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IoT@Loft #12 B2C 向けのプロダクトの運用の考え方
こんにちは、AWSソリューションアーキテクトの市川 です。7月15日に開催された IoT@Loft の第 12回目のテーマは、「B2C 向けのプロダクトの運用の考え方」でした。
イベントのタイトルからしてかなり絞ったテーマではありましたが、以下のイベント概要にあるように、実際に始める前に知っておきたい運用について開催しました。
B2C のプロダクトでは売り切りの製品から、サブスクリプションで収益を上げ続けるサービスのタッチポイントとして、顧客へ音声インターフェイスを提供し、出荷時のネットワーク設定やセキュリティ更新など、運用を含めた様々なフェーズで考えなければならないことが多くあります。今回は、実際にクラウドに繋がるスマートプロダクトを既に販売・運用されている方々に登壇いただき、どのような方法でプロダクトの運用を行っているかを紹介していただきました。
IoT@Loft とは ?
IoT 関連ビジネスで開発を担当するデベロッパーのためのイベントです。IoT の分野は、「総合格闘技」と呼ばれるほど、必要な技術分野が非常に多岐に渡ること、ビジネスモデルが複雑なケースが多く、全体を理解することは難しいと言われています。その結果、実証実験 (Proof of Concept : PoC) から商品への導入が進まないケースや、PoC でさえ十分に実現できていないケースも多々あります。
IoT@Loft は、そういった IoT 特有の課題と向き合い、情報共有・意見交換を行う場として、参加者の事業や製品開発を成功に近づけることができれば幸いです。この勉強会では、膨大な IoT 関連の情報の見通しを良くするために、各回ごとにテーマを定め、それに沿った形で登壇者に事例や技術のご紹介を頂きます。テーマは、インダストリー、ソリューション、テクノロジー、開発フェーズなどを軸に決めていきます。
connpassのグループに入っておくと、次のイベントの通知や、登壇資料の通知が受け取れますので、ぜひご参加ください。
IoT@Loft Connpass
https://iot-loft.connpass.com/
セッションの紹介
LT1- ユーザと直接つながる製品開発 (Atmoph Window)
登壇資料: ユーザと直接つながる製品開発 (Atmoph Window)
このセッションでは、アトモフ株式会社の中野氏より、自社で販売しているAtmoph Windowのの運用の話について発表をしていただきました。運用も製品の運用という視点だけではなく、ビシネスの視点からの運用についても紹介されました。
デバイスを作るためには初期投資が必要となるのですが、スタートアップだとその様な資金を用意するのは中々大変ということもあり、クラウドファンディングを使って資金を用意されたということでした。クラウドファンディングを利用することで、製品ができる前からカスタマーと繋がることができ、工場での風景などを共有することによって、製品を購入した人に製品が出来上がるまでのストーリーも一緒に体験していただけるとのことでした。また皆さんもIoTデバイスを購入して1回使ったけど、その後使わないという経験があるのではないでしょうか?その様なことにならない様に、継続して機能の追加や、コンテンツ(風景)の追加を行うことで、カスタマーとのタッチポイントを増やすことで、製品を利用し続けてもらうということも可能になります。
継続的なビジネスという点では、IoTデバイスはネットにつながるということもあり、サーバ側のコストがかかります。このコストが経営を圧迫してサービスがクローズドしてしまうケースもありますが、Atmoph社の取った方法としては、コンテンツの売り切りからサブスクリプションモデルの追加というものです。サブスクリプションモデルにすることで、継続的に売り上げが立つことになり、それによって新しいコンテンツも追加できる様になるので、季節やイベントによって追加されるコンテンツが利用できると、カスタマーの満足度も上がるので、プラスのサイクルになるとのことです。
IoTデバイスを売るだけの時代から、繋がり続けるフェーズにIoTビジネスがわかってきたのではないかとのことです。
Q&A
Q. 有線LANのポートはあるのでしょうか?
残念ながら有線LANポートはございません
Q. 動画コンテンツは、業者から購入しているのでしょうか?
動画は全てアトモフ専用の映像を自社で撮影し、編集しています。海外に関しては提携ビデオグラファーが撮影した映像をアトモフように編集・グレーディングしています。
Q. ソフトウェアのアップデートのための仕組みを自分たちで開発されたりしたのですか?
はい、自社で開発しました。全ユーザに配信する前に、社員や選ばれたベータテスターのみに先行配信する仕組みもあります。
Q. 広告を出すモデルは検討されなかったのでしょうか?
広告を出してハードウェアを安く提供するモデルも検討したのですが、いわゆるテレビCMのような形の広告はインテリア製品としては難しいかなと現時点では思っています。
Q. ユーザーとの距離が近くて非常に面白いサービスだと思いました。差し支えない範囲で、ユーザーの声の集め方と、声がサービスに繋がった例があれば教えてください。
クラウドファンディングサイト(Kickstarter/Makuake/Indiegogo)でのコメント欄やUpdateによるコミュニケーションをメインに行ってきました。また、zendesk のフォーラムがありそこで、機能追加の要望や、風景のリクエストを多くいただいています。ユーザーの声から追加された機能はいっぱいあり、例えばスケジューリング機能切り替え感覚や、暗い風景になったらLED消す機能などです。
Q. CFで開発の過程を見せてつながっていくというところが非常にためになりました。CFで投資してくれるほどではないが興味はある、というレベルのお客様とつながるための方法はありますか?
今やっている部分だと、メーリングリストに登録してくださった方に情報を発信したり、twitterやinstagramで製品情報やお客様の使ってくださっているところを発信しています。また最近は Insta live の配信も実験しています。
Q. 製品として立ち上げるのは難しいとおっしゃいましたが、特にここが難しかったという所があればご紹介いただきたいです。
量産だと10個からというわけにはいかず、少なくとも1000個くらいからとなり、生産を開始する前に大きなお金がかかります。少人数でハードウェアを作る最初の壁がそこなり、私たちはクラウドファンディングを利用しました。
Q. デバイスソフトウェアの更新って大変なイメージがありますが、デバイス側もサーバー側も自分たちで実装しているのでしょうか。
OSに関しては既存のものをカスタムしているのですが、その上で動くアプリケーションの更新に関してはサーバ側も含めて自分たちで実装しています。
Q. どのあたりで収益が出た(黒字化した)のでしょうか?
継続的に収益を得ているとはいえ、開発にかけた人件費や量産の初期費用を考えるとトータルでみた場合にはまだまだ多くの利益が必要なので、ハードウェアは難易度が高いなと思っています。
LT 2 – AWSサーバーレスアーキテクチャを使ったIoT製品開発事例のご紹介
登壇資料: AWSサーバーレスアーキテクチャを使ったIoT製品開発事例のご紹介
このセッションでは、ラトックシステム株式会社の佐々木 英之 氏より、自社で販売しているIoT製品の運用について発表をしていただきました。すでに販売している家電リモコンとして、RS-WFIREX4の紹介や、今後発売を予定している環境センサーの紹介もありました。家電リモコンは独自で家電の情報を調べ、国内で発売されている家電の多くに対応されているとのことです。これらのデバイスはAmazon Alexaとも連携できるように作られており、その環境はサーバレスで構築されているとの話でした。サーバレスで構築することで、運用やコストなど様々なメリットを受けつつ製品の運用ができているとのことです。
また、B2C製品の場合は使うユーザーは様々ということもあり、サポートに来る問い合わせの50%が初期設定の相談ということでした。そのための対策としてなるべく簡単にセットアップできる方法が試されていたり、業界で初めてAmazon Alexaで提供しているApp-to-Appの仕組みを取り入れたりと多くの工夫がされていました。
B2C製品は販売後も開発リソースがかかるため、販売開始後のコストも考慮した製品仕様、製品化が重要とおっしゃっており、その一例として最近の密集を検出する案としてCO2濃度というのに着目されており、すでに製品化を進められているという話もあり、市場の変化に追従する動きの速さも印象的でした。
Q&A
Q. 市販品を流用した際に、サポートで利用状況の情報など必要になるかと思いますが、その場合はどのようにされていますか?
紹介した事例はAWS IoTの接続先を切り替えるパターンのため、お客様のAWS環境を使うことになり、弊社からはデバイス提供のみでした。
Q. OTAの運用に関して、定期的に自動Firmware更新を実施していますか?
自動更新は実施しておりません。ファームウェア機能改善などが必要になったときにはスマホアプリからファームウェア更新案内を行い、お客様に手動にて更新をおこなっていただいております。
Q. AWS IoTに接続するための秘密鍵・証明書の書き込みどのようにしていますか?
スマホアプリからTCP/IPでデバイスに証明書などを送り、その情報を基にAWS IoTに接続を行う仕組みを採用しています。
Q. 変わり続ける環境に合わせて追従するためのリソースを、ビジネスとしてどうやって支えるのか、なにかヒントがありましたら教えて下さい。買い切りの場合には次の製品を出すことがそれになるのでしょうか。
製品改良、新製品投入なども一つの方策になります。また、弊社の家電リモコンの場合、当初はBtoC向けの買い切りというスタンスで始めています。お客様一巡してしまうと売上げを伸ばすにも限界が有り、BtoB向けの新しいマーケットに視野を広げ、BtoBで使って貰うためのサービスを展開しました。
Q. コロナが話題になってからCO2センサーの搭載を決めて、9月にリリースというスピード感で開発ができるためのポイントなどありますか?
ハードの設計、AWSクラウド、アプリの開発を全て社内のワンチームで行っていることです。仕様変更に関わる方針変更もスピーディに対応することができます。一つの製品に開発に必要な期間は最短でも5ヶ月程度は必要です。
Q. 御社のデバイスが、お客様のクラウド環境にも接続できるのでしょうか?
接続可能です。製品により異なりますが、AWS IoTで直接お客様クラウドへ接続する場合と、API Gatewayを介して連携する場合の2パターンとなります。
LT 3 – Alexa対応MusicCastを支えるサーバレスクラウド運用について
登壇資料: Alexa対応MusicCastを支えるサーバレスクラウド運用について
このセッションでは、ヤマハ株式会社の須山 氏より、自社で開発及び運用している製品MusicCastの運用についてのお話を発表していただきました。MusicCastは国内だけではなく海外でもサービスを提供しているサービスでもあるため、ローンチ後から積極的に海外向けにAmazon Echoに対応したり、国内でもAmazon Echoが利用できるようになったら対応したりと、新しい技術を取り込んできたとのことです。また、これらを支えるバックエンドとして、サーバレスアーキテクチャで構築しているとのことです。
運用については、コスト面、監視、データ分析について紹介していただきましたが、監視についてはデバイスだけではなく、システム全体の監視を行なっているとのことでした。ただし、最初から全てを完全な状態で監視するのではなく、少しずつ閾値を調整することで、適切な監視が行えるようになるということです。
デバイス以外の監視ではWebページやAlexa SkillのLambdaなど定期的にチェックすべきものも行なっており、これによってサービス全体にわたって何が起きているかを把握できるのではないかと感じました。
データ分析では、S3に保存されたデータをGlue、Athenaを利用しているとのことですが、問題の分析でも活用されているとのことで、開発フェーズの頃から活用されていたとのことでした。コスト面のところでも話がありましたが、ログを収集するのも大事だけど、集めれば集めるほどコストもかかるので、その辺りを考慮しながら集めておくことが大事とのことです。
Q&A
Q. 監視の仕組みが色々と作られていましたが、これらの運用もエンジニアの方が行うのでしょうか?(そのほか運用体制について質問が多くありましたが、こちらにまとめています)
監視も開発部門で行なっています。
サーバーレスなのでサーバーが落ちることもなく、AWS側の責任部分については対応することがないため、対応の必要がある部分は自社設計のコードになります。監視結果から不具合等あれば修正し、次のデプロイに反映させるのが主な運用です。またデプロイ時には日本時間の平日昼間に行い、土日を跨がない様にして何か問題があっても同じ週で対応できるなど工夫しています。
Q. アトモフさんのようにユーザーの声を製品に頻繁に頻繁に反映する事が難しいサイクルだと思いますが、どのようにユーザーのニーズを集めているのか教えてください。機器から集めたデータからある程度読み取れるものなのでしょうか。
ユーザーの声は、AlexaのSkillストアの各国語のレビューやAppleのAppStoreなどのレビューなど全て確認レビューし機能改善に役立てています。機器からのデータの活用は最近力を入れ始めたところで、ある程度ユーザーニーズも読み取れるのではないかと期待しています。
Q. デバイスのファームウェアアップデートなどは実装されているのでしょうか?実装されている場合にはAWS IoTの機能を使用しているのでしょうか?
MusicCastはクラウド接続の前から独自のネットワークアップデート機能がありましたのでそれを利用しており、IoTのアップデート機能は利用していません。またMusicCast自体はIoT接続を必須としていないのでIoTの機能では全てをカバーできません。
Q. 監視も開発部門で実施しているということですが、開発を継続していきつつ、且つ監視も行うとなるとそれなりのリソースが必要になると思いますが、そこを想定したうえでメンバーをそろえたようなイメージでしょうか。監視にどこまで人員を割くかで頭を悩ましています。
弊社でも運用に関してはまだ試行錯誤の状態です。サーバーレスでは監視体制の見積もりが難しいですね。サービス毎に要件が違うのでどれだけが正解とは言えないですが、弊社のサービスは無償の機能で、課金システムなどと違いクリティカルなサービスではないためそれほどの人員は割いていません。サーバーレスのおかげもあって、公開して2年経ちますが一度もサービスが落ちたことはありません。
Q. 社内IT部門も開発、運用に参加したのでしょうか?
社内IT部門にはCloudFront周りの設定や脆弱性検査等は協力していただきましたが、それ以外は全て開発部門で開発しました。開発当時社内にもサーバーレスの知見が少なかったのも理由です。
LT 4 -デバイスの運用で使えるAWS IoTサービスの紹介
登壇資料: デバイスの運用で使えるAWS IoTサービスの紹介
動画: https://youtu.be/ZHFcMgVv8rs
AWSでIoTを始めるときはAWS IoT Coreについて調べることが多いですが、デバイスの管理等に便利なAWS IoT Device Managementと、セキュリティーの維持のために便利なAWS IoT Device Defenderは比較的見過ごしがちなので、運用のライフサイクルに合わせて便利な機能について紹介をしました。
初期化時の課題として、デバイスに埋め込む証明書をプロビジョニングする方法が多くどうすれば良いのかと悩まれることが多いですが、どのような観点で判断するかを紹介させていただきました。大きなポイントとしては自分で認証局から発行した証明書を用意できるか、セキュアチップに含まれる証明書を使うか、AWS IoTで発行する証明書を使うか、というポイントからどうやってデバイスにプロビジョニングするかが変わってきます。
デバイスのおかしな挙動を調べる際には、AWS IoT Device Defenderを利用することや、デバイスの設定変更、FWの更新ではAWS IoT Device Managementの機能を使うことで実装できることを紹介させていただきました。最後にIoTのサービスの使い方だけではなく、AWS IoTのログやメトリックスをAmazon CloudWatchのダッシュボードを利用して可視化することで、サービス全体の監視も行う方法についても紹介させていただきました。
Q&A
Q. Jobのやりとりが複雑に見えたのですが、SDKなどでは対応されているのでしょうか?
AWS IoT SDKを利用することで簡単に実装することができます。もちろん、Topicをサブスクライブして自分で組み込むことも可能です。SDKではサンプルも用意されていますので、それを見ながら簡単に実装することが可能です。
次回 IoT@Loft
第13回目のIoT@Loftは、「IoTスタートアップ vol.2」という内容で開催いたします。
イベントの詳細や申込についてはこちらのサイトからご確認ください。
IoT@Loft ウェブサイト
https://thinkwithwp.com/jp/start-ups/loft/tokyo/iot-loft/
IoT@Loft Connpass
https://iot-loft.connpass.com/
著書について
AWS では IoT に関連するプロトタイピングを支援する、プロトタイピング ソリューション アーキテクトとして、お客様の IoT 関連案件を支援しています。