予算も人も限られるベンチャーがスモールスタートでサービスを立ち上げ、
成長に合わせて拡張していくことを考えると、
スケーラビリティと安定性の高さを備えた AWS 以外の選択肢は考えられませんでした。
 
妹尾 賢俊 氏 TRENDE株式会社 代表取締役社長

東京電力グループの一員として、一般家庭向け小売電気事業や電力買取事業を手がける TRENDE株式会社。同社は、AWS のサーバーレスサービスをベースとしたマイクロサービスアーキテクチャで顧客情報や電力消費等を管理するバックエンドシステムを開発。わずか 6 ヶ月で電力小売サービス『あしたでんき』の営業を開始しました。その後も太陽光の発電量などを管理するシステムなどを順次追加して『UtilitySuite』へと拡張。システムの外販を目指すとともに、個人宅の太陽光パネルで発電した電気の直接販売(P2P 電力取引)に向けてさらなる機能強化を進めています。


東京電力ホールディングスの 100% 子会社として、2 0 1 7 年 8 月に設立した TRENDE(トレンディ)。“エネルギーから世界を変える、エネルギーで未来を変える”をコンセプトに、一般家庭向けの電力小売サービス『あしたでんき』と、太陽光発電システムを活用した電力サービス『ほっとでんき』を提供しています。

新電力の『あしたでんき』は現在、全国 6 エリアで展開しており、2018 年 4 月のサービス開始以来順調に顧客を獲得しています。2018 年 8 月に開始した『ほっとでんき』は、太陽光パネルを初期費用 0 円、工事費 0 円で家屋に設置し、電気料金を最大 20% オフで提供するサービスです(2019 年 12 月現在)。契約終了後は太陽光パネルが無償で譲渡されるため、災害時の停電対策としても注目を集めています。「私たちは、電力小売(ほっとでんき)をフェーズ 1、太陽光発電の第三者所有モデル(ほっとでんき)をフェーズ 2 と位置付け、将来的には太陽光パネルで発電した電気や蓄電池に貯まった家庭の電気を家庭間で売買する P2P(ピア・ツー・ピア)電力取引を実現し、再生可能エネルギーの普及を目指しています。」と語るのは代表取締役社長の妹尾賢俊氏です。

同社は当初、システム開発業務を東京電力のグループ会社に委託していたものの、さらなる短期間開発を実現するために AWS を活用し、自社専用のバックオフィスシステムを構築しました。

「予算や人が限られるベンチャーがスモールスタートでサービスを立ち上げ、成長に合わせて拡張していくことを考えると、クラウド以外の選択肢はありませんでした。その中でも AWS は、将来的にバックオフィスシステムを『UtilitySuite』として外部に販売することを見据えた時の大規模ユーザーの管理に耐えられるスケーラビリティと、負荷分散による安定性の高さがありました。」(妹尾氏)

技術面では、マネージドサービスやサーバーレスサービスが豊富でスケーリングが容易なこと、また日々の運用に負荷がかからないことが AWS 採用のポイ ントになりました。テクノロジーディレクターの武田泰弘氏は「Amazon RDS から Amazon Redshift のように、将来の拡張をイメージできるサービスが豊富に揃い、安心してビジネスを推進できることが魅力でした。」と語ります。

バックオフィスシステムの開発は 2017 年 10 月からスタート。6 ヶ月後の 2018 年 4 月に『あしたでんき』のサービスインに合わせて電力使用量管理システムと、請求管理システムの 2 つを先行稼働しました。その後、3 ヶ月に 1 度のペースで電力需給管理システム、スマートメーターのデータ管理システム、電力広域的運営推進機関(OCCTO)とデータを連携するスイッチング支援システム、太陽光発電量管理システムなどを順次リリースし、2019 年 12 月時点で 7 つのバックエンドシステムで『UtilitySuite』を構成しています。

7 つのバックエンドシステムは原則として、AWS Lambda などのサーバーレスアーキテクチャと、Amazon ECS や AWS Fargate などのマネージドサービスを用いて構成し、スケーラビリティを確保しながら、管理負荷の軽減を図っています。開発時は AWS のソリューションアーキテクトによるサポートが効果的だったといいます。

「P2P 電力取引のアーキテクチャを検討していた際に AWS のソリューションアーキテクトにアーキテクチャレビューを無料で実施していただき、プロフェッショナルの立場から有用なアドバイスがもらえたことは助かりました。少ない自社要員で開発を進める中、AWS のテクニカルサポートにも電話や Web を介して丁寧なアドバイスをいただき、ストレスなく開発を進めることができました。」(武田氏)

P2P 電力取引の基盤となるバックエンドシステムを短期間で構築した TRENDE。妹尾氏は「もしパッケージを採用してカスタマイズ開発していたら、億単位のコストがかかり、運用も相当の負担になっていたでしょう。AWS を採用したことで安価なコストでサービスを早期に立ち上げることができました。」と語ります。また、AWS のベストプラクティスの活用によってセキュリティの強化も実現し、顧客情報や契約情報などを安全に管理できるようになりました。

ビジネス面では、BI ツールの Amazon QuickSight が大きな効果をもたらしたといいます。同社では、毎日の発電情報を Amazon QuickSight を通して可視化し、経営層やビジネス関係者にメールで報告しています。関係者は発電量の推移を見ながら、不規則なサービス停止をいち早く突き止め、工事担当者に設備確認や修理の依頼を出すことで早期の改善を図っています。

「ダッシュボードを自前で作れば工数がかかりますが、Amazon QuickSight を使うことで簡単にデータにアクセスする環境をビジネス部門に提供することができました。」(武田氏)

電力小売事業者に課せられている月次、四半期、年次単位の行政報告のレポート作成機能も Amazon QuickSight をベースにしています。これによって行政報告書の作成に関する工数の大幅な削減が実現しています。

「行政報告書は都市によって形式が変わり、従来は担当者がほぼ張りついて対応していました。Amazon QuickSight 導入後は 2 人月分の工数削減ができました。」(妹尾氏)


 

同社は今後も自社サービスの強化やリニューアルに向けて、AWS のサービスを活用しながら継続的にバックエンドシステムを追加開発し、将来的には『UtilitySuite』として外販する方針です。2020 年以降に向けては、PV (太陽光発電パネル)データの連携を前提とした IoT 基盤を構築し、サービスを契約した顧客にはスマートフォンアプリの提供を予定しています。

2019 年 6 月には東京大学、トヨタ自動車株式会社、TRENDE の 3 社でブロックチェーンを活用した P2P 電力取引システムの共同実証実験を開始しました。実証実験では、1 年間の計画で市場取引を通じて電力を売買することの経済性や、電力消費量が変化する電動車の電力需要予測アルゴリズムの検証などを進める予定です。そして、将来的にはデータを活用したビジネスを目指していきます。妹尾氏は「家庭での電力利用を通して得られる情報は非常に価値の高いデータです。私たちはここで得られたデータを基盤に、電気、自動車、金融、決済、ヘルスケアなどの異業種と連携しながら世の中に新たな価値を提供していきます。」と話します。

妹尾 賢俊 氏

武田 泰弘 氏



AWS が提供するサーバーレスサービスに関する詳細は、サーバーレスコンピューティングの詳細ページをご参照ください。