Amazon Web Services ブログ
AWS Supply Chain と SAP S/4HANA を使用したサプライチェーンの回復力向上とコスト最適化
はじめに
現代のサプライチェーンを管理するには、グローバルな変動、輸送の混乱、予期せぬ顧客需要の変化など、課題がつきまといます。これらの課題に対処するには、サプライチェーンの俊敏性、スケーラビリティ、イノベーションが必要です。AWS Supply Chain は、お客様の課題を解決し、サプライチェーン運用の変革を加速できる選択肢を提供します。
AWS Supply Chain は、需要予測、複数拠点での在庫管理、サプライヤー計画など、サプライチェーン管理に特化した機能を提供しています。連携可能性を意識して作られた AWS Supply Chain は、既存の ERP (Enterprise Resource Planning) システムやサプライチェーン管理システムと連携でき、再設計、初期ライセンス料、長期コミットメントは不要です。
現在、多くの企業で使われている ERP ソフトウェアソリューションは、SAP ECC と SAP S/4HANA の 2 つです。AWS は 15 年以上にわたり SAP ワークロードをサポートしており、SAP ワークロードのイノベーションを加速するために数千のお客様に選ばれています。近年、多くのお客様がビジネス変革を加速するために、RISE with SAP on AWS を選択しています。AWS Supply Chain は、オンプレミスの SAP ECC、SAP S/4HANA、および RISE with SAP での SAP S/4HANA Cloud の両方と接続できます。AWS Supply Chain を使用すれば、SAP への既存の投資を活用しながら、同時にイノベーションを加速させ、企業のサプライチェーンの課題によりよく対処することができます。
このブログでは、SAP S/4HANA システムを AWS Supply Chain と連携するための接続オプション、構成上の考慮事項、およびベストプラクティスについて説明します。
AWS サプライチェーンとは?
AWS Supply Chain は、ERP (Enterprise Resource Planning) やサプライチェーン管理システムなどの既存のソリューションと連携します。AWS Supply Chain を使用すると、在庫、供給、需要に関連するデータを既存の ERP やサプライチェーン システムから抽出し、AWS Supply Chain の統合データモデルに統一できます。
さらに、AWS Supply Chain はデータをリアルタイムに可視化し、現在の在庫の選択と数量、および各拠点の在庫の健全性を強調表示して、在庫切れのリスクが高い在庫などの問題を浮き彫りにします。AWS Supply Chain を使用すると、最も緊急性が高い在庫問題に関する洞察を自動的に受け取ることができ、潜在的なサプライチェーンの混乱が発生したときに事前に警告するためにウォッチリストを設定できます。
AWS Supply Chain を使えば、提案されたオプションと推奨アクションに基づいて、迅速に適切なアクションを取ることができます (例:在庫切れを回避するための倉庫間の在庫再配分の提案) 。また、ビルトインのコンテキストコラボレーション機能を使用して、チーム間で連携し、問題をより早く解決することで、エラーを減らし、効率を向上させることができます。
さらに、AWS Supply Chain は機械学習による高精度な需要予測により、お客様の期待通りに納品することに役立ちます。
SAP S/4HANA との AWS Supply Chain 接続の概要アーキテクチャーと前提条件
このセクションでは、AWS Supply Chain データ レイクへデータを取り込むために、SAP S/4HANA システムの接続と構成のベストプラクティスについて説明します。
以下は、接続とデータフローの参考アーキテクチャです:
図 1 – SAP との AWS サプライチェーンの連携
この参考アーキテクチャは、SAP S/4 HANA システム、Amazon AppFlow を使用した AWS Supply Chain コネクタ、および AWS Supply Chain インスタンスがすべて 1 つの AWS リージョン内にあることを示しています。
SAP システムと AWS Supply Chain インスタンスが異なるリージョンにある場合、SAP システムがオンプレミスまたは RISE with SAP on AWS で稼働している場合、または別のクラウドプロバイダーで稼働している場合もあります。このような接続の場合、お客様は自身の AWS アカウントで Amazon AppFlow サービスを使用して、SAP RISE アカウントまたはオンプレミスで稼働している SAP システムに接続することが可能です。
AWS Supply Chain は内部で Amazon AppFlow と連携し、Open Data Protocol (OData) サービスとして公開されている SAP データソースを使用して Operational Data Provisioning (ODP) によりデータを抽出します。
AWS Supply Chain で SAP からのデータに基づいて 機械学習での予測、需要計画、インサイト可視化するには、主に 3 つのステップが必要です。
1. Amazon AppFlow から SAP S/4HANA システムへの接続
2. SAP S/4HANA で必要なデータセットを準備し、それらを OData サービスとして利用可能にする
3. AWS Supply Chain での SAP S/4HANA システム接続先、およびビルトインコネクタを使用してデータ取り込み
それでは、これらのステップを説明します。
Amazon AppFlow から SAP S/4HANA システムへの接続
Amazon AppFlow から SAP S/4HANA に接続し、Operational Data Provisioning (ODP) ベースのデータ抽出ができるようにするには、Amazon AppFlow ドキュメントのAmazon AppFlow SAP OData Connector の手順をご参照ください。
ブログ: Amazon AppFlow SAP OData Connector が SAP ODP Changed-Data Capture に対応
ミッションクリティカルな本番 SAP システムでのデータセキュリティを強化するため、インターネット経由での転送は避けることを推奨します。そのため、このブログで説明されているように、データ転送のために AWS PrivateLink 接続を設定してください。この AWS CloudFormation テンプレートを使用すると、SAP システムへセキュアに接続するための AWS PrivateLink を自動的に設定できます。
SAP S/4HANA で必要なデータセットを準備し、それらを OData サービスとして利用可能にする
Amazon AppFlow と SAP システムの接続設定ができたら、AWS Supply Chain にデータ転送するために SAP S/4HANA で必要なデータの設定に進めます。この設定作業の一環として、SAP でデータソースの作成および有効化が必要です。これらの必要なデータソースの詳細な最新リストについては、ドキュメントを参照してください。ドキュメントの「SAP データソース」というセクションでは、名前が「Z」で始まる「SAP データソース」がリストの「テーブル」として分類されています。「ZV」で始まるものは SAP ビュー、「ZQ」で始まるものは SAP クエリです。一覧にある「0BP*」と「2LIS*」で始まる標準のデータソースに関する追加考慮事項は、後述の「SAP S/4HANA からのデータ取り込み」で説明します。
また、データ抽出タイプ列に「差分」と「フル」の記載があり、SAP データ列に「マスターデータ」か「トランザクションデータ」かの記載も十分確認しながら進めます。これらは、設定時にどのトランザクションとどのオプションを選択するかに影響します。
SAP データソースのセクションの確認が終わりましたら、 AWS Supply Chain ワークショップの SAP S/4HANA からのデータ取り込みセクションを参照して、これらのデータソースの設定を進めてください。
AWS Supply Chain での SAP S/4HANA システム接続先、およびビルトインコネクタを使用してデータ取り込み
SAP でデータソースの作成と有効化ができ、SAP Gateway サービスの定義も完了したら、AWS Supply Chain インスタンスで SAP S/4HANA システムに接続して、AWS Supply Chain データレイクへの初期データ抽出を開始する準備が整います。
AWS Supply Chain インスタンス作成はまだ行っていない場合は、AWS マネジメントコンソールで AWS Supply Chain インスタンス を作成してください。AWS Supply Chain を検索してサービスのコンソールに移動し、AWS リージョンを選んだあとに、「インスタンスを作成」ボタンをクリックします。AWS Supply Chain のユーザーは、IAM Identity Center サービスと連携して管理できます。ドキュメントの IAM Identity Center の有効化 セクションを参照してください。
AWS Supply Chain インスタンスには、Amazon Simple Storage Service (Amazon S3)やElectronic Data Interchange (EDI)などのデータソースに加え、SAP S/4HANAやSAP ECCシステムへのコネクタがすぐに利用できます。
接続を作成するには、AWS Supply Chain インスタンスにログインし、左側メニューの Data Lake → Connections をクリックします。
「New Data Connection」ボタンをクリックし、SAP S/4HANA を選択します。「Next」ボタンをクリックします。
図 3 – AWS Supply Chain の接続先選択
次の画面で、SAP システムへの接続情報を入力します。AWS Supply Chainは内部で Amazon AppFlow を使用して、SAP S/4HANA システムからデータを抽出します。
前述のとおり、Amazon AppFlow での SAP S/4HANA への接続設定から、アプリケーションホスト URL と AWS PrivateLink サービス名を確認できます。
図 4 – AWS Supply Chain から SAP への接続情報
接続ができたら、追加のマッピング作業は不要です。ウィザードの残りの手順を進めると、データ取り込みが自動的に開始されます。AWS Supply Chain は、SAP システムからデータを抽出するためのデータフローを自動的に作成し実行します。
図 5 – エンティティグループとデータフロー
この段階で、AWS Supply Chain データレイクには、SAP システムから OData サービスを使用して公開された、トランザクションとトランザクション以外のデータソースからのデータが格納されています。データ取り込みを確認するには、[ Connection ] -> [ Data flows ] -> [ All data flows ] の順で画面選択すれば確認できます。
図 6 – AWS Supply Chain データレイク詳細
AWS Supply Chain のデータマッピング
AWS Supply Chain では、ユーザーが SAP ソースから AWS Supply Chain ターゲットのデータレイクへのデータフィールドマッピングを確認および変更できる機能があります。このマッピングを確認するには、データレイクコネクションの中で SAP 接続を選択し、Entity Groups を展開します。確認したいデータエンティティで、ほかの詳細オプションをクリックし、レシピの管理をクリックします。たとえば Purchase Order – Inbound Order Line などのエンティティのデータフィールドマッピングを確認できます。SAP データソースのフィールドが抽出され、AWS Supply Chain データレイクのフィールドにマッピングされていることが確認できます。たとえば、SAP データソース 2LIS_02_ITM の EBELN フィールドは、AWS Supply Chain Purchase Order Inbound Order Line の order_id フィールドにマッピングされています。レシピアクション をクリックすると、フィールドマッピングをダウンロードしたり、要件に応じてマッピングをアップロードしたりできます。
図 7 – AWS Supply Chain で SAP データソースのデータフィールドマッピング
AWS Supply Chain でのデータ可視化
データ取り込みプロセスが完了したら、AWS Supply Chain は機械学習を使ってデータ変換と計画機能を実行します。企業は、SAP S/4HANAのような一般的なERPシステム用のあらかじめ構築されたコネクターによって、より速く、より簡単なデータ関連付けで、すべてのサプライチェーンシステムにわたるデータに簡単に接続することができるます。これは、再設計又はシステム移行を行わなくても実現できます。AWS Supply Chain はこれらのシステムと別で機能でき、既存システムに付加価値を提供しています。お客様は SAP データと SAP 以外のデータソースを組み合わせることができます。たとえば、図 8 の AWS Supply Chain 在庫可視化ネットワークマップに示されているように、異なるソースからのデータにあるさまざまな場所での在庫状況を可視化できます。
図 8 – AWS Supply Chain 在庫可視化ネットワークマップ
重要な考慮事項とトラブルシューティング
SAP でデータソースを作成する際は、データソース名がドキュメントのリストに記載されている SAP データソース名と完全に一致することを確認してください。
前述のとおり、SAP データソースは ODATA サービスに定義されています。トランザクション /n/IWFND/MAINT_SERVICE で ODATA サービスが有効化され、サービステスト結果のreturn値が 200 (OK) であることを確認してください。
ODATA サービスに関するエラーについては、/n/IWFND/ERROR_LOG で確認できます。
AWS Supply Chain は、Amazon AppFlow を使用して SAP S/4HANA システムからデータを抽出するための 53 個のフローを自動的に作成します。フロー名には、AWS Supply Chain インスタンス ID と SAP S/4HANA データソース名が含まれます。
Amazon AppFlow サービスコンソール画面を開くと、各フローのステータスを確認できます。AppFlow に関する一般的なエラーコードについては、一般的なエラーのドキュメントを参照してください。また、各フローのAmazon CloudWatch メトリクスが提供されており、トラブルシューティングの出発点として役立ちます。さらに、Amazon AppFlow に対して、ユーザー、ロール、または AWS サービスによって実行されたアクションの記録については、CloudTrail ログを参照できます。
2つのAmazon S3 バケットが作成されます。1 つは Amazon AppFlow により使われ、抽出されたデータを格納し、AWS Supply Chain インスタンスへのデータ取り込みに使用されます。もう 1 つは、AWS Supply Chain 接続により、エンティティタイプと取り込みタイプ (置換、更新、削除) ごとに作成されます。
AWS Supply Chain から SAP S/4HANA への接続に問題がある場合は、KMS キーポリシーが正しい AWS Supply Chain インスタンス ID で「ListGrants」権限を持っていることを確認してください。
詳細については、ドキュメントを参照してください。
AWS Supply Chain に抽出されたデータにエラーがある場合、抽出されたデータ ( Amazon AppFlow の対象フローのデータ保存先バケットにある)を CSV ファイルとしてダウンロードし確認することができます。対象データを確認することで、null フィールドや重複行など、AWS Supply Chain へのデータ取り込み失敗につながる可能性がある問題の詳細を確認できます。
AWS Supply Chain では、エラーのあるエンティティのレシピ―管理画面でデータ取り込みの問題についてより詳細を確認できます。
図 9 – AWS Supply Chain でのデータ取り込み問題のトラブルシューティング
AWS Supply Chain の問題のトラブルシューティングについてさらにサポートが必要な場合は、AWS Supply Chain チームにケースを開いて、AWS Supply Chain の管理サポートを受けることができます。
価格
AWS Supply Chain は従量課金制のクラウドサプライチェーンアプリケーションで、データレイク、インサイト、需要計画機能を提供しています。利用分のみの支払いで、前払いのライセンス料や長期契約は不要です。詳細については、AWS Supply Chain のドキュメントの料金設定セクションを参照してください。
まとめ
AWS Supply Chain に SAP S/4 HANA と連携することにより、需要の変動や供給の混乱に対する対応力を最大化し、サプライチェーンの回復力を高めることができます。新しいデータを受け取ると再計算が実行されるため、サプライチェーンデータでほぼリアルタイムで更新され、素早くインサイトを得られます。機械学習機能による実用的な分析と推奨を活用して、よりデータに基づいた意思決定ができます。ユーザは同じアプリケーション内で同じ情報を見ながら、ビルトインのコンテキストチャットやメッセージングを使って迅速に問題を解決できます。リスクを軽減してコストを削減しながら、顧客体験を向上させることができます。構成に示しているように、これらすべてが SAP S/4 HANA システムとのビルトインのコネクタを使って、数クリックで実現できます。
以下のAWS Supply Chain 紹介と追加リソースも併せてご確認ください:
翻訳は Specialist SA トゥアンが担当しました。原文はこちらです。