Amazon Web Services ブログ
ビジネスアジリティを加速する AWS のアーキテクチャ part 1 – AWS Solutions / Solutions Guidance
多くの流通小売業のお客様でITを活用してビジネスを飛躍させる為に、デジタルトランスフォーメーション (DX) に取り組まれています。小売のエンタープライズ企業においても、2022年、2023年ともに長期化するコロナ禍に対応し、新しい顧客体験を実現し、コスト削減やオペレーションの改善のために、IT 投資額は継続して成長しています。
このブログでは、DX に取り組む小売のエンタープライズ企業の皆様に向けて、ビジネス課題をより早く解決するために提供されている AWS Applications とシステム開発を効率的に行うために WEB で公開されているリソース、AWS Solutions、Solutions Guidance、AWS Samples をご紹介します。
AWS が提供する 目的別のアプリケーション – AWS Applications
2022年末に開催された AWS re:invent で小売業向けのビジネスにオンデマンドで利用できる AWS Applications が紹介されました。AWS の CEO Adam のキーノートでは、フリクションレスなストア体験を実現する Just Walk Out ( JWO ) や 手のひら認証に対応した決済端末の Amazon One が発表されました。JWO はアメリカで展開されている Amazon Go の経験をもとに開発されており、店舗に来店したお客様は棚から商品を取り出したら、POSレジを通さずに退店 (walk out) することができます。店舗内に複数設置されているカメラやセンサーでお客様や商品を識別し、お店を出ると事前にアプリで登録したクレジットカードへの決済でお会計が行われ、購入履歴もアプリで確認することができます。お客様は店舗に入る時にゲートでアプリをかざして認証しますが、この時にアプリに代わってより手軽に手のひらやクレジットカードを使って認証するためのソリューションがAmazon Oneです。AWS の200を超えるサービスの多くは、 仮想サーバの Amazon EC2 や オブジェクトストレージの Amazon S3 といった、開発者が様々なサービスを組み合わせて柔軟に利用できる「ビルディングブロック」として提供されますが、AWS Applications のサービスはすぐに利用できるビジネスのユースケース単位で提供されます。
多くのエンタープライズのお客様に利用いただいている コンタクトセンター向けのソリューション Amazon Connect や新たに発表された、セキュアなメッセージングサービスである AWS Wickr などもその一つですが、個別のシステム開発を行わずに初期設定をするだけで使い始められるのが特徴です。
Just Walk Out、Amazon One、AWS Wicker の他にも re:Invent では、小売業や製造業で商品や部品の流れを可視化して、機械学習を使ってサプライチェーンの問題の発見と改善のためのインサイトを提供する AWS Supply Chain や、マーケティングやデータ分析の目的で、関係会社と機微な情報を省いて安全にコラボレーションするための AWS Clean Rooms を発表しています。
これらのサービスは Amazon が 25 年以上の長期に渡り小売業としてのビジネスで活用してきたノウハウを反映して開発されています。例えば、AWS Supply Chain では、Amazon が年間数十億の配送や国境を跨いだ商品手配のサプライチェーンを管理する経験から、「このままでは何日以内に在庫が欠品する/過剰になる」といった洞察を実績値と機械学習の予測をもとに検知・可視化し、在庫の調整方法をレコメンドします。また、システムに設定されている商品の入荷までの想定時間/リードタイムが実績と異なる場合には、アラートを出し正しい推奨値を提案するといった機能があります。自社の店舗や物流拠点、取引先の在庫情報の見える化や、拠点間の在庫の配分、在庫やリードタイムの最適化に課題がある場合は、AWS Supply Chain をセットアップして必要なデータを連携させるだけで改善のためのアクションを始めることができます。
ユースケース別の AWS ベストプラクティスに基づく設計と実装 – AWS Solutions / Solutions Guidance / AWS Samples
AWS Applications はお客様からの要望を受け、これからも新しい機能やサービスが追加されていきますが、それだけでは対応できないユースケースは数多く存在します。EC、リアル店舗、物流など業種やユースケース毎に必要なシステム/機能には共通点が多くあります。しかし、SaaS やパッケージで提供されているものではカスタマイズができなかったり、費用対効果が合わないことがあります。一方で、全てを 1 から考えて自社向けに開発するのは他社との差別化にならない部分に時間とお金を投資をすることになり避けたいのではないでしょうか。こういう時に AWS Solutions Library で公開されている AWS Solutions や Solutions Guidance を活用することができます。
AWS Solutions
AWS Solutions は様々な業種でよく求められるユースケースに合わせて構築された、システムのアーキテクチャ、コード、設定がセットで提供されているものです。AWS CloudFormation のテンプレートが用意されているので、数回のクリックでお客様のAWS アカウントに展開することができます。例えば、「AWS での分散負荷テスト」では、Webシステムへの負荷試験をGUIで設定し実行することができるソリューションを展開することができます。また、「QnABot on AWS」では、社内のナレッジベースをもとにしたチャットボットを構築することができます。デプロイした上でボットの会話の為の設定を行い、Q&Aの情報をインポートするだけで、コールセンターやアプリと連携するために利用できるボットのソリューションを動かすことができます。その他にも、e コマースを活用したマーケティングのためのソリューション「Amazon Marketing Cloud Insights on AWS」もあります。システムの機能要件/非機能要件はお客様の状況によって異なるため、本番利用のための機能や設定が保証されているものではありませんが、AWS Solutions はAWSのベストプラクティスに基づき設計され、テストされたソリューションなので、これをもとに開発を始めたり、参考にして自社向けの設定や連携を行うことで開発にかかるコストと時間を短縮することができます。AWS Solutions のコンテンツは無償で利用いただけるので、展開した先で稼動するAWSサービスの利用料金のみで動かすことができます。
Solutions Guidance
AWSが提供する Solutions Guidance は、AWS Solutions とは異なり、一部のものにしか実装されたコードは含みませんが、より多くのユースケースに対応し、抽象度の高いリフェレンスアーキテクチャを提供します。例えば、自社のECサイトの機能アップデートの頻度が低い、1つの機能で障害が発生した時にサイト全体が止まってしまう、繁忙期の注文を捌くために毎年より大きなEC2インスタンスを用意しないといけなくなっている、という状況であれば「Guidance for Web Store on AWS」を参考にすべきかもしれません。このガイダンスでは、AWSのベストプラクティスに沿って、クラウドに最適化されたモダンなアーキテクチャをAWSで実現する場合の例が記載されています。このアーキテクチャに示されたシステム構成を参考にして、AWSのサーバレスサービスを使ってマイクロサービスかされたアーキテクチャを実現し、より高頻度のシステムリリース、障害範囲を局所化し、必要な機能だけ柔軟にスケールするシステムを目指すことができます。その上、AWSのサービスを活用した、検索、パーソナライズ、詐欺防止、マーケティング、基幹連携といったECシステムで求められる機能もカバーしています。この他にも小売業向けのガイダンスでは、「顧客データプラットフォーム(CDP)」、「ID画像を使った年齢認証」、「RFIDを使った在庫管理」など幅広いユースケースに対応しています。
参照した Solutions Guidance に実装が含まれていない場合には、代わりに AWS Samples で公開されている様々なAWSサービスを活用するためのサンプルソースコードを利用することができます。Solutions Guidance を参照した開発者は、関連するサービスのドキュメントから機能を理解した上で、AWS Sample で提供されているソースコードを自分の環境に展開してその実装方法や動きを確認することができます。re:Invent 2022 で Taco Bell はリアルタイムのデータと機械学習を活用した店舗の稼働状況を予測するシステムを、Amazon Forecast Samples を使うことで、ほぼ自前でのコーディングをすることなく3週間で構築することができたという事例を共有しています。
まとめ
AWS はビジネスユースケースに合わせて、従量課金ですぐに利用できる AWS Applications を数多く発表しています。それ以外の多くのユースケースについても、AWS Solutions 、 Solutions Guidance、 AWS Samples といった、AWSのベストプラクティスに則ったリソースを活用することで、皆様が DX を実現するための時間とコストを削減することができます。AWS Solutions Library から必要なリソースを検索して皆様の DX の加速に役立ててください。
次回の投稿では、小売業のユースケースに合わせて より詳細に Solusions Guidance をご紹介します。
ソリューションアーキテクト 多田 雅哉