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デジタルメディアにおけるコンテンツのパーソナライゼーションのメリット

人工知能 (AI) と機械学習 (ML) により、パーソナライズされたユーザー体験を簡単に作成できます。あなたがデジタルメディアを展開している場合、 AI/ML を使用して、個々のユーザーの関心に合わせてコンテンツを表示およびレコメンドすることができます。パーソナライズは顧客満足度を高め、ユーザーエンゲージメントを向上させ、編集およびコンテンツ作成スタッフの作業負荷を軽減できます。このブログ記事では、Amazon Web Services(AWS) の AI/ML サービスである Amazon Personalize を使用して、コンテンツをカスタマイズする方法について説明します。

パーソナライゼーションの利点

パーソナライゼーションの価値は、複数の業界で実証されています。2021 年のマッキンゼー社の報告書によると、71% の顧客がオンラインでパーソナライズされた体験を期待しており、自分の嗜好に基づいてコンテンツや製品をレコメンドする企業を好んでいます。パーソナライゼーションを実施した企業は、それらの活動から 10~15% の収益増加を見ました。

デジタルメディアを展開しているパブリッシャーもパーソナライゼーションから同様の恩恵を受けています。例えば、中央ヨーロッパの大手ニュースサイトは、AWS パートナーである Ring Publishing が作成したパーソナライゼーションサービスを導入しました。Ring のサービスは、ユーザーの関心に合わせてホームページをカスタマイズします。このニュースサイトは、ユーザーエンゲージメントが 30% 増加し、消費されるコンテンツの多様性が 400% 増加しました。つまり、ユーザーはサイトに長く滞在し、より幅広いコンテンツとのやり取りをしていたのです。編集者も、ホームページの管理に費やす時間が 50% 減り、新しいコンテンツの作成などの他の作業に集中できるようになりました。

Amazon Personalizeの利用

従来、パブリッシャーはユーザー体験をパーソナライズするために複雑なルールを作成していました。ユーザーが条件 A 、 B 、 C に合致した場合、コンテンツ X 、 Y 、 Z を表示するといったルールです。しかし、ルールベースのシステムは脆弱で保守が難しい傾向があります。ユーザーが実際に行動したことから学習しないためです。代わりに、プログラマーが状況の変化に対応するためにルールを手動で更新する必要があります。

Amazon Personalize のようなサービスは、より簡単でスケーラブルな方法でおすすめを行うことができます。特別なコードを書く代わりに、データセットに対して AI/ML アルゴリズム(レシピ)を実行してトレーニングし、おすすめを行えるようにします。 Amazon Personalize には、さまざまなおすすめシナリオに対応する複数のレシピが用意されています。ユーザーに表示するコンテンツをパーソナライズするには、 “User Personalization” レシピを使用できます。

Workflow diagram showing typical Interactions with Amazon Personalize

図1. Amazon Personalizeとの典型的なやりとり

レシピを使用するには、最初にユーザー、コンテンツアイテム、およびコンテンツとの過去のユーザーインタラクションに関するデータをインポートします。次に、通常は Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) バケットからデータを読み取らせることで、レシピを訓練してモデルを作成します。最低でも 1,000 回のインタラクションと、それぞれ少なくとも 2 回のインタラクションを持つ 25 人のユーザーをインポートする必要があります。この記事の執筆時点では、 Amazon Personalize は最大 1 億人のユーザーと 30 億回のインタラクションを訓練目的で考慮します。訓練データが多ければ多いほど、おすすめの精度が高くなります。ただし、訓練時間に応じて課金されるため、予算と訓練目標のバランスを取る必要があります。訓練が完了したら、モデルをキャンペーンの一部として展開し、レコメンドをリクエストできるようになります。学習、デプロイ、レコメンドリクエスト、価格設定の詳細については、 Amazon Personalize のドキュメントをご覧ください。

ニュースの速報や映画レビューなど、新しいコンテンツアイテムが公開された場合はどうなるでしょうか。アイテムが新しいため、モデルにはユーザーがそのコンテンツに興味があるかどうかを知るインタラクションデータがありません。 User Recommendations レシピはこの問題を 2 つの方法で解決しています。 1 つ目は、レシピが自動的に新しく公開されたアイテムの一定割合をおすすめに含めることで、ユーザーがそのコンテンツにどのように反応するかのデータを収集できることです。キャンペーンのセットアップ時に、おすすめに含める新しいアイテムの割合を制御できます。システムが新しいアイテムをおすすめする 2 つ目の方法は、コンテンツデータをロードする際に提供された説明、リリース日、キーワードなどのメタデータを調べることです。レシピはメタデータを使用して、新しいアイテムが以前に公開されたコンテンツとどの程度類似しているかを判断します。そして、その類似性に基づいておすすめを行うことができます。新しいアイテムや、いわゆるコールドアイテムの取り扱いについては、こちらで詳しく説明されています

コンテキストとメタデータを使ってレコメンデーションを改善する

ユーザー、アイテム、インタラクションに関するメタデータは、関連性の高いレコメンデーションを行う上で非常に重要です。説明やキーワードなどのメタデータが、 Amazon Personalize に新しいコンテンツをレコメンドするのに役立つことは既に説明しました。ユーザーのメタデータも、レシピがユーザーの関心事を理解するのに役立ちます。例えば、国の異なる地域の読者が特定のトピックに興味があることがわかっている場合は、ユーザーデータセットに位置情報を含めるべきです。 Amazon Personalize がユーザーにレコメンデーションを行う際、ユーザーの位置を考慮に入れます。

インタラクションデータにもメタデータを追加できます。少なくともインタラクションにはユーザーとコンテンツアイテムの識別子、およびインタラクションが発生した時刻のタイムスタンプを含める必要があります。コンテキストのメタデータも非常に価値があります。例えば、ユーザーは使用デバイスによって読書習慣が変わることがよくあります。携帯電話では、ユーザーは短いコンテンツアイテムを好む傾向があります。デスクトップやタブレットを使用する場合は、長いコンテンツを好む可能性があります。したがってインタラクションデータセットにデバイスの種類を記録しておくと、 Amazon Personalize がこの行動から学習できるようになるため良いでしょう。レコメンデーションリクエストを送信する際、ユーザーの現在のデバイスの種類をコンテキストパラメータとして含めることができます。 Amazon Personalize はそのコンテキストを応答に反映させます。重要になるかもしれないその他のコンテキスト項目には、利用可能な帯域幅、インタラクションが発生した地理的位置、あるいは天気などもあります。例えば食べ物や飲み物に関するコンテンツを出している場合、天気が暑いときは Amazon Personalize にアイスドリンクや冷たいデザートをレコメンドさせたいかもしれません。

ユーザーとコンテンツに最適なレコメンデーションを得るまで、データセットに提供するメタデータを試行錯誤し、作業を繰り返す必要があります。メタデータとコンテキストの重要性を説明したブログ記事はこちらにあります。ユーザーがどれだけのコンテンツアイテムを閲覧し、コンテンツとどれだけ長く関わったかを示すメトリクスを追跡してください。次に、異なるメタデータオプションを比較するために A/B テストを実行できます。エンゲージメントメトリクスが改善されれば、適切なコンテキストとメタデータを提供していることがわかります。

ユーザーに興味のあるものだけを常に表示すべきか?

コンテンツをパーソナライズする際、 “filter bubbles” や “echo chambers” を作らないよう注意する必要があります。ユーザーは興味のあるものしか見られなくなるため、新しいものを探索したり発見する能力を失ってしまいます。パーソナライズに依存するあらゆる業界でフィルターバブルが起こり得ます。ある食品配達サービスの ML エンジニアは、ブログ投稿で「質の高いレコメンデーションとパーソナライズを行うには、ユーザーについて既知の情報と、彼らが好むかもしれない新しいものを上手にバランスさせる必要がある」と指摘しています。

Amazon Personalize はユーザーが新しいものを探索する必要性を認識しており、レコメンデーションに「探索アイテム」を含めることができます。 User Personalization レシピには、 exploration_weightexploration_item_age_cut_off のパラメータがあり、システムのセットアップ時に設定できます。 weight を 0 に設定すると、レコメンデーションに探索アイテムは含まれません。 1.0 に近づけるほど、より多くのアイテムが含まれます。デフォルト値は 0.3 です。 age cutoff パラメータは、探索アイテムの最大経過日数を制御します。例えば、値を 7 に設定すると、 7 日以上経過したコンテンツは探索アイテムとして含まれなくなります。

ニュースや学術出版社は、ユーザーにどの程度パーソナライズされたコンテンツを表示するかについて特に敏感です。これらのパブリッシャーは権威ある声を重視しており、専門家が選んだコンテンツを強調したがります。 2018 年、ニューヨーク・タイムズの CTO は次のように説明しています。「ニュースのパーソナライズについて、読者は複雑な気持ちを抱いている。判断と権威に基づいて世界を描写されたものと、自分の関心を反映したものの両方を求めている」

ニューヨーク・タイムズは、ホームページの特別な 「For You」 セクションでのみパーソナライズされたコンテンツを表示することで、編集権を維持しています。 AWS パートナーの Ring Publishing も、編集者が選んだコンテンツとパーソナライズされたコンテンツのバランスを取る同様のアプローチを採用しています。 Ring のソリューションでは、編集者がホームページの特定のブロックをパーソナライズ専用に指定できる一方、他の部分は編集者が選んだコンテンツや、編集者と AI が選んだコンテンツの混合になっています。

Amazon Personalize を使えば、パーソナライズされたアイテムと手動で選択されたアイテムを組み合わせたレコメンデーションを表示できます。 User Recommendations レシピは、 Promotions を通してこの使用例をサポートしています。まずアイテムデータセットで、編集者が選んだコンテンツをメタデータフィールドで識別します。例えば 「SELECTED」 というフィールドを作り、 「True」 または 「False」 を設定します。次にレコメンデーションを要求する際、プロモーションアイテムの割合と、作成したメタデータフィールドを選択するプロモーションフィルターを指定します。この場合、フィルター式は次のようになるでしょう。

INCLUDE ItemID where Items.SELECTED IN ("True")

レコメンデーションでコンテンツアイテムを促進する詳細については、 Amazon Personalize のドキュメントをご覧ください。

まとめ

このブログ記事では、 Amazon Personalize でよりよいユーザー体験を作成する方法について説明しました。デジタルメディアを展開している場合、ユーザーにコンテンツをパーソナライズすることで以下が可能になります。

  • ユーザーエンゲージメントの向上
  • スタッフの生産性向上によるコスト削減
  • コンテンツ消費の多様化による投資の最大化

パーソナライズには全てに対応できる解決策はありません。各パブリッシャーは、ビジネスニーズを満たすためにアプローチをカスタマイズする必要があります。新しいコンテンツと古いコンテンツをどの程度レコメンドするべきでしょうか ? 手動で選択したコンテンツと AI が選択したコンテンツをどのくらいの割合でレコメンドするべきでしょうか ? ユーザーの関心に合わせたコンテンツと新しいコンテンツの探索をどの程度奨励すべきでしょうか ? どのメタデータとコンテキストフィールドが最も関連性が高いでしょうか ? パブリッシャーは、パーソナライズをユーザーに最高の体験を提供するために、時間をかけて改善・調整を重ねる反復プロセスとして扱うべきです。

パブリッシャーとして、パーソナライズがどのように顧客満足度を高め、イノベーションにつながり、コストを削減し、効率を上げるかを決定します。 Amazon Personalize の詳細については、サービスドキュメントをご覧いただくか、 AWS の担当者にお問い合わせください。

翻訳は ソリューションアーキテクト 紙谷が担当しました。原文はこちらです。

Demian Hess

Demian Hess

Demian Hess は AWS のシニアパートナーソリューションアーキテクトであり、デジタル出版に注力しています。出版業界で 18 年以上の経験を持ち、デミアンはデジタルアセット管理、コンテンツ管理、および NoSQL とセマンティック Web テクノロジーを使用した柔軟なメタデータスキームについて広く執筆しています。