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RFID テクノロジーと AWS による小売店における在庫管理の強化
AWS での RFID ストア在庫管理のガイダンス
RFID (Radio Frequency Identification) の必要性が高まっています。小売業者は、在庫管理において、在庫切れ、商品の置き忘れ、シュリンケージ(*) など、多くの課題に直面しています。これらの課題は、収益に影響を与え、顧客体験を損なう可能性があります。これらの問題に対処するために、小売業者はますます RFID 技術に目を向けています。IDC によると、小売業者の 80% が何らかの形の RFID 機能を導入中(または導入済み)とのことです。
(*) 損傷や盗難などにより在庫が減っていくこと
RFID は、電波を使用して物体を識別および追跡できるようにするワイヤレステクノロジーです。RFID 技術を活用することで、小売業者は在庫をリアルタイムで追跡できるため、シュリンケージを検出しながら管理、カウント、識別が容易になります。小売業における RFID 技術の使用は、在庫管理の改善の必要性、オムニチャネル小売業の台頭、サプライチェーン管理における RFID 技術の利用増加により急速に増加しています。
RFID の実装を検討している小売業者の場合、アマゾンウェブサービス (AWS) のスマートストアソリューションを利用すると、小売業者が RFID 技術を簡単に実装できるようになります。AWS には、個々の小売業者の特定のニーズに合わせてカスタマイズできるさまざまなソリューションがあります。AWS スマートストアソリューションを活用することで、小売業者は広範な技術的専門知識やインフラストラクチャへの投資を必要とせずに RFID テクノロジーの利点を活用できます。
このブログでは、AWS の RFID ストアインベントリ の新しいソリューションガイダンスで強調されているように、RFID テクノロジーがどのようにして次のことを可能にするかを詳しく説明します。
- 在庫管理に革命を起こす
- 店舗の在庫カウントを改善する
- 在庫の識別を支援する
- シュリンケージを検知する
また、AWS スマートストアソリューションによって RFID テクノロジーの実装が容易になる方法や、実店舗で RFID を活用するメリットについても説明します。
RFID の概要と小売業者向けの価値提案
RFID テクノロジーは、RFID タグ、RFID アンテナ、RFID リーダー、データベースの 4 つの主要コンポーネントで構成されています。
図 1 RFID テクノロジーの概要
RFID システムは、連携して動作する複数のコンポーネントで構成されています。中核となるのは RFID タグです。これは、追跡対象物に取り付けられた小型のデバイスで、固有の識別データを備えたマイクロチップと、リーダーからの電波を受信するアンテナを備えています。リーダーに接続された RFID アンテナは、電波を発して RFID タグをアクティブにしてデータを収集するため、さまざまな用途に合わせて柔軟に設計できます。送信機と受信機を備えた RFID リーダーは、無線信号を送信して RFID タグを検出し、データを収集します。このリーダーは、コンピューターに接続したり、ハンドヘルドスキャナーに組み込んだりできます。
システムによって収集されたすべての情報は、オンサイトまたはクラウドでホストできるデータベースに保存および処理されるため、権限のある担当者はデータをリアルタイムで追跡および報告できます。これにより、在庫管理が容易になり、サプライチェーンの効率が向上し、小売業者の顧客サービスが向上します。
RFID 技術は小売業者に多くのメリットをもたらします。精度を向上させ、個数のカウントに費やす時間を短縮し、リアルタイムの追跡を可能にすることで、在庫管理を強化します。これにより、小売業者は在庫切れ、商品の置き忘れ、在庫の不一致に迅速に対処できるようになり、コストの削減と顧客満足度の向上につながります。
さらに、RFID を使用すると、在庫をより迅速かつ正確に識別できるため、迅速な在庫補充と売上の増加が可能になります。また、商品の動きを追跡したり、不審な行動をスタッフに警告したり、店舗レイアウトを最適化したりすることで、シュリンケージを防ぐのにも役立ちます。全体として、RFID 技術は小売業者に以下のことを可能にします。
- コストを削減する
- 顧客満足度の向上する
- 売り上げを伸ばす
- シュリンケージを防ぐ
- より安全なショッピング環境を作る
次のセクションでは、4 つの異なるフローについて詳しく説明します。
RFID による店舗在庫管理
ビジネスユースケースと成果:
RFID は、小売ブランドに在庫の正確性と信頼性を向上させ、売上と顧客満足度の向上につながります。また、在庫レベルや、数量、モデル、色、サイズなどの店舗在庫に関するリアルタイムかつ具体的な情報も提供します。RFID タグはすべての商品を追跡するため、在庫の問題を解消し、店舗のセキュリティを向上させることができます。RFID リーダーで製品をスキャンすると、在庫管理に費やす時間が短縮され、生産性が向上し、従業員の手作業が減ります。これにより、スタッフは在庫数を数えるよりも顧客と販売に多くの時間を費やすことができます。ハンドヘルドスキャナーを使用すると、1人で複数のアイテムを数分でスキャンできるため、より頻繁に(そしてより速く)在庫管理が可能になります。店舗内の在庫は、グローバルな在庫管理やその他の下流システムと定期的に同期され、業務と予測計画の改善が図られ、顧客体験の向上につながります。
リファレンスアーキテクチャの概要:
図 2 AWS で RFID を使用して店舗在庫を管理するためのリファレンスアーキテクチャ
RFID を使用して AWS で在庫を管理する一般的な店舗を見てみましょう。
ウォークスルー:
- ストアでインベントリアイテムがスキャンされると、データが収集され、暗号化された MQTT プロトコルを使用して AWS IoT Core に送信されます。ここからデータがインベントリイベントハブに入ります。これら店内の RFID スキャナーは、店舗内の POS システムや在庫管理システムとリンクして、便利な機能を利用することもできます。
- インベントリ取り込みハブは、インベントリスキャンイベントの取り込み、他のサービスへのルーティングします。ハブの設計は分離されているため、ダウンストリームのサブスクライバは柔軟に対応できます。AWS IoT Core は、Amazon EventBridge にパブリッシュされる前に AWS Lambda を使用してデータ変換タスクを完了します。
- インベントリ分析レイヤーは、Amazon EventBridge からのすべてのイベントを読み取ります。Amazon Kinesis Data Firehose は Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) にデータをロードして、店舗への在庫の補充といった分析や機械学習 (ML) のユースケース に使用します。
- グローバルインベントリ管理システムは、Amazon DynamoDB のインベントリ更新をニアリアルタイムで維持する目的で Amazon EventBridge にサブスクライブしています。更新が行われると、AWS AppSync はそれらをインストアインベントリ管理システムに共有して調整します。
- Amazon EventBridge は、定義されたルールに基づいて、イベントターゲットとして登録されている他のエンタープライズシステムにイベントをポストします。インベントリイベントプロキシは、Amazon API Gateway を介してモバイルスキャン (QR コード、NFC など) を受け付けます。イベントは Amazon DynamoDB に保存されている RFID タグと照合され、インベントリインジェストハブに渡されて処理されます。
RFID による店舗在庫のカウント
ビジネスユースケースと成果:
注目すべき利点の 1 つは、在庫を正確に数えるために必要な人的労力が大幅に削減されることです。各アイテムに RFID タグが取り付けられているため、手作業でカウントするという骨の折れる時間のかかるプロセスは過去のものになります。これにより、貴重な労働時間を節約できるだけでなく、エラーのリスクを最小限に抑え、在庫記録を正確かつ最新の状態に保つことができます。さらに、RFID を使用すると、店舗または倉庫内の商品を迅速かつ正確に配置できます。RFID リーダーを使用することで、スタッフは各アイテムの正確な所在をすばやく特定できるため、不必要な検索時間を省き、全体的な運用効率を高めることができます。もう 1 つの重要な利点は、不正確な在庫による販売漏れが減少することです。RFID のリアルタイム追跡機能により、小売業者は正確な在庫レベルを維持し、在庫切れの事態を防ぎ、顧客が必要な商品を常に見つけられるようにすることができます。在庫管理に RFID を採用することで、小売業者は業務を合理化し、顧客満足度を向上させ、収益を向上させることができます。
リファレンスアーキテクチャの概要:
図 3 AWS で RFID を使用して店舗在庫をカウントするためのリファレンスアーキテクチャ
それでは、RFID を使用して AWS の在庫数をカウントする一般的な店舗を見てみましょう。
ウォークスルー:
- 棚に格納されている在庫とラックに掛けられている在庫の両方をスキャンすることで、在庫を迅速に監査できます。スキャンされたタグデータは AWS IoT Greengrass に送信され、前処理と重複排除が行われます。
- AWS IoT Greengrass は、ローカル店舗ネットワークを通じて在庫スキャンをインストアインベントリ管理システム (IMS) に通知できます。インストア IMS は Amazon ECS Anywhere 上で動作するため、アップデートの一元管理とデプロイが可能です。
- AWS IoT Greengrass は、インベントリのスキャンされた ID を店舗の場所とともに RFID インベントリ取り込みハブにも送信し、処理とルーティングを行います。
- Global IMS は、在庫の不一致を調整するために、インベントリ取り込みハブの在庫スキャンイベントにサブスクライブします。
- 在庫監査が完了すると、グローバル IMS は更新または通知をインストア IMS に返送し、一連の非同期更新処理を完了します。
- 在庫の不一致はインストア IMS で調整され、その後にグローバル IMS が更新されて、両方のシステムが最新かつ同期していることを確認します。
RFID による在庫の識別
ビジネスユースケースと成果:
RFID を導入することで、小売業者はパーソナライズされた商品レコメンデーションを提供できるようになり、平均購入率が高くなる可能性があります。RFID タグとリーダーを利用することで、小売業者は各顧客の好みや過去の購入に関する詳細な情報を収集し、顧客に合わせた提案を行い、ショッピング体験を向上させることができます。さらに、RFID のリアルタイム追跡機能により、小売業者は一時的に在庫切れになっている商品から近くの店舗で入手可能な代替商品を推奨することで、売り上げと顧客満足度が向上します。もう 1 つの利点は、店内の顧客の閲覧傾向に関する貴重な洞察を得られることです。RFID テクノロジーは、店舗内での商品の動きや相互作用に関する正確なデータを提供するため、小売業者は人気のエリアを特定し、商品の配置を最適化し、情報に基づいた意思決定を行って全体的なショッピング体験を向上させることができます。
リファレンスアーキテクチャの概要:
図 4 AWS で RFID を使用してインベントリを識別するためのリファレンスアーキテクチャ
RFID を使用して AWS 上の在庫を識別する一般的な店舗を見てみましょう。
ウォークスルー:
- 店舗ユーザーは、興味のある商品をストアアプリでスキャンします。
- ストアアプリは Amazon Route 53 に HTTPS リクエストを送信して、ホストサービスにドメインネームサービス (DNS) の変換をします。リクエストは最も近い Amazon CloudFront (CDN) エッジロケーションにルーティングされます。
- AWS WAF を使用してトラフィックにルールを適用し、エクスプロイトや攻撃から保護します。
- Amazon S3 に保存されている静的ウェブサイトとアセット (HTML、画像、動画など) がユーザーに返されます。
- AWS AppSync は、AWS Lambda などのリゾルバーにルーティングしてユーザークエリを処理します。
- AWS Lambda は ProductID をキーとして使用して、Amazon DynamoDB に保存されているサイズ、色、オプション、特性、現在のインベントリなどの詳細情報を返します。ProductID は、インベントリデータを格納する DynamoDB テーブルのパーティションキーです。
- AWS Lambda は ProductID を使用して、一緒に購入されることが多い商品のレコメンデーションを Amazon Personalize から返すこともできます。AWS Glue は Amazon S3 に保存されている製品カタログとインタラクション履歴データベースをクロールし、データカタログを作成できます。
- 抽出、変換、ロード (ETL) ジョブを AWS Glue で実行して、データを Amazon Personalize トレーニングジョブに必要な形式に変換できます。
- データセットが S3 バケットに追加され、Amazon Personalize でトレーニングサイクルが開始されます。
RFID によるシュリンケージの検出
ビジネスユースケースと成果:
RFID システムを導入することで、店舗は未払いの品物が施設を出たときにアラームを鳴らすことで盗難を効果的に阻止し、在庫のシュリンケージを大幅に削減できます。さらに、RFID をビジネスインテリジェンスツールと統合することで、シュリンケージパターンを詳細に分析できます。シュリンケージのタイミングに関する分析を通じて、小売業者はシュリンケージの事故についての頻度とタイミングに関する貴重な洞察を得ることができます。さらに、個々の製品のシュリンケージ分析により、どの品目がシュリンケージしやすいかを特定できるため、的を絞った予防策が可能になります。加えて、シュリンケージの導線分析を行うことで、小売業者はシュリンケージの一因となる店舗内の経路を把握し、それに応じて店舗レイアウトとセキュリティ対策を最適化することができます。全体として、RFID システムはシュリンケージの検出と分析に対する包括的なアプローチを提供し、小売業者が在庫をより適切に管理し、損失を軽減できるようにします。
リファレンスアーキテクチャの概要:
図 5 AWS で RFID を使用して収縮を検出するためのリファレンスアーキテクチャ
次に、RFID を使用して AWS で在庫の縮小を検出する一般的な店舗を見てみましょう。
ウォークスルー:
- 商品の購入準備が整うと、その商品は販売時点管理 (POS) に表示されます。SKU/RFID は POS でスキャンされ、購入取引が完了します。POS がインストア IMS を更新します。このプロセスでは、商品が購入されたことを反映させるために在庫を更新します。
- インストア IMS は、販売活動の詳細を AWS IoT Greengrass にパブリッシュします。AWS IoT Greengrass は、インベントリのスキャンされた ID と店舗の場所を RFID インベントリ取り込みハブに送信し、処理とルーティングを行います。
- トランザクションが完了し、顧客が商品を持って店を出ると、出入り口にある固定式 RFID リーダーによって商品が再度スキャンされます。
- 固定式出入口 RFID リーダーは RFID タグ情報を AWS IoT Greengrass に渡し、そこでは AWS Lambda を利用してインストア IMS をチェックします。
- AWS Lambda インベントリチェックの結果には、アイテムが購入されたかどうかが返されます。アイテムが購入されていない場合、AWS IoT Greengrass は店舗内アラームをトリガーし、イベントを RFID インベントリ取り込みハブに送信してさらに処理します。
- RFID インベントリ取り込みハブの RFID イベントは、追加のイベント駆動型処理を引き起こす可能性があります。アイテムを購入すると、グローバル IMS、特に DynamoDB が更新され、インベントリデータが適切なステータスで更新されるようになります。
- 出入り口の固定式 RFID リーダーを支払いなしで通過させたアイテムは、Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS)を通じてセキュリティチームに警告を発します。
- グローバル IMS は、購入した商品と未払いの商品で更新されます。セキュリティチームは、Amazon QuickSight を通じて商品がどのように店舗から出ていったかを理解するため、データをさらに確認して視覚化することができます。
AWS で RFID の可能性を解き放つ
結論として、小売業者にとっての RFID 技術の利点は明らかです。在庫の正確性と効率性の向上、在庫の特定、シュリンケージの検出、店舗在庫数の改善により、小売業者はコストを削減し、売上を増やし、全体的な顧客体験を向上させることができます。さらに、AWS スマートストアソリューションを使用すると、小売業者は RFID テクノロジーを簡単に実装し、これらの利点を活用できます。
在庫管理を改善し、より良い顧客体験を提供したいと考えている小売業者なら、今こそ RFID テクノロジーの利点を検討する時です。このテクノロジーの採用が拡大し、その利点が明らかになった今、RFID と AWS スマートストアソリューションがビジネスの成功にどのように役立つかを探り始める絶好の機会です。今すぐ、在庫管理に革命を起こすための第一歩を踏み出しましょう。新しい AWS における RFID ストアインベントリのソリューションガイダンス を今すぐご利用ください。
AWS パートナーからの支援
さらに、小売業者は AWS リテールコンピテンシーパートナーと連携して、AWS に関する小売ソリューションや専門知識を提供することができます。これらの AWS パートナーサービスは、高度な小売のデータサイエンスやエッジコンピューティングなどの専門分野において、技術に習熟していること、および小売業のお客様が成功を収めていることが証明されています。
ユースケースはそれぞれ異なり、プロジェクトごとに独自のアプローチが必要です。このドキュメントで紹介するリファレンスアーキテクチャは、一般的な RFID ビジネスの可能性に対する体系的なアプローチを示しています。場合によっては、ユーザーは特定の段階をスキップしたり、複数の段階を組み合わせたりすることができます。あるいは、その過程に追加のステップがある場合もあります。これらのアプローチを試して、RFID と AWS クラウドの力を組み合わせて活用することによるビジネス上の可能性を最大限に引き出してください。
AWS がスマートストアソリューションで小売業の変革をどのようにサポートできるかをご覧ください。以下のページで詳細をご覧ください。
thinkwithwp.com/retail/
参考文献
- The Retail Race: A Roadmap for Implementing a Smart Store Strategy
- AWS IoT サービス
- Embrace Retail’s Future: Bringing AWS Smart Store Solutions to Life
翻訳はソリューションアーキテクトの平井が担当しました。原文はこちらです。