Amazon Web Services ブログ

医療機関が AWS で 生成 AI を活用しデータからより良い患者アウトカムに変える方法

本記事は、How healthcare organizations use generative AI on AWS to turn data into better patient outcomes を翻訳したものです。

医療機関はテクノロジーとデータに多額の投資を行っています。生成 AI は医療機関が強固なデータ基盤への投資を活用し、革新的で対話的な技術を通じて患者体験を向上させ、生産性を高めて人材不足の課題に対処し、研究を加速するための新しい洞察を引き出すことを可能にします。この投稿では、アマゾンウェブサービス (AWS) の生成 AI がヘルスケアでどのように使用され、責任ある安全な方法でこのテクノロジーを活用しているかについて、3 つの事例をご紹介します。

世界中の 10,000 以上の組織が Amazon Bedrock を使用しています。Amazon Bedrock は、AI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Mistral AI、Stabability AI、Amazon などの主要な AI 企業が提供する高性能な基盤モデル (FM) を 1 つの API で提供するフルマネージドサービスです。Amazon Bedrock を使用すると、優れた FM を試したり、独自のデータを使用して微調整 (fine-tune) したり、個別にカスタマイズしたりできます。では、3 つの医療機関のお客様が Amazon Bedrock をどのように活用しているかを見てみましょう。

藤田医科大学が医師の業務フローを改善

藤田医科大学は 4 つの教育病院を持つ私⽴医科⼤学です。藤⽥医科⼤学病院は、国内最多の病床数を誇り、Amazon Bedrock を使用して医師のワークフローを改善できるかどうかを検討しました。彼らのパイロットプロジェクトでは、生成 AI の機能を活用して退院時サマリーを生成することの実現可能性を評価しました。退院時の要約は、入院中の患者の治療歴と診断を記録する重要な医療記録です。Amazon Bedrock の導入により、藤田医科大学では退院サマリーの作成に必要な時間を最大 90% 短縮し、患者 1 人あたりで作成に必要な時間を約 1 分に短縮しました。こうした重要なタスクかつ、繰り返し行う必要のある作業を自動化することで、医療従事者は患者とのコミュニケーションや個別化されたケアにより集中できるようになり、患者さんのアウトカムが向上し、作業負荷が最適化されます。

Genomics England が AWS で Anthropic Claude を活用して遺伝子疾患研究を加速

ヒトゲノム研究の分野のリーダーである Genomics England は、研究者が遺伝的変異と病状との関連を特定できるように、Amazon Bedrock で利用できる Claude 3 モデルを活用するソリューションの開発を進めています。査読付き論文を利用したこの研究は初めに知的障がいに焦点を当てつつ、将来の遺伝子検査に情報を提供し、人間の健康を改善する可能性を秘めています。このソリューションでは、数百万ページにも及ぶ文献を迅速に処理して、最も可能性の高い遺伝子関連を明らかにし、さらに調査を進めることができます。これは手作業による確認よりも速く、すでに 20 件の潜在的な臨床的に関連する関連性が特定されています。

AlayaCare は在宅医療従事者へ患者情報を迅速に提供

AlayaCare は、在宅医療従事者と介護者がテクノロジーを通じてより良いケアを提供できるようにします。AWS の AI テクノロジーを使用して、問診票やケアプランから重要なデータを抽出するという面倒な作業を自動化し、すべてをわかりやすい要約に変えています。これにより、看護師と医師は必要な洞察を得て、患者ケアに集中できます。さらに、AlayaCare は急性期医療への入院のリスクがある患者を特定できるため、待ち時間の短縮、治療介入時間の短縮、早期発見による治療費の削減が可能になります。

生成 AI を責任を持って前進させる

医療における AI の倫理的かつ責任ある使用を実現するには、正確性、セキュリティ、プライバシー、公平性が最優先の考慮事項です。AWS には、組織が安全かつ責任を持って AI を使い始めるのに役立つツールがあります。

検索拡張生成 (RAG) による精度の向上

一つの考え方として、生成 AI の大規模言語モデル (LLM) は、今起きていることの全てを理解できていないが、あらゆる質問に自信を持って答える新人社員のようなものだと考えられます。これは、LLM が特定の時点までのデータのみを使用してオフラインで学習されるため、モデルの学習後に作成された情報や、検出されていないソースからの情報が、モデルに認識されないためです。また、LLM は通常、一般的なドメイン情報に関する学習を受けているため、ドメイン固有のタスクにはあまり効果がありません。

検索拡張生成 (RAG : Retrieval-Augmented Generation) を使用すると、基盤モデルの外部からデータを取得できます。これは、 LLM と検索テクノロジーを組み合わせることで実現されます。検索テクノロジーを使用すると、取得した関連データをコンテキストとして追加してプロンプトを充実させることができます。RAG は、ドメイン固有の AI ソリューションの精度を追求するための強力な手段です。LLM と検索テクノロジーを組み合わせて、ユースケースやユーザー固有のデータを抽出することで、一般的な分野の知識と専門的な医療コンテキストの両方を組み込むことができます。このような機能により、医療従事者は、臨床上の意思決定プロセスにシームレスに統合された組織的知識や専門的知識にアクセスできるようになります。たとえば、各国の要件を満たすために様々な国で、様々なバージョンの AI アプリケーションが必要な新しいユースケースが可能になります。

データインテグリティの保護、プライバシーの保護、品質の維持

AWS は、責任ある AI 導入のための強固なフレームワークを提供しており、ユーザーデータのプライバシーとセキュリティを優先し、潜在的なバイアスを継続的に監視して軽減しています。Amazon Bedrock は ISO、SOC、CSA STAR レベル 2 などの一般的なコンプライアンス基準の対象であり、HIPAA 適格のサービスとなっています。お客様は、GDPR に準拠して Amazon Bedrock を使用することもできます。

Amazon Bedrock に入力されたデータは、アプリケーションの AWS リージョン内に暗号化された形式で保存され、サードパーティのプロバイダーと共有されることはありません。例として、Amazon Bedrock が提供する HIPAA 適格サービスである AWS HealthScribe を取り上げてみましょう。音声認識と生成 AI を使用して、補足的な臨床文書を自動的に生成します。セキュリティとプライバシーを念頭に置いて構築されているため、データの保存場所を制御でき、転送中も保存中もデータを暗号化できます。AWS は、サービスを通じて生成された入力または出力をモデルのトレーニングに使用しません。

Guardrails for Amazon Bedrock は業界トップクラスの安全保護を提供し、お客様がコンテンツポリシーを定義し、アプリケーション動作の境界を設定し、潜在的なリスクに対する保護手段を実装できるようにします。Guardrails for Amazon Bedrock は、お客様が生成 AI アプリケーションの安全性とプライバシー保護を単一のソリューションで構築およびカスタマイズできるようにする、大規模なクラウドプロバイダーが提供する唯一のソリューションです。Amazon Bedrock の基盤モデルがネイティブに提供している保護よりも 85% も多くの有害なコンテンツをお客様がブロックできるようになり、堅牢な個人識別情報 (PII) 検出機能も提供されます。

AWS は、生成 AI が成熟し医療分野での利用が拡大するのに合わせ、ユーザーの安全、セキュリティ、プライバシーの確保に取り組んでいます。私たちは、「security is job zeo (セキュリティは 0 番目の仕事) 」という基本原則を守りながら、医療従事者、患者、医療機関が適切なユースケースに適したツールにアクセスできるようにすることを目指しています。この取り組みは、責任ある AI のイニシアチブを促進し、進化し続けるヘルスケアテクノロジー環境におけるお客様の信頼を維持するという当社の取り組みを明確にするものです。

専門家へ相談し、ヘルスケアとライフサイエンスにおける生成 AI について学び、アプリケーションにおける責任ある AI の考慮事項について学びましょう。(訳者注:日本の医療機関のお客様向けのページもご用意しております。ぜひご確認ください。)

著者について

Sue McCarthy

Sue McCarthy は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のアジア太平洋地域と日本の公共部門のヘルスイノベーションリードです。

 

 

Dr. Matt Howard

Dr. Matt Howard は、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のヘルスケアデータサイエンスのインターナショナルリードです。

 

 

翻訳はソリューションアーキテクトの 片山洋平 が担当しました。原文はこちらです。