Amazon Web Services ブログ
SAP on AWS のエンドツーエンドオブザーバビリティ: パート 1 概要
背景
お客様は常に、SAP システムにおけるコア業務プロセスの運用上の卓越性と回復力の向上を求めています。それを達成するには、SAP 環境の統合モニタリング/オブザーバビリティダッシュボードが必要になり、そこで問題を関連付け、問題がデータベース、アプリケーションサーバー、プレゼンテーション、ネットワーク層 (インターネット接続を含む) のいずれにあるかを理解できる必要があります。
AWS はAmazon CloudWatch Application Insights for SAP HANA、CloudWatch Application Insights for SAP NetWeaver、CloudWatch Real User Monitoring、AWS Network Manager、Compute Optimizer、およびCloudWatch Internet Monitorを通じて、エンドツーエンドのオブザーバビリティを提供しています。
これらの監視機能が組み合わされると、次のことができるようになります。
- SAP システムの根本原因分析を包括的に提供し、MTTR (平均復旧時間) を日単位から時間単位 (場合によっては分単位) に短縮する。
- SAP ユーザーの SAP システムが障害に陥る前に、プロアクティブに警告を行えるようにする。
- SAP システムのキャパシティ予測と計画を行い、顧客が重要なビジネスプロセスをサポートするために適切なサイズにする必要があるリソースを把握できるようにする。
SAP アーキテクチャ 層
SAP ERP または S/4HANA システムは一般に、次のように 3 層アーキテクチャで展開されています。
これにより、システムの動作を理解し、AWS 上で設計が適切なシステムであることを効率的かつ効果的に監視できます。
図 1. オブザーバビリティをサポートする SAP アーキテクチャレイヤーと AWS サービス
プレゼンテーション層には、エンドユーザーが作業を行うためのグラフィカルインターフェースを提供できるシステムが含まれています。
- プレゼンテーション層は、クライアント層とも呼ばれ、ユーザーが SAP システムと対話するレイヤーです。
- SAP ユーザーとの対話には、SAPGUI (デスクトップにインストールされるクライアントアプリ) や SAP Fiori (デスクトップ、タブレット、モバイル端末で動作する HTML5 クライアント) が利用されます。
アプリケーション層には、SAP システムのアプリケーションロジックを実行するサーバーが含まれます。
- SAP アプリケーションプログラム (ABAP) はアプリケーション層で実行されます。
- アプリケーション層は、プレゼンテーション層とデータベース層の中間層として機能します。
- アプリケーション層で、SAP ディスパッチャが作業負荷を異なる作業プロセスに分散させます。
データベース層には、SAP システムのアプリケーションロジックを実行するために必要なデータを格納するサーバーが含まれます。
- データストアには、マスターデータ、業務データ、設定、ABAP プログラムが含まれます。
- 例: SAP HANA、Oracle、Microsoft SQL Server、IBM Db2、SAP ASE などです。
SAP で重要なビジネス プロセスを効率的かつ効果的に実行するためには、これらのさまざまな層がボトルネックやトラブルなく協調して動作する必要があります。これが、リアクティブな問題のトラブルシューティングをプロアクティブなシステム管理に切り替え、ビジネス ユーザーに多大な損失をもたらす事業の中断やダウンタイムを防ぐために、すべての SAP 層における可観測性が非常に重要である理由です。
SAP on AWS の監視機能
上記で説明した SAP のアーキテクチャ層に基づいて、AWS は以下のサービスを開発しました。
これらのサービスにより、AWS 上の SAP システムのエンド ツー エンド可視化が可能になり、従来の受け身の管理から一歩進んで積極的に管理できるようになります。
これにより、ビジネス上の重要なプロセスを支える高い回復力が得られます。
- CloudWatch Application Insights は、Amazon EC2 インスタンスを使用するアプリケーション、および SAP システムをサポートする その他のアプリケーションリソース を監視するのに役立ちます。
- CloudWatch Real User Monitoring (RUM) は、CloudWatch のデジタル体験監視の一部で、クライアント側のアプリケーション動作に関するリアルタイムデータを提供します。これにより、アプリケーション開発者と DevOps エンジニアは、さまざまな潜在的な問題を迅速に特定してデバッグできるため、平均修復時間 (MTTR) を短縮し、SAP システムの使用におけるユーザー体験を向上させることができます。詳しくは このブログ を参照してください。
- CloudWatch Internet Monitor は、AWS 上にホストされた SAP アプリケーションとモバイル作業者との間のインターネットの問題がパフォーマンスと可用性に与える影響を可視化します。
- AWS Network Manager は、ビジネスクリティカルな SAP システムをサポートするための、AWS 上のネットワークの管理と監視を支援するツールと機能を提供します。Network Manager により、接続管理、ネットワーク監視とトラブルシューティング、IP 管理、ネットワークセキュリティとガバナンスを容易に行えます。
- AWS Cloud WAN は、管理型の広域ネットワーキング (WAN) サービスで、クラウドとオンプレミス環境全体で実行されるリソースを接続する統一的なグローバルネットワークを構築、管理、監視することができます。
- インフラストラクチャ パフォーマンスにより、指定した期間の AWS リージョン間、およびアベイラビリティー ゾーン間やゾーン内のネットワーク レイテンシをリアルタイムに近い状態で取得できます。
- AWS Global Networks for Transit Gateways により、1 つ以上のグローバル ネットワークを作成し、AWS アカウント、リージョン、オンプレミスロケーション全体にわたってそれらのグローバル ネットワークを集中管理できます。
- AWS Compute Optimizer は、AWS リソースの構成と使用率メトリクスを分析します。CloudWatch Application Insights for SAP HANA と SAP NetWeaver を組み合わせると、Compute Optimizer がリソースが最適であるかどうかを報告し、SAP ワークロードのコストを削減してパフォーマンスを向上させるための最適化推奨事項を生成することができます。
SAP ワークロードに適用できるそれぞれのサービスについて、次回のブログシリーズでより詳しく説明します。ご期待ください。
事例
それでは、AWS 上の SAP システムを監視する際に、上記すべてがどのように SAP のお客様を支援するかという使用例を見ていきましょう。
図 2. モバイルユーザが、インターネットから SAP Fiori Launchpad にアクセスする際の遅さを報告した使用ケース
以下のような方法で、根本原因分析 (RCA) を実行することをお勧めします:
- CloudWatch RUM を使えば、ユーザーの操作、ユーザーの位置情報、ユーザーが体感するパフォーマンス、そしてモバイルデバイスでエラーが発生していないかを確認できます。
- CloudWatch Internet Monitor を使えば、ユーザーの近隣で時期を同じくしてインターネットサービスプロバイダーの接続問題が発生しているかどうか、ユーザーの体験に影響を与えている可能性がないかを確認できます。
- Application Load Balancer の CloudWatch メトリクスを確認すれば、インターネット接続側の Application Load Balancer で異常状態や応答時間の遅延が検知されていないかどうかがわかります。
- SAP Web Dispatcher では、CloudWatch for EC2 Metrics を使って EC2 インスタンスの全体的な健全性を確認し、CPU、RAM、ストレージなどにボトルネックや問題がないかを確認することができます。
- SAP Application Servers では、CloudWatch Application Insights for SAP NetWeaver を使って可用性、フロントエンドのレスポンス時間、検出された問題、ASCS/ERS の ペースメーカー HA メトリクスなどの主要なメトリクスを確認することができます。
- SAP HANA Database レイヤーでは、CloudWatch Application Insights for SAP HANA を使って、メモリ不足状況、ディスク容量不足状況、ディスクの書き込みキュー長などの主要メトリクスを確認することができます。
- ネットワークレベルでは、AWS Network Manager を使って、アベイラビリティゾーン間 (たとえばアプリケーションサーバーとデータベースサーバー間の複数 AZ 間の遅延測定など) でネットワーク上の問題がないかを確認したい場合があります。
最後に、AWS Compute Optimizer を使用して容量分析を行い、コンポーネント (SAP Web Dispatcher、アプリケーションサーバー、HANA データベースなど) がサイジングされる必要があるかどうかを確認できます。
- サイズが小さすぎる場合、CPU、RAM、ディスク、I/O の使用率が継続的に高くなり、パフォーマンスが低下します。
- サイズが大きすぎる場合、CPU、RAM、ディスク、I/O の使用率が継続的に低くなります。
AWS Compute Optimizer の推奨事項は、SAP 認定インスタンスタイプに合わせて調整する必要があることにご注意ください。
上記の RCA プロセスは、AWS 上の SAP 向けのエンド to エンドの観測性を実現するための、AWS のさまざまなサービスと機能を活用する例です。統合ダッシュボードにカスタマイズして、より迅速に分析したり、CloudWatch Alarms を使用して通知を生成したりするのも可能です。また、Amazon EventBridge と統合することで、予測メンテナンスを実施したり、エラー状況が発生する前に自己修復メカニズムを作成するなど、プロアクティブなモニタリングを行えます。
まとめ
SAP ワークロードの動作を理解し、ビジネス上の重要なプロセスを実行する際に、SAP システムを使用してユーザーがどのような経験をしているかを知ることは非常に重要です。
高性能で回復力の高いシステムは、ユーザーの生産性を高め、イノベーションと付加価値活動に時間を使えるようになるでしょう。
CloudWatch App Insight for SAP HANA と SAP NetWeaver、CloudWatch Internet Monitor、AWS Network Manager、AWS Compute Optimizer などの様々な AWS Observability サービスを利用して、プロアクティブな管理と SAP ワークロードの近代化を実現できます。
SAP on AWS、Amazon CloudWatch Application Insights、Amazon CloudWatch Real User Monitoring、AWS Network Manager、AWS Compute Optimizer の詳細は、AWS 製品ドキュメントをご覧ください。
クレジット
私は以下のチームメンバーの貢献に感謝したいと思います: Ambarish Satarkar、Ashish Tak、Derek Ewell、Mohit Biyani、Wong Whye Loong、Vijay Sitaram、Sriram Sabesan、Ramkrishna Borhade、Somckit Khemmanivanh、および Spencer Martenson。
翻訳はPartner SA 松本が担当しました。原文はこちらです。