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【開催報告】 エンジニアが紡ぐ ファーストリテイリングの デジタル変革 〜 グローバルへの挑戦 〜 (Part 3)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社は 2024 年 7 月 24 日に株式会社ファーストリテイリングをお招きし「エンジニアが紡ぐ ファーストリテイリングの デジタル変革」というテーマで、4 時間半に渡ってご講演いただきました。前回に引き続きこのブログではイベントの最後に行われたパネルディスカッションの内容をレポートします。

本文中の役職はイベント開催当日のものです。

パネルディスカッション:AWS と紡いできたデジタル変革の歴史

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 執行役員(CTO 兼 CSO) 大谷 晋平 氏

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 部長 (インフラストラクチャ) 堀川 茂 氏

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 部長 (SCM・インテグレーションエンジニアリング) 北口 泰大 氏

株式会社ファーストリテイリング デジタル業務改革サービス部 部長 (コアエンジニアリング) 村田 雄一 氏

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 流通小売・消費財・サービスビジネスグループ 本部長 五十嵐 建平

皆様のキャリア、ご担当領域

まず、パネリストの皆様にご自身の経歴をお話しいただきました。

大谷氏は 2016 年にファーストリテイリングに入社し、主にエンジニアリングの内製化やテクノロジーの事業への根付かせることをミッションとしています。現在は技術の最高責任者であり、同時にセキュリティも担当されています。AWS との関わりとしては、ファーストリテイリングのサービスのほとんどが AWS 稼働しており、足掛け 12 年以上にわたり AWS を活用しています。実は前職が AWS のソリューションアーキテクトです。AWS 時代にファーストリテイリングを顧客訪問した経験もあるといったエピソードもご紹介いただきました。

堀川氏は 2012 年の入社以来、オンプレミスからクラウドシフトを進められた経験を持ち、AWS との関わりも 12 年前から続いています。ファーストリテイリングという事業会社に入ったことで、エンジニアとしての目標がシステムを入れることではなく業務成果そのものになったことは大きな転換でした。

北口氏は 2018 年の入社以来、共通基盤の開発やデータ連携基盤などを担当されています。現在は物流領域の業務改革とデジタルツール整備が注力ポイントです。AWS との関わりはファーストリテイリング入社後からで、新しいシステムを作る際には AWS のプロダクトチームとも協議しながら、最適なシステムの形を探りながら構築にあたっているとのことです。

村田氏は 2017 年の入社以来、有明プロジェクトをその立ち上げから経験されました。最初は e コマース(EC)の機能を提供するバックエンドシステムの開発からスタートし、インフラチームや品質保証などを経験したのち、現在は内製開発を統括する部長を務められています。EC の領域では AWS を徹底的に活用しており、AWS から継続的な支援を受けています。コールセンターの業務改革として Amazon Connect を活用する新しい取り組みについてもご紹介いただきました。

黎明期 – カルチャーの醸成

「黎明期 – カルチャーの醸成」というテーマからディスカッションが行われました。

最も在籍年数の長い堀川氏に入社当初のエピソードを振り返っていただきました。堀川氏はセミナーに参加したり、ベンダーの支援を受けながら AWS の使い方を学ばれたそうです。AWS の活用を決めるより前から、AWS のソリューションアーキテクト等の力を借りて経験を積まれました。当初はアーキテクチャレビューの仕組みなどはありませんでしたが、品質が担保できずにシステム障害が発生するなどの失敗も経験されました。アーキテクチャレビューの仕組みはそうした失敗から学んで生まれたものだったのです。

大谷氏からは有明の自動倉庫のプロジェクトについてお話を伺うことができました。IT プロジェクトとは違い、倉庫の設置やハードウェアの設置などの物理的な制約があり、事業会社ならではの痛みを感じたとのことでした。当時はまだ混沌の中にあり、整理された話ではなかったそうですが、優秀な人材を次々と採用することで知恵を出し合える環境が生まれてきました。重大な課題に対して連携して話し合う中で、自然と今のようなカルチャーが醸成されていったそうです。

堀川氏からは、SAP の導入で AWS と 4TB のインスタンス利用を交渉した経緯も紹介されました。当時はオンプレミスでしかできないという思い込みがあったとのことですが、将来の成長を見据えて AWS と交渉し、実現に至ったそうです。この経験から、できないことでもきちんと交渉すれば実現できるということを学びました。

このように、ファーストリテイリングの皆様は AWSの活用を決めた黎明期からさまざまな失敗や課題を乗り越えながら、現在のカルチャーを醸成してこられました。失敗を恐れずにチャレンジし、課題解決に向けて連携することが、ファーストリテイリングのカルチャーの基盤となっていることがよくわかります。 AWS との緊密な協力関係のもと、こうした新しいカルチャーを育んでいったことが、ファーストリテイリングのデジタル変革を可能にした大きな要因だったのです。

移行期 – アーキテクチャの変更

次のテーマはアーキテクチャの変更が起こった移行期についてです。村田氏は従来のモノリシックな EC パッケージからヘッドレスアーキテクチャのプラットフォーム化を進め、マイクロサービス化や Immutable Infrastructure の採用、マルチリージョン展開、オープンソースやマネージドサービスの活用、技術の標準化などを実現されたことを紹介しました。ビジネスロジックの複雑さとパフォーマンスやスケーラビリティの課題があったことも振り返られました。

北口氏は、当初はオンプレミスのアプリをクラウド上に載せただけの状態からスタートし、グローバル展開を見据えてコンテナ化や CI/CD の仕組み作りを進めた経緯を説明してくださいました。コストを意識したツール提供や、業務部門との密な連携によるコスト意識の共有なども行われていることが分かりました。大谷氏からアーキテクチャ標準化の取り組みも語られました。Amazon AuroraAmazon ElastiCache の標準採用、プログラミング言語やフレームワークの選定基準策定が行われた経緯が紹介されました。ツールが乱立して苦労した経験から、ある程度の標準化は必要不可欠と考えられていることがうかがえます。

一方で、大谷氏は技術選定に適度な幅を持たせることの重要性も指摘します。標準化を徹底しすぎると柔軟性を失うため、エンジニアにとって適切な選択の幅を残すことも重要です。これらの標準化は大規模な並行開発が進んでいた時期に行われました。グローバル展開を見据えてアーキテクチャ変革を段階的に実施し、プラットフォーム化、マイクロサービス化、標準化などが行われていったのです。

拡張期 – グローバル化

グローバル化におけるチャレンジという観点で、村田氏よりローカル対応についてご説明いただきました。約 30 の地域で複数のブランドでビジネスを展開しており、グローバルワンのプラットフォームを作る一方で、各国からの要望にも対応する必要があります。適切なプライオリティ付けと効率化が重要ですが、グローバルで作ったものが必ずしも全世界で当てはまるわけではなく、配送の仕組みやデータプライバシーの取り扱いなど、国ごとに対応が必要な部分も出てきます。加えて大谷氏は、技術の問題を必ずしも技術者だけで決められないケースがあり、地政学的リスクなどでは経営判断が必要になることがあると補足しました。

堀川氏はネットワークの最適化の観点で起こった変化をご説明くださいました。AWS への移行当初はすべての店舗からの通信を東京に集約していましたが、現在は AWS のネットワークをフル活用し、各国から最寄りの AWS リージョンに直結することで AWS のバックボーンネットワークを利用することでスピードとアベイラビリティを向上しました。

北口氏は、拠点系のシステムでは特にカスタマイズや要件のバリエーションが多いことを踏まえ、在庫の一貫性を持った管理や入出荷業務の効率化などの根本的な部分をグローバルワンとして構築した上で、ラッパー層としてローカルカスタマイズを行うアプローチをとっていると述べられました。

多国籍なチームを運営する上でのカルチャーの共有も重要です。多国籍なチーム構成だからこそ、ミッションステートメントに代表される価値観の共有が意思決定や一体感につながると説明がありました。クラウドジャーニーを推進するどのような組織においても、このミッションステートメントの共有によるインクルーシブな環境の構築は学ぶところがあります。

セキュリティ

CSO を兼務する大谷氏より、セキュリティについてもコメントをいただきました。現代社会における情報システムでは特にセキュリティの重要性が高まっており、企業全体でセキュリティ水準を上げることが求められています。セキュリティは単なるテクノロジーの問題ではなく、経営層の意識や物理的なセキュリティ対策など、さまざまな側面から取り組む必要があるものです。

IT セキュリティだけでなく、お客様の情報を守るためには運用面での対策も欠かせません。ファーストリテイリングでは、IT セキュリティの基準を満たすだけでなく、さらにその水準を上げていくことが課題となっています。そのためには、セキュリティを俯瞰的に捉え、企業のミッションに照らし合わせて適切な基準を設定し、組織文化として根付かせることが重要だと述べられました。

一方で、セキュリティを過度に厳格化すれば、IT の創造性や付加価値が失われてしまう恐れがあります。セキュリティと IT の柔軟性のバランスを取ることが肝心であり、そのバランスを失わないようにすることがセキュリティチームの重要な役割だと大谷氏は述べられました。

まとめ

最後に皆様からクロージングコメントをいただきました。クラウドやプラットフォームの製品選定においては、現在の機能だけでなく、その組織のカルチャーを踏まえて今後の進化を見据えることが重要です。AWSはもともと、小売業である Amazon のビジネス課題を解決するために生まれており、お客様へのこだわりという点でファーストリテイリングと共通点の多い文化を持ち、お客様のための課題解決に向けた進化を続けていると評価いただきました。AWS との 12 年に渡る協業関係を振り返り、今後もグローバル展開に向けて AWS との戦略的な連携を強化していく考えを示されました。

最後に、さまざまなバックグランドを持ったエンジニアの皆さんにジョインしていただき、仲間を増やしていきたいという熱意のこもったメッセージをいただき、ご講演を締めくくっていただきました。

本ブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト 阿南、三好が執筆しました。