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組織の人材戦略は変革の目標と合致していますか
本記事は、2024 年 7 ⽉ 3 ⽇に公開された ” Does Your People Strategy Match Your Transformation Objectives? “を翻訳したものです。
なぜ多くの企業のイノベーションプログラムは失敗するのでしょうか。
その答えは、組織の複雑さと同じぐらい複雑です。厳格すぎるガバナンスモデル、縦割りのチーム、厳しい規制環境、官僚的な意思決定などが主な原因として指摘されることがありますが、見過ごされがちな領域が 1 つあります。それは人材戦略です。
人材プロセスは、イノベーションを支援するか、それとも阻害するかのどちらかです。中間地点はありません。
私は最近、同僚の Mark Schwartz が書いた「 Adaptive Ethics for Digital Transformation 」という本を読みました。この思考を刺激する挑戦的な本の内容を要約しようとは思いません ( 特に帽子、食べ物、神話上の怪物の例え話に惹かれる方には )。その代わりに、本の中の1つの引用について考えを述べたいと思います。これは本の主要なテーマではないので、 Mark の著作権を侵害しているわけではありません (ぜひその本を読んでみてください。素晴らしい本です)。
エンロンの崩壊の話の途中で、Mark は次のような言葉を述べています:
「文化は、従業員を成功に導くものを中心に形成される」
Mark は、エンロンの掲げた価値観が、組織内での個人の成功や昇進につながるものとは全く異なっていたことを示しています。価値観自体が問題だったのではなく、現実との乖離が問題だったのです。
私はアマゾンでの 11年間 ( AWSとAmazon.comの両方 ) において、人材と企業文化に焦点を当ててきました。私は企業文化の専門家で、常に「文化が最も重要なもの」という視点で世界を見ています。そして、地球上で最も顧客中心主義の企業になるというミッションを果たすために、意図的に企業文化を進化させてきた組織で働いています。しかし、Mark の言葉は他の組織にも当てはまるのでしょうか ? 私はそう考えており、多くの組織変革が頓挫するのは、組織が掲げる文化的価値観を従業員の育成、業績評価、そして報酬にまで反映させることに失敗した時だと強く思います。
過去 5 年間で、私はほぼすべての業界にわたる世界中の 1,000 人以上の組織リーダーたちと対話を重ねてきました。その中で、ある会話が特に印象に残っています。それは、組織変革を追求する際には人材戦略も見直す必要性を示すものでした。
数年前、私はある世界的な大手石油・ガス会社のイノベーション責任者 (仮にザビエルと呼びます) と時間を過ごす機会がありました。エネルギー業界の多くの既存組織と同様に、ザビエルの会社も自社を変革し、よりイノベーティブになる緊急の必要性を感じていました。その従来の持続可能で収益性の高いビジネスモデルでは、枯渇する天然資源と高まるエネルギー需要への対応ができなくなっていたのです。
会話の中で、ザビエルは会社全体でイノベーションを推進するための方法について話してくれました。それには、経営陣からの高水準なイノベーション目標、各組織へのイノベーション予算、特定の課題に取り組む小規模チーム、ハッカソン、表彰や賞与など、あらゆる手段でした。
彼は言いました。「このプログラムを1年半実施しています。そして、社内にはうまくいっている部署もあります。しかし、私達が期待していたほどには浸透していません。私たちは実験をしているわけではありません。私たちは依然として官僚的で、意思決定が遅いのです。人々は革新的なプロジェクトに参加しようとしません。私の何が間違っているのでしょうか ? 」
ザビエルの計画は、組織のイノベーションを推進するための教科書的なアプローチとほぼ一致していました。正直なところ、彼が何を見落としているのか思い当たりませんでした。1 時間後、私たちは昼食を取りながら、アマゾンのリーダーシップ原則とその報酬哲学へ話題を移しました。アマゾンは長年にわたり、各従業員の全体的な報酬の重要な一部として会社の株式を含めてきました。この方法は、私たちのリーダーシップ原則のオーナーシップと一致しています。
リーダーはオーナーです。リーダーは長期的視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。
ここで言う「リーダー」とは、肩書や役職に関わらず組織内のすべての従業員を指します。誰もが周囲の人々の行動に影響を与える事ができるので、責任あるリーダーの心構えで仕事に取り組む必要があります。そしてAWSでは、「リーダーはオーナーです」というのは文字通りの意味があります。役割と結果に対する責任を持つことに加えて、各従業員がそれぞれ会社の一部を所有し、組織の長期的な成功から利益を得られます。株式を全従業員に付与することで、個人の動機づけと組織の目標を一致させているのです。
このオーナーシップの考え方は、私がザビエルと会話していたイノベーションの課題とどのように関連しているのでしょうか? 私が報酬哲学の詳細を共有すると、ザビエルは私を遮って言いました。「待ってください、全員に株が支給されているのですか ? 」
「そうです。もちろん、ジョブレベルや仕事のパフォーマンスに基づいて付与される量は異なります。パフォーマンスが良くない人は株を受け取れないこともあります。ただ、それ以外の従業員全員に、毎年の報酬の一部として株が支給されるのです」
「へぇ」と彼は言いました。「うちの経営陣は成果主義を信じています。私たちも株を与えていますが、10人いるチームのうち上位2人しか対象にしていません。それは大きな報酬で、年俸の30%にもなることがあります。」
経営陣が株式報酬を厳しく審査し、それを受け取った人々は通常、その年の完璧な結果を出していました。全ての目標と目的を達成していたのです。そのような環境で、わずかでも失敗のリスクのあるプロジェクトに手を挙げる人がいるでしょうか?
私にも共感できる部分があります。私は大学生の子供が 3 人います。アメリカでは、それは子供たちの教育に多額のお金をかけているということです。私なら、ザビエルの会社のモデルに従って 30% の昇給を得られれば、確実に達成可能な目標を設定し、それらの目標を他の何よりも綿密かつ容赦なく追及するでしょう。すべての人がお金に動機づけられるわけではありませんが、完璧な実行を報酬とする文化は、実験とイノベーションに逆行するものです。経営陣は「素早く失敗せよ!」と言うかもしれませんが、報酬と是正のシステムは逆のことを伝えています。
私がザビエルと話した1年後、彼の会社はAWSのデジタルイノベーションチームと提携し、5 つの重要な実験に取り組み、従来の 3 分の 1 の期間で実行しました。それらの実験のうち 2 つは現在も本番環境で稼働しています。私たちの会話がザビエルの会話の変化どの程度関係していたかは分かりませんが、昨年、同じ組織のリーダーシップの方々とも会話する機会がありました。彼らは会社の報酬アプローチを改訂し、すべての従業員に対して株式を提供するようになっていたのです。
ここでの変革の教訓は「ただ従業員への報酬の与え方を変えればいい」というわけではありません。どんな大規模な組織の変革にも、それによって生じる課題を解決する万能薬はありません。しかし、自分の組織のあらゆる側面、特に人材に関する実践、を見直す意思のあるリーダーは、より持続的な変革を導く可能性が高いのです。
私からいくつかのアイデアを提案しましたが、より良いアイデアがあればお聞かせください。
– Stephen
本記事は、カスタマーソリューションマネージャーの宮本雅勝が翻訳を担当しました。