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IoT@Loft #15 スマート農業を加速するための IoT の使い所
こんにちは。AWSソリューションアーキテクトの原田です。
10月21日に開催された IoT@Loft 第15回目のテーマは、「スマート農業を加速するための IoT の使い所」でした。
この記事では、各LTの内容を登壇資料とダイジェストでご紹介します。また参加者から頂いた質問、登壇者からの回答も掲載します。
IoT@Loft とは ?
IoT 関連ビジネスで開発を担当するデベロッパーのためのイベントです。IoT の分野は、「総合格闘技」と呼ばれるほど、必要な技術分野が非常に多岐に渡ること、ビジネスモデルが複雑なケースが多く、全体を理解することは難しいと言われています。その結果、実証実験 (Proof of Concept : PoC) から商品への導入が進まないケースや、PoC でさえ十分に実現できていないケースも多々あります。
IoT@Loft は、そういった IoT 特有の課題と向き合い、情報共有・意見交換を行う場として、参加者の事業や製品開発を成功に近づけることができれば幸いです。この勉強会では、膨大な IoT 関連の情報の見通しを良くするために、各回ごとにテーマを定め、それに沿った形で登壇者に事例や技術のご紹介を頂きます。テーマは、インダストリー、ソリューション、テクノロジー、開発フェーズなどを軸に決めていきます。
IoT@Loftについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
また、下記のConnpassのグループに入っておくと、次のイベントの通知や、登壇資料の通知が受け取れますので、ぜひご参加ください。
セッションの紹介
ここからは各LTの内容をダイジェストで紹介します。ご講演中、視聴していただいた皆さんからのご質問をいただきましたので、ご講演者より回答をいただき掲載しております。あわせてご覧ください。
LT 1 – 農業IoTを支えるVMSをサーバレスアーキテクチャで構築
エコモット株式会社様からは、カメラからの映像をモバイル回線経由で取り込み管理するデータ基盤についてご紹介いただきました。
ここ数年で農業IoTが活発化してきており、特に遠隔での目視確認の需要が高く、またモバイル回線の発達により、比較的安定してカメラからの映像を送ることが可能になったとのことでした。
そのような課題の中、映像を取り扱う新世代データ基盤をAWSを活用して構築しています。
AWSでの構成は、なるべくマネージドサービスを活用した構成を目指したとのことでした。
ストリーミング映像の保存にはAmazon Kinesis Video Streamsを利用しており、カメラからECS(Amazon Elastic Container Service)経由で動画を取り込んでいます。また、ウェブアプリケーションは、Vue.jsを用いたSPA(Single Page Application)として実装し、Amazon S3でホスト、バックエンドはAmazon API GatewayおよびAWS Lambdaで実装し、SAM(Serverless Application Model)で管理しています。
Q&A
Q. ECS on EC2の場合にタスクの数の変更は動的にLambdaを利用していますか
A. 詳細はお答えすることは出来ませんが、録画対象となるカメラ端末ごとにコンテナ(ECSタスク)を生成しており、API GatewayからのLambda実行によって立ち上げています。
Q. 防犯用途等で今回紹介いただいたソリューションを使おうとした場合、ストリーム映像を常に人が見続けるのは辛いものがあると思うのですが、動画から何か分析を行うような機能などはあったりしますか?(あるいは開発予定など)
A. 弊社製品の開発予定機能についてはお答え出来ませんが、Amazon SageMakerを利用するとリアルタイムでKinesis Video Streamsで保存した映像を分析することが可能です。
LT 2 – IoT水門制御サービス開発における課題とアプローチ
株式会社笑農和様からは、水田の水門を遠隔から開閉する、IoT水門についてご紹介いただきました。
水稲栽培の様々な作業の中でも、水管理は特に課題として挙げられていました。その理由として、水田が遠い場所にあることが多いことから、管理のたびに移動に時間を費やしてしまうことや、適切なタイミングでうまく行わないと、収量が減ってしまうということを挙げています。そのため笑農和様は、遠隔から水田の水位や温度を計測し、水門の開閉を行う、IoT水門を開発されています。
IoT水門の技術的な課題として、遠隔制御、省電力、IoT Platformの3点を挙げられていました。
1つ目の遠隔制御の課題としては、通信環境が十分に整っていない農地において、指令がうまく送信できなかった場合のリトライ処理があります。リトライの頻度、試行回数を増やせば成功率は上がる一方で、電力消費が大きくなるというトレードオフがあります。
2つ目の課題としては省電力を挙げています。水田に設置するIoTデバイスにおいて、有線にて電力供給を行うことは難しく、バッテリーを用いるにしても、離れた場所を回って交換を行うのは大変なので、極力頻度を下げる必要があります。特に今回のIoT水門の場合、センシングや通信だけでなく、水門開閉のためのアクチュエータを動かす必要があるため、太陽光発電等で全てを賄うことは難しく、通信回数を最小化する工夫をされているようです。そのために、沢山の農家さんにヒアリングを行い、どういった時期に作物にとって重要なのか、どういったセンサー情報に対して即応する必要があるのかを踏まえて改善を繰り返したとのことでした。
3つ目の課題としてはIoT Platform、クラウド側の実装を挙げられていました。
利用する通信方式の関係上、いままでは分離された2つのPlatformを使っていたとのとこですが、双方の機器を使いたいお客様のために、それら2つの環境を統合する上位のプラットフォームをAWSを利用して構築したとこことでした。
また、農家の平均値入れは68歳と言われており、使いやすいインターフェース実現するために方法を模索中とのことでした。将来的には、Alexaを使った音声操作も検討しているとのことでした。
Q&A
Q. 水門にごみや泥がたまってくる場合にどう処理しているか
A. 水門が閉じ切らないときには、一度門を上げ、水の流れを利用し、つまりを取る動作を行います。それでも、閉まり切らない場合は、異常として結果を返信することで、システム側で検知し、アプリ画面でのアラート表示、PUSH通知およびメール通知でユーザーに知らせるようにしています。
Q. 水門からのデータをクラウドに上げる際の通信手段についてお聞かせください
A. 水門からIoT Platformはブラックボックスです。IoT platformからAWS Cloudに対しては、HTTP通信です。
LT 3 – 超消費電力マイコンで実現するIoTとスマート農業
ルネサスエレクトロニクス株式会社様からは、スマート農業に向けた、超消費電力マイコンについてご紹介いただけました。農地に設置するIoTデバイスにおいて省電力化がいかに重要であるかは、LT2で笑農和様も触れていましたね。
特にIoT機器において、超消費電力性能がもたらす価値は大きく、メンテナンス作業の削減、ダウンサイジング、エナジーハーベスト(EH)による電池交換作業のオフロード、といったメリットがあるとのことでした。
IoTデバイスにおいては、マイコンの消費電力の他に、通信モジュールの消費電力も考える必要があります。通信の際に消費する電力はマイコンの消費電力に対して大きいことはしばしばあるため、その頻度によっては、通信による電力が支配的になり、マイコンの消費電力の寄与が問題とならない場合があります。
こちらのスライドでは、3つの通信の方式(LTE-M, LoRAWAN, BLE)ごとに、どれだけの間隔で通信を行なった場合に、全体の消費電力に対して通信で消費する電力が効いてくるかを比較しています。通信方式にもよりますが、送信間隔を抑えた場合、マイコンの消費電力が効いてくるケースが現実的に十分あるということをご説明いただきました。
エナジーハーベスト(EH)を活用することで、バッテリーをメンテナンスフリーにすることができます。今回は、太陽光発電と温度差発電を利用して実際にシステムを定常的に稼働する例をご紹介いただきました。
Q&A
Q. エナジーハーベストによって、デバイスを定常的に動作させ続けるには、充電量と消費電力を釣り合わせるために、データ送信間隔の調節が大切であることがよくわかりました。ご紹介いただいた超低消費電力マイコンにはEHを簡単に実現するためのEHコントローラが備わってるとのことでしたが、こちらには間欠動作の間隔を消費と充電量から自動的に調整するような機能はサポートされているのでしょうか?
A. 申し訳ありませんが、EHコントローラの機能としてはサポートしていません。エナジーハーベストによる発電量と消費電力をうまくバランスさせる仕組みは、MCUのプログラムとして実装しています。しかしながら、弊社もなお探索中のため、一般には、非公開とさせていただいています。
Q. 実際に自分でエナジーハーベスティングのシステムを導入する場合の具体的な手順等はありますか?
A. 弊社webサイトにて、RE01 1500KB、256KBグループ バッテリメンテナンスフリーを可能とするエナジーハーベストシステムのパワーマネジメント アプリケーションノートをご覧いただけますよう、お願いいたします。
LT 4 – 農業IoTにおけるAWS IoTのユースケース
20201021-IoT@Loft 農業における AWS IoT のユースケース
最後にAWSから、農業におけるAWS IoTのユースケースについてご説明しました。スマート農業の分野では、データ収集による業務の効率化や、属人性の低減による作業の平準化、農作物のトレーサビリティの担保、などのユースケースがあります。AWSではこれらのユースケースを実現するための様々なサービスを提供しており、今回は4つのユースケースと、対応するアーキテクチャを紹介しました。
お知らせ
次回 IoT@Loft
第16回目のIoT@Loftは、「ロボティクスにおけるIoTの活用」という内容で11/18(水)に開催いたします。
イベントの詳細や申込についてはこちらのサイトからご確認ください。
IoT@Loft ウェブサイト
https://thinkwithwp.com/jp/start-ups/loft/tokyo/iot-loft/
IoT@Loft Connpass
https://iot-loft.connpass.com/
AWS IoT 開発者ポータル
AWS IoT 開発者ポータルがこの度公開されました!IoT エンジニア向けに、IoT 関連の国内の事例やセミナーの情報、ハンズオンや学習のためのデジタルコンテンツなどを随時更新しています。是非定期的にチェックしてみたください。
https://thinkwithwp.com/jp/local/iot/
著者について
この記事はアマゾン ウェブ サービス ジャパンの原田 裕平が執筆し、飯塚 将太が監修しました。