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AWS 移行に伴う組織体系の変化(後編)
はじめに
AWS Customer Solutions Manager の甲斐です。オンプレミスから AWS へのシステム移行は、単純なシステム変更に留まらずプロセス変革やチームの役割の変更を伴うため、これらに最適化した組織体制の構築が重要です。システムが AWS に移行したとしても、組織が旧来型のオンプレミス前提のままでは、AWS のメリットを最大限享受できません。本ブログでは、AWS への組織体系の変更における考慮点を具体的な例を交えて前編/後編に分けて提示します
後編では、AWS 活用に伴い発足する新たな組織の位置づけと組織文化の変化について記載していきます。
5.横断組織 (CCoE)の必要性
AWS の活用を通して、従来必要だった工数やタスクの負担が軽減されるものの、新たな役割も必要となります。まず重要なのが、ユーザー管理、権限管理、コスト管理を一元的に行う役割です。AWS アカウントの一元的な管理できず各事業部が自由に利用している場合、セキュリティ上のリスクや想定外のコストが発生する可能性があります。AWS では、これらの課題を解決するためのサービスが提供されています。例えば複数のアカウントの管理には AWS Control Tower などが活用できます。
また、AWS の従量課金モデルに伴い、利用コストの見える化と管理も重要になります。オンプレミスでは一度購買すればコストの変化は小さいですが、AWS では利用料に応じた課金となるため、コストの消費状況を監視・最適化する必要があります。AWS では AWS Cost Explorer や AWS Budgets など、コスト状況を可視化するサービスを提供しています。コストが想定以上に上振れている場合には、最適なインスタンスサイズの選択や不要なリソースの削除、起動時間の調整、Savings Plans の活用などを検討します。
さらに、AWS サービスが絶えず更新されていくため、自社のサービスもタイムリーにアップデートする役割が求められます。サービスの更新情報を把握し、利用者への周知・啓発を行うことで、最新のサービスを活用できるようになります。
( 参考:AWS サービスアップデートまとめ )
これらの役割を組み込んだ組織を組成することで、AWS を安全かつ効果的に活用することができます。CCoE ( Cloud Center of Excellence ) の設立は有効な選択肢の1つです。CCoE は従来のインフラ部門の立ち位置とは異なり、AWS を活用してビジネス価値をもたらすために、利用者のよき相談役として機能することが理想です。CCoE は最初から正式組織として立ち上げる必要はなく、まずはバーチャル組織で展開し、次のステップで正式組織化する、といったステップも考えられます。組織の現状に合わせ、必要な役割を認識した上で、CCoE の立ち上げ方を検討するのが良いでしょう。CCoE についてはこちらのBlog も参照ください。( 参考:CCoE 活動検討のはじめの一歩)
6.組織変化を支える文化
組織体系の変化は、単なる構造の変更にとどまらず、組織の文化やメンバーの行動に深く影響を与えます。新しい価値観やプロセスが導入されることで、従来のやり方や考え方が見直され、組織全体に変革がもたらされます。この変化は、組織の一体感を強化し、より柔軟で効率的な業務運営を可能にするものです。本章では、組織文化への考慮すべきポイントについて記述します。
エグゼクティブのスポンサーシップ:
エグゼクティブがクリアなビジョンと具体的な目標を示し、達成状況の追跡とリソース提供を行うことで、組織全体が変化に協力する文化が醸成されます。スポンサーシップが欠けると、変化への推進力が低下し、組織の目標達成が困難になります。
権限委譲と説明責任:
メンバーに明確な所有権と説明責任を与えることで、意思決定が迅速化され、組織全体での改善が進みます。これにより、メンバーは組織の目標に向けて主体的に行動し、リスクを取ることが奨励され、継続的な改善が促進されます。一方で、権限や責任が不明確だと、対応の遅れや改善の停滞を引き起こします。権限委譲と説明責任の明確化は、組織の柔軟性と生産性を高める鍵となります。
オープンなエスカレーション:
組織内でエスカレーションが円滑に行われる文化を育むことが重要です。問題が早期に報告されることで、リスク管理が強化され、重大な問題に迅速に対処できるようになります。エスカレーションを奨励し、問題解決に真摯に取り組む姿勢を示すことで、健全な組織文化が構築され、メンバーは問題を隠さずに積極的に報告するようになります。
タイムリーで明確、かつ実用的なコミュニケーション:
組織全体に適時かつ明確なコミュニケーションを行うことで、変化に対する適応力を高めることができます。メンバーは変化の目的や意義を理解し、必要な情報をタイムリーに受け取ることで、業務をスムーズに遂行できます。コミュニケーションが不足すると、変化が遅れたり、メンバー間の理解が不十分になり、組織の目標達成に悪影響を及ぼす可能性があります。
実験の奨励:
組織がイノベーションを推進するためには、メンバーが新しいアイデアを試し、失敗から学ぶ文化を奨励することが重要です。適切な実験環境や機会を提供し、メンバーが安心して挑戦できるようにすることで、学習が加速し、組織の進化が促進されます。これにより、ビジネスの成果が向上し、組織全体でのイノベーションが進展します。
継続的な学習:
組織全体でスキル向上と知識の深化を支援する文化を構築することは、長期的な競争力の強化に不可欠です。体系的な教育プログラムや業界認証の取得を支援することで、メンバーのスキルが維持・向上し、組織のイノベーション力が高まります。継続的な学習を奨励することで、組織は変化に迅速に対応し、持続的な成長を遂げることができます。
適切なリソース配分:
効率的な運用を実現するためには、メンバーに適切なリソースを提供し、負担を適切に管理する文化が重要です。必要な人材やツールを適切に配置することで、チームの生産性と満足度が向上し、組織全体の運営が効率化されます。一方で、リソースが適切に配分されない場合、ヒューマンエラーや士気低下が発生し、組織の運営に悪影響を与える可能性があります。
これらの要素を組織文化に取り入れることで、AWS 移行に伴う組織変化と AWS のメリットを最大限に活用することが可能になります。Well-Architected Frameworkの運用の優秀性の柱 (組織カルチャー) に上記ポイントにおけるメリットや実装ガイダンスも記載していますのでご活用ください。
7.まとめ
オンプレミスから AWS へのシステム移行は、単なるシステム変更にとどまらず、組織プロセスやチームの役割変更を伴います。オンプレミスの組織文化とAWS での文化は大きく異なるため、これに最適化した組織体制の構築が重要です。
オンプレミスではIT 部門のインフラ担当がハードウェアの調達から運用管理を担当していましたが、AWS ではマネージドサービスの活用で運用負荷が軽減されます。アプリケーション部門がインフラ設定を自律的に推進し、DevOps の導入で開発と運用が一体化し、高速なアプリケーションリリースが可能になります。
さらに、AWS 移行に伴い新たな役割も必要となります。AWS アカウントの一元管理、コストの最適化、サービスアップデートへの追従など、AWS 活用を最大化する CCoE の設立が重要です。
また、AWS を最大限に活用するためには、 組織体系の変化だけでなく、組織文化も考慮する必要があります。エスカレーションの容認や実験の推奨などの要素を組織文化に取り入れるには、エグゼクティブによる強力なリーダーシップと組織全体の意識改革が不可欠となります。
ファーストステップとしては、組織として達成したいビジネス目標を定義し、組織として取り組むニーズの優先順位を明確することを推奨します。その際、Well-Architected Framework の運用の優秀性の柱 (組織の優先順位) の活用も有効です。AWS の経験とベストプラクティスを活用できるため、合わせてご検討ください。
カスタマーソリューションマネージメント統括本部
カスタマーソリューションマネージャー (CSM) 甲斐 裕之、山崎 徹
参考
Well-Architected Framework 運用上の優秀性の柱
https://docs.thinkwithwp.com/ja_jp/wellarchitected/latest/operational-excellence-pillar/welcome.html
CCoE 活動検討のはじめの一歩
https://thinkwithwp.com/jp/blogs/news/how-to-define-your-own-ccoe-tasks/
責任共有モデル
https://thinkwithwp.com/jp/compliance/shared-responsibility-model/
責任共有モデルとは何か、を改めて考える
https://thinkwithwp.com/jp/blogs/news/rethinksharedresponsibility/
AWS Control Tower でコントロールを適用する際のベストプラクティス
https://thinkwithwp.com/jp/blogs/news/best-practices-for-applying-controls-with-aws-control-tower/