリューションを継続的に改善することが重要です。しかし、コト売りへの変革において製造業のお客様は様々な課題に直面していらっしゃいます。Amazon ではイノベーションを起こすためには、組織、アーキテクチャ(システム)、メカニズム、企業文化の4つの要素が重要と捉えていますが、モノ売りとコト売りではこれらの4つの要素に大きな違いがあり、それらが「壁」としてコト売りへの変革を妨げています。
本セッションでは、これらの壁としてどのようなものがあるかをご紹介しつつ、製造業に求められる変革のヒントをご説明致しました。システム面でのクラウドの活用は前提として、組織/機能、KPI等の変革を合わせて進めて頂くことが重要です。
また、これらの変革に取り組まれているお客様の事例と、AWSのご支援内容をご紹介させて頂きました
製造業がデータビジネスはじめるってよ
登壇者:古野電気株式会社 IT部長 峯川 和久 様
動画:
古野電気様は魚群探知機や商船レーダーなど船舶電子機器で世界的に高いシェアをお持ちのグローバルメーカーです。本セッションでは IT部 峯川様から「製造業がデータビジネスをはじめる課題」について、自らが率いて古野電気様にデータビジネス基盤を立ち上げた理由、チャレンジ、ソリューションを語っていただきました。古野電気様は売上の7割を海の上のビジネスが占めます。マリンビジネスでの高いシェアを背景に、”Ocean 5.0”として「海との共存共栄」をテーマに新規ビジネスとして、漁業支援、養殖、自律航行、医療などの領域でのサブスク型のデータビジネスに取り組んでいます。
製造業がデータビジネスを推進する上で、3つの壁に直面します。(1)データビジネスの創出プロセスの違い:モノ売り(提供価値最大化)とデータビジネス(価値創造継続)では顧客との関わり方が全く異なリます。(2)マネジメント/人財戦略:メーカーの考えはトップダウン・リスク回避・スキル特化人財ですが、データビジネスではボトムアップ・チャレンジ重視・コミュ力多様性人財が重視されます。(3)採算管理/投資計画:メーカーは個別原価計算志向ですが、データビジネスでは一つのデータがさまざまなビジネスに利用されるためバスケット志向の損益管理が求められます。
これらの壁に対して峯川様は(1)創出プロセスのための「場」を作る。そのための「データ基盤」を整備する。(2)マネジメント/人財戦略としてサッカーフォーメーション型の組織運営。(3)採算管理/投資計画上「データ基盤」を1つに集約しそこでしっかり固定費管理をする。これらが重要と唱えられました。これを実現するために必要な「データプラットフォームの要件」を定義し、それを実現するデータ基盤「JuBuRaw(ジャブロー)」を AWS 上に構築されました。JuBuRaw はデータカタログ管理に Amazon DataZone を先進的に採用し、スピーディな開発のために AWS の Professional Service を活用されました。 高いデータビジネスのための壁を乗り越えるための古野電気様の取り組みはぜひ動画をご覧ください。 峯川様は日本のメーカーの維持とプライドと伝統を死守しつつデータプラットフォームを使いこなすことで企業成長を実現できると今後の抱負を語られました。
「お客様の声から学ぶ」製品・サービスの継続的改善と 生成 AI 活用の可能性
登壇者:横河電機株式会社 デジタル戦略本部 山下 純子 様
横河電機様は計測、制御、情報技術を基盤に多様な製品やソリューションを提供しています。安全で高品質な製品やサービスを提供することで、お客様の課題解決に貢献し、長期的なパートナーシップを築く取り組みを進めています。デジタル戦略本部山下様はコーポレート部門として社内の事業部メンバーと協業してデータ活用による社員生産性向上やお客様への価値向上に取り組んでいます。このセッションでは、製品に関わるデータの分析を行い製品・サービス改善を実現した事例や、組織横断的にデータを活用するまでに乗り越えた課題についてご紹介頂きました。また、生成AIを組み込むことで今後の更なる進化の可能性についても語って頂きました。
山下様の部門では、データ活用を推進していく上で、お客様に近いビジネス部門との協力を重要視しています。一方で、非 IT 人材におけるデータ・ドリブンマネジメントに対するスキルを持った人材育成・データ活用文化の強化を行なっていく必要があります。デジタル戦略本部では、BI ツールセミナーやデータリテラシートレーニングなどを全社に提供し、数百名から数千名規模の人材教育を行っています。更に、ただ受講するだけでなく、実践的なデータ活用まで踏み込んで改善の支援を進めています。結果として数億円規模のコスト効果を示すことができています。
また、生成 AI の活用にも言及されています。IT 部門として、Knowledge を蓄積するストレージ を用意できていても、それを活用するということができていないのが課題です。Knowledge データについて、特にコールセンターやアンケートのようなお客様の声を理解して活動するために、これまで NLP (自然言語処理) 技術を取り入れてデータ分析を進めてきました。しかし、大量のデータから意味のあるデータを抽出するためには、不要なデータを掻き分けていく前処理が必要になります。これに対して生成 AI によってお客様の声から重要なキーワードの抽出を行うことで、従来よりも容易に期待した精度が出せることが明らかになりました。また、PoC の際にご利用頂いた Amazon Bedrock について、安価で且つ手軽に使用でき、既存のデータ活用基盤からの拡張も容易に実現できた、といったご評価を頂いております。
「LOGINECT」で挑む、物流クライシスに向けたTOPPAN物流DXの取り組みのご紹介
登壇者:TOPPANデジタル株式会社 事業開発センター LOGINECT事業開発部 物流システム開発T 係長 武 孝 様
動画:
TOPPAN デジタル様は DX 事業推進のコンセプトとして、Erhoeht-X を掲げられ、「製造・流通 DX」をはじめとした 5 つのカテゴリーを重点的に事業拡大を行っていらっしゃいます。各事業はサイクル型ビジネスモデルを軸に展開していて、導入だけにとどまらず、BPO、データ分析、コンサルティング領域を通して付加価値の実現を推進されています。
物流 DX においては、「LOGINECT」というソリューションを提供され、人的リソース不足の課題に対し、「倉庫 DX」と「配送 DX」の2つのサービス基軸で次世代の物流エコシステム構築を目指されています。
本講演では LOGINECT の中でも「LOGINECT 可視化・分析サービス」に関して、個社対応システムから SaaS 化への展開に際して、ぶつかった複数の壁とそれらをどのように乗り越えたかについてお話いただきました。
まず、個社対応システムにおいては、「リソースに限界があり、ビジネスの拡大が困難」という壁に対して、「共通ソリューションを SaaS 化する」という方法でビジネス拡大を目指されました。しかし、SaaS 化した後は、「手動デプロイによる横展開時のスピード感の遅れ」「お客様ごとに異なるデータ形式に合わせた加工作業が発生」という新たな壁に直面されます。これらに対しては、「インフラを AWS リソースで完結することで Terraform を活用」「AWS Glue の活用でデータ構造の違いを吸収」「社内クラウド専門部隊構築」などの施策で解決を試みられています。
また、LOGINECT は「可視化・分析サービス」以外にも様々なソリューションを提供されていますが、昨今では様々なソリューションのインテグレーションやグローバル展開にも挑まれていらっしゃいます。講演の後半ではこれらの取り組みを進めるチームの役割や、新規ソリューションの内容、チャンレンジについてもお話頂きました。
スマートプロダクトビジネスを最大化する生成 AI 活用アーキテクチャ
登壇者:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 村松 謙
動画:
イベント最後のセッションでは、AWS よりスマートプロダクトにおける生成AI活用で克服すべき課題や解決するためのアーキテクチャ・AWS サービスをご紹介しました。
スマートプロダクトにおいては、ユーザーの声に迅速に応えてタイムリーに継続的に製品をリリースする必要があります。さらに、生成 AI の普及によってユーザーの声の分析や活用がさらに民主化されていき、あらゆる側面で顧客の声が活用されるようになっていくことで、改善のスピードが高速化されていきます。スマートプロダクトは、あらゆるフェーズで生成 AI を活用するユースケースがありますが、その中でも今回は Voice of Customer の活用・改善による顧客価値の向上にフォーカスしてお伝えさせて頂きました。
顧客価値を向上させるため、スマートプロダクトビジネスにおける Voice of Customer データの種類や、活用者となるステークホルダーの実現したい内容・KPI をご紹介しました。下の図のように、生成AIの登場により、大規模言語モデルを通じてより人間に近い推論能力を実現し、かつ自然言語による指示・質問をすることで、言語処理を簡単に実現することができるようになりました。本セッションでは、営業・マーケティング部門と保守・カスタマーサポート部門における課題と生成 AI の具体的なケイパビリティ・お客様事例をご紹介しました。
後半では、Voice of Customer データの分析を行なっていくにあたっての 3 つの課題 (品質・データコラボレーション・検索性) と AWS サービスによる改善方法についてご紹介しました。
最後に、生成 AI の活用をこれから始めていくお客様や使い始めていくにあたって不安があるお客様に向けて、コストや後戻りを最小限にして徐々にデータ・生成 AI 活用を始めていくアプローチや、AWS からご提供させて頂く支援プログラムのご紹介をしました。
おわりに
本セミナーでは、製造業のお客様が自社製品のスマート化や自社ソフトウェアの SaaS 化により、モノ売りからコト売りへ変革していくために乗り越えるべき壁や、その克服のヒントをご紹介し、実際にサービタイゼーションを実現されたお客様の事例と体験談を共有いただきました。また、スマートプロダクトにおける生成 AI の活用方法についてもご紹介させて頂きました。
本ブログは、事業開発マネージャーの和田健太郎、ソリューションアーキテクトの村松謙、吉川晃平が執筆しました。