Amazon Web Services ブログ
デジタルツインを利用して、 MHP と AWS と共に電気自動車バッテリーの情報を推進する
現代の車は単なる交通手段を超えて、つながったモノのインターネット (IoT) デバイスに進化しており、従来の車における所有と使用のあり方を再定義しています。
このビジョンの変化は、移動に関連する課題の解決方法を変えています。自動車産業は、スマート充電、バッテリーの状態監視、予知保全、フリート管理、循環型経済などの課題に対処するために、人工知能 (AI) による「デジタルツイン」を活用しています。
デジタルツインとは、物理的なシステムを仮想的に表現することであり、データを動的に更新して物理システムの構造、状態、振る舞いを模擬します。
Amazon Web Services (AWS) は、デジタルツインの使用事例の幅広さを考慮して、顧客が使用事例を分類しデジタルツインを大規模に構築および展開するために必要なサービス、技術、データ、モデルを理解するのを支援するために、4-level index を提案しています。
2022 年、Management- und IT-Beratung GmbH (MHP) は AWS との戦略的協業契約を発表し、モビリティと製造業におけるクラウドの変革をさらに支援することになりました。MHP は、モビリティと製造環境における長年の専門知識をもつ AWS のアドバンスドティアサービスパートナーであり、クラウド戦略、アーキテクチャ、開発、移行、運用の課題に焦点を当てて協力しています。
この記事では、MHP が AWS と協力して電気自動車のレベル 4 デジタルツインを構築し展開する取り組みをご紹介します。具体的にはライブデータ、フリートの知識、AI を活用して電気自動車 (EV) のバッテリーを監視および分析する手段についてです。
フリートからドライバーの振る舞い(ドライバーツイン)とバッテリーの特性(バッテリーツイン)を学ぶことによってバッテリーの健康状態とパフォーマンスの管理を行う事例をご紹介します。また、業界における課題についても触れ、AWS 上で構築および展開された技術的なソリューションとリファレンスアーキテクチャについて深掘りします。
電気自動車のバッテリーに関する課題
電気自動車のバッテリーの管理と最適化は、バッテリー製造業者、自動車メーカー (OEM) 、および利用者の全てにとって重要です。
電気自動車のバッテリーに関して、最適な長期健康状態と残存価値に向けてどのように充電するかの最適解を導き出すのは難しいです。なぜなら、それぞれの電気自動車は異なる環境条件や使用パターンに晒されているからです。
結果として、各バッテリーそれぞれの具体的なサービス履歴に基づいて個別に運用性能を計算する必要があります。バッテリーの状態 (SoH) や充電状態 (SoC) などの特性をモニタリングし予測することで、航続距離の懸念や予知保全、残存価値、および再利用などの課題に対処できます。
現在、バッテリーのこれらのパラメータを計算するために開発された物理ベースのモデルには、2 つの主な問題があります。精度が低いことと、計算コストが高いということです。これらのモデルは、ドライバーの振る舞いなどの重要な要素を過度に単純化(または無視)するか、逆に詳細なバッテリー電気化学を数値的に解くことを試みて過度に複雑化してしまっていることが課題です。
物理ベースとデータドリブンのハイブリットアプローチを使用したデジタルツインによって、現実世界の要素の影響を考慮しながら、リアルタイムに実行可能な運用モデルを作成することができるようになります。
ソリューションのショーケース
この記事で詳細に説明されているソリューションは、いくつかの課題に対処する必要があります。以下の要件を満たす必要があります。
- 大規模な車両台数に対してスケーラブルであること。
- デジタルツインがより複雑になるにつれて、コンポーネントを追加できるようにモジュール化されていること。
- 個々の電気自動車のモデルを自動的に再キャリブレーションし、正確な予測を続けるためのスケーラブルなメカニズムを提供できること。
以下の図 1 に示されているスクリーンショットは、4 台の車両フリートにおける展開ソリューションです。また以下のビデオも、MHP のデジタルツインのプラットフォームを理解するのに役立ちます。
バッテリーの健康状態は、電気自動車の残存価値の直接的な指標です。SoH の劣化は、使用パターンや環境条件、そしてバッテリーの管理に強く依存しています。
ショーケースでは、運転パターンに基づいて EV のバッテリーの SoH を予測することに焦点を当てています。私たちは、2 つのデジタルツインを使用して電気自動車をモデル化しています。1 つ目はドライバーをモデル化し、2 つ目はバッテリーをモデル化します。両方のデジタルツインには、人工的なドライバーの振る舞いデータおよびバッテリーの劣化データを使用した合成データが利用されます。
ドライバーのデジタルツインは、次のトリップがいつ発生するか、トリップの所要時間はどれくらいか、そして他のドライバーに関連する情報を、カーネル密度推定を用いた振る舞いモデルに基づくサンプリングベースのアプローチで予測します。バッテリーのデジタルツインは、ドライバーのデジタルツインからのデータを使用して、バッテリーの将来の健康状態を予測し、バッテリーの劣化をモデリングします。
図 1 – 4 台の車両フリートにおける展開ソリューションのスクリーンショット
サービスアーキテクチャ
ここに示されているアーキテクチャでは、AWS IoT FleetWise を使用してシミュレートされた車両データを Amazon Timestream データベースに取り込みます。データは、カスタムビルトの MHP デジタルツインサービスによって受信され、予測メタデータは Amazon DynamoDB に保存され、予測結果は再び Amazon Timestream に格納されます。
予測結果は AWS IoT TwinMaker にフィードされた後に、Amazon Managed Service for Grafana を介してフリートオペレーターが簡単に使用できるダッシュボードで健康状態や他の車両情報を監視できるようになります。
図 2 – 全体的なサービスのアーキテクチャ
MHP のデジタルツインサービスは、レベル4のデジタルツインソリューションの中心的な役割を果たします。運用データをデジタルツインモデルに渡し、モデルを実行し、モデルエラーを計算し、必要に応じてデジタルツインモデルを再キャリブレーションします。
このサービスは、aws-do-pm のオープンソースフレームワークの一部として開発されたモデルキャリブレーション技術を活用しています。図 3 は MHP のデジタルツインサービスのアーキテクチャを示しています。
MHP のデジタルツインサービスには、新しいコンポーネントが追加されるにつれて成長する、いわばモジュラー型デジタルツインを可能にする 2 つの主要な機能があります。
まずデジタルツインは、各々が独自のデジタルツインで表されるサブモジュールに分割されます。それぞれの子デジタルツインは相互作用することで、親ツインの振る舞いを合成することができます。例えば、バッテリーは、セルのデジタルツインを使用してモデリングすることができますし、異なるコンポーネントのデジタルツインを使用して車をモデリングすることができます。モデリングの深さは、ユースケースと利用可能なモデリング技術に依存します。
次に、図3に示されるように、各デジタルツインは3つのモジュールに分割されます。新しいデータが利用可能になる度にモデルを更新して予測を改善するために、これらのモジュールはレベル4のリビングデジタルツインの基本的な要件を反映しています。これを可能にするために、すべてのデジタルツインにはデータサービス、更新サービス、予測サービスの 3 つのモジュールが含まれています。
図 3 – デジタルツインサービスのアーキテクチャ
データサービスは、モデルへのデータの取り込みを処理します。また、予測結果をデータベースに書き込み、モデルパラメータをシリアライズする責任も持ちます。
更新サービスは、初期トレーニングを実行したり、モデル全体を更新したり、予測エラーが大きくなった場合にモデルにベイジアンキャリブレーションを実行することができます。
このベイジアン更新は、非線形システムのパラメータ推定に使用される Unscented Kalman Filter (UKF) に基づいています。UKF は、ガイダンス、ナビゲーション、車両の制御からロボットの動作計画や軌跡最適化まで、さまざまなフィールドで適用される手法です。UKF は、予測モデリングのための aws-do-pm フレームワークでも中心的な役割を果たしています。
これらの 3 つのモジュールは、個々のタスクとして開発され、AWS Fargate 上に展開されます。各サービスは、スケーラビリティを確保するために Application Load Balancer を使用します。AWS Fargate 上のそれぞれのツインサービスとモジュール間メッセージのやり取りは、リモートプロシージャコール (RPC) フレームワークである gRPC を介して処理されます。
新しい外部データは、Amazon Simple Notification Service (SNS) トピックで収集され、AWS Lambda 関数に受信されます。Lambda 関数は gRPC リクエストを使用して、新しいデータを対応するデジタルツインに転送します。
結論
この記事では、MHP が AWS と協力して電気自動車の課題、特に EV バッテリーのパフォーマンスに対応するためにモジュラー型でスケーラブルなデジタルツインソリューションの構築に取り組んでいることに触れました。
このソリューションは、AWS が提案する4-level のインデックスに基づくレベル 4 のリビングデジタルツインです。詳細については、 MHP のホワイトペーパーやウェビナーをご覧ください。
上記は自動車産業の例ですが、デジタルツインには無限の可能性があります。
MHP – AWS パートナースポットライト
MHP は、 1996 年に Porche AG の子会社として設立された AWS のアドバンストティアサービスパートナーです。 MHP のアプローチは、自動車業界をはじめとするさまざまな業界に対するマネジメントおよび IT コンサルティング、および深いプロセスノウハウの提供を含んでおり、顧客が自社のビジネスの将来をより良いものにすることができるよう支援しています。
本ブログは、 Using Digital Twins to Drive Electric Vehicle Battery Insights with MHP and AWS を翻訳したものです。
翻訳は Solutions Architect Leader ショーン・セーヒーと Solutions Architect 佐藤高士が担当しました。