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Hannover Messe 2024 AWSブースレポート
2024/4/22-26にドイツ ハノーバーで開催された世界最大規模の製造業展示会Hannover Messe 2024。AWSブースには多くのお客様が来場され、日本からのお客様には私たち AWS Japanの製造業担当スペシャリスト、営業、ソリューションアーキテクト等も現地でご説明しました。
このブログでは現地でのご説明を再現する形で、AWSブースの概要とソリューション、そして日本のお客様から反響をご紹介します。ITに関わっているかただけでなく、製造業の現場で活動されている方もぜひご覧ください。
AWSブース全体像
写真1: AWSブース全景 |
これがAWSブースの全景です。中央上部のデータレイクが、製造業の5つの技術エリアである「Production & Asset Optimization(生産と資産の最適化)」「Smart Products(スマートプロダクト)」「Supply Chain(サプライチェーン)」「Engineering &Design(エンジニアリングとデザイン)」「Sustainability(サステナビリティ)」とつながっていることを示しています。中央には e-Bike(電動自転車)の製造ラインを再現した、スマートマニュファクチャリングのデモがあり、各エリアではこのデモを実装しているAWSサービスやパートナー様のプロダクトを解説するキオスクが用意されています。AWSが提供するキオスクが14であるのに対して、Siemens様をはじめとするパートナー様のキオスクは35あります。AWS上で提供される各種パートナーの製造業向けソリューションにについての解説も活発に行われていました。
スマートマニュファクチャリング: e-Bikeデモ
写真2: e-Bikeデモ全景 |
最も目立っていたこのデモは、e-Bikeのフレームの、溶接、塗装、外観検査を行う実際の生産ラインを模しています。この中でパートナーのソリューションとAWSのサービスをどう組み合わせて生産ラインをデジタル化していくのか具体的に示していました。
写真3: Monitron センサー | 写真4: Monitron ゲートウェイ |
写真2 の手前のコンベアをよく見ると、モーターに黄色い機器が取り付けられています(写真3)。これがAmazon Monitronのセンサーです。モーターの振動と温度のデータを取得して、機械学習により予知保全を可能とします。これは工場等へ設置しやすいよう無線(bluetooth)で通信し、電池で駆動します。写真4がゲートウェイデバイスで、これでセンサーからの情報を収集しアラートを通知します(写真2 の右側、黒いAWSのロゴの下の方に設置しています)。eBikeデモ全体(写真2)の上部右側の画面に表示されているのが、Monitronが取得した振動情報を表示したダッシュボードです。Amazon、Amazon Business、あるいはパートナー様から購入でき、容易に予知保全を実現できるMonitronは多くの日本のお客様の注目を集めていました。
eBikeデモ全体(写真2)の上部左側のダッシュボードは生産ラインの3Dイメージにオーバーレイして、溶接ステーション、塗装ステーション、そしてライン全体のリアルタイムテレメトリデータが表示されており、リモートからでも工場の様子を視覚的に理解できます。このデジタルツインは、Matterport社のプロダクトで生成した3Dイメージと、AWS IoT TwinMakerによって実現しています。
反対側に回ると右側に溶接ステーション、左に塗装ステーションがあります。これらのロボットアームや、レーザー距離計から得られたデータは、OPC UAやMQTTといった標準のプロトコルでAWS IoT GreenGrass がインストールされたゲートウェイデバイスに送られます。
さらにそのデータはゲートウェイから AWS IoT SiteWiseに送られ、写真6の上方右側のAmazon Managed Grafana(AMG) によって作られたダッシュボードに表示されます。ダッシュボードではこれらの機器のリアルタイムテレメトリに加え、生産台数や生産速度などの情報を表示しています。
写真6の上方左側のダッシュボードには、アラームと、生成AIを活用した問題解決のためのチャット画面が表示されています。これはロボットハンドでエラーが発生した際に、生成AIを使用してオペレータに対して原因や対応方法を指示している画面です。実際はハンディ端末などに表示することを想定しており、用意された質問(「根本原因はなにか?」など)を選ぶことで期待する情報を引き出せるようになっています。生成AIを使ってオペレータによる対応の迅速化を支援することは生産ラインの停止時間短縮につながるため、直接的な効果が期待できそうだとの声を複数伺いました。このデモの詳細については ブログ「ハノーバーメッセ 2024 に見る製造業への生成AIの革新的な影響」で動画を紹介していますのでご覧ください。
最後が外観検査です。カメラで撮影した画像を使って塗装や溶接の不具合を検出します。これはコンピュータビジョンを使って欠陥製品を検出するDenali社の Automated Quality Inspectionソリューションによって実現しています。このソリューションはAmazon Lookout for Vision(L4V)を利用しており、製造ラインでの検査高速化のため、L4Vのモデルをクラウド上でなくエッジ(工場内)で動作することで低遅延の処理を実現しています。Lookout for Visionは数十枚程度の画像で正常/異常を判定する機械学習モデルを作成できるという点も、来場者の方の注目を集めていました。
以上が e-Bike スマートマニュファクチャリング デモの全体像と個々の技術要素の概要でした。より詳しい解説と動画がブログ「Hannover Messe 2024: AWS Unveils Purpose-Built “e-Bike Smart Factory“ Showcase」にありますのでこちらもご覧ください。
生産と資産の最適化: 生成AI
生産と資産の最適化エリアに設置された生成AIのキオスクでは、e-Bikeデモで紹介した生産ラインのアラートの原因究明の仕組みについて解説していました。ロボットアームのマニュアル群を検索し、その結果をAmazon Bedrock(基盤モデルとして Claude 3 Sonnetを使用)でサマリして表示、オペレータとコミュニケーションできるように実装しています。ここではフィッシュボーンチャートを Claude 3 で解説するデモも行っていました。
さらに興味を持っていただいていたのは「Digital Thread(デジタル スレッド=デジタルの系)」です。デジタルスレッドはPLM(Product Lifecycle Management)、ERP(Enterprise Resource Planning)など、製造業の多様なシステムに分散している情報を紐づける概念です。このデモでは、Amazon Neptune(マネージドのグラフデータベース)を用いたナレッジグラフによるデジタルスレッドを構築しています。ナレッジグラフの検索には一般的に特別な問い合わせ言語が必要ですが、Amazon Bedrockを使用することで、自然言語で検索できる仕組みを紹介していました。このアーキテクチャや実装方法は「Guidance for Digital Thread Using Graph and Generative AI on AWS」およびワークショップ用コンテンツ としてでも動画付きで公開しています。
ハノーバーメッセでのAWSの生成AI展示に関してはブログ「The Transformative Impact of Generative AI in Manufacturing at Hannover Messe 2024」にも詳しい情報がありますので、ぜひご覧ください。
スマートプロダクト: コネクテッド プロダクト
スマートプロダクトのエリアでは、工場や倉庫などに設置するカメラで、作業員の安全装具(PPE)の装着状況や作業員が危険な状況にいるかどうかを、映像を元に判定する展示がありました。カメラでは機械学習モデルを動かし、人が写っている場合のみ画像をクラウド側へ送ります。クラウド側では送られた画像に対して2つの処理を行っています。一つは Amazon Rekognitionを使って「転倒」「事故車両」などキーワードベースの物体認識を行うもの。もう一つはAmazon BedrockのClaude 3 を使って、安全装具の装具状況を事前に定めた書式の文章で報告しています。事前学習により決まった物体を認識するAIはこれまでも利用されてきましたが、生成AIを追加で使うことによって追加学習することなく事故の状況を推測して自然言語で説明できるということが来場者の注目を集めていました。
エンジニアリングとデザイン: 製品の設計とシミュレーション
エンジニアリングとデザイン(製品の設計とシミュレーション)エリアでは、大きく3つの展示がありました。まず、Siemens様、Ansys様、Dassault Systems様などパートナー様のプロダクトとAWSのサービスを組み合わせてシミュレーションの環境を迅速かつセキュアに構築・管理する際の、リファレンスとなるアーキテクチャ(中央)が紹介されています。そして右側には昨年11月に発表した Reasearch and Engineering Studio on AWS (RES) のデモが展示されており(右)、エンジニアが必ずしも計算環境構築のスキルを持たずとも、様々なシミュレーションの環境を容易に切り替えて設計開発を行えることを紹介していました。さらには、機械学習を使ってシミュレーション量を減らすデモを紹介していました(左)。同様のユースケースはブログ 「Using machine learning to drive faster automotive design cycles」にも記載されています。
サステナビリティとサプライチェーン
ハノーバーメッセでは、環境問題とサステナビリティに関して強い関心をお持ちのお客様が多くブースを訪れていました。AWSのサステナビリティのエリアでは、次のようなデモやガイダンスを紹介していました。
- 企業が持つ多様な情報から、カーボンフットプリントに関する情報を集約し、可視化するためのフレームワークである「Guidance for Building a Sustainability Data Fabric on AWS」
- バッテリーの循環型経済 (Battery Circular Economy) 実現のため、利用者から生産者までを含めて状況の可視化を実現するデモである「Battery Circular Economy Networkデモ」
サステナビリティに関連してサプライチェーンも注目されていました。企業は、スコープ 1(直接排出)、スコープ 2(購入エネルギーからの間接排出)、スコープ 3(その他すべての間接排出)の炭素排出量を可視化するために、サプライヤーやパートナーからサステナビリティに関するデータやコンプライアンス成果物を要求・収集・監査する必要があります。AWSからはガイダンスとしてその実装例を紹介すると同時に、AWSのマネージドサービスである AWS Supply Chainも展示しており、ドキュメントの要求や管理といった機能で注目を集めていました。
AWS Supply Chainはサプライチェーンの状況を可視化し在庫リスク等を分析するサービスです。製品の生産実績、サプライヤからの供給実績の可視化に加え、機械学習を使用した需要・供給予測も可能であり、季節変動など多様な条件を指定することで、状況に適した予測も可能です。会場では今後実装予定の自然言語を使った分析(Amazon Qを使用)のデモも展示されていました。AWS Supply Chainならではの特徴としては、複数の既存ERPデータソース(SAPやデータレイク上のファイル)に対し、後付けで、かつ従量課金で利用可能であるため、既存環境への影響を小さくしつつ迅速に分析を試すことができるという点がありますが、多くのお客様が強い関心を示されていました。
ハノーバーメッセでのサステナビリティの展示についてはブログ「ハノーバーメッセ2024でサステナビリティが主役に」でも詳しく述べていますのでご覧ください。
まとめ
ハノーバーメッセ2024 AWSブースの様子を体感いただけましたでしょうか。このブログではAWSのサービスを中心にご紹介しましたが、製造業でのAWSについてはこちらのブログでも引き続き情報提供していきますので、今後もご注目ください!
日本のお客様向けには、6/20-21に幕張メッセで開催されるAWS Summit Japan にて、製造・自動車業界向けの実機デモを多数展示する他、お客様事例を交えたブレイクアウトセッションも予定しています。こちらから無料で登録可能です。ぜひご参加ください。
今回の内容についてより詳しく知りたい場合は、本ブログのURLを添えて担当営業またはこちらのフォームよりお問い合わせください。
このブログは製造業担当のソリューションアーキテクトマネージャ 大村幸敬 が担当しました。