Amazon Web Services ブログ

株式会社アプリズムが Amazon SageMaker AI と AWS IoT Core で実現した馬の見守りシステム「aiba」の開発と運用

本ブログは 株式会社アプリズム 様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。ソリューションアーキテクト 伊勢田氷琴です。

競走馬や乗馬用の馬を管理する施設では、24時間365日の見守りが求められます。しかし、夜間の宿直体制を維持することは、人材確保やコスト面で大きな負担となっています。株式会社アプリズム様は、この課題を AI と IoT 技術で解決する馬の見守りシステム「aiba」を開発しました。本ブログでは、Amazon SageMaker AI を用いた AI モデルの開発から、AWS IoT Core によるエッジデバイス管理まで、aiba の技術的な実装と導入効果について紹介します。

馬の見守りにおける課題と背景

株式会社アプリズム様は、AI/IoT・生成AI/AIエージェント領域を活用したシステム開発・研究開発を推進している企業です。同社が開発した馬の見守りプロダクト「aiba」は、画像解析系 AI の技術を活用し、馬にストレスを与えることなく24時間365日の常時監視を実現する非接触・非装着型の監視システムです。

図1: aiba プロダクトの流れ

図1に示すように、aiba は AI エッジカメラで馬房を監視し、骨格推定アルゴリズムにより馬の運動量を解析します。運動量に異変が生じると、即座にスタッフのスマートフォンにアラートが発信され、異常発生時の動画再生や対応記録の履歴管理まで一貫して行えます。

従来の馬の管理では、厩務員による定期的な見回りが行われていましたが、いくつかの課題がありました。まず、見回りの間には必ず目を離す時間が生じるため、その間に発生した怪我や転倒などの突発的な事故の発見が遅れる可能性がありました。また、24時間体制での監視を実現するには夜間の宿直が必要となり、人材確保や従業員のワークライフバランスの観点で大きな負担となっていました。さらに、異常が発生した際の状況を正確に把握し、適切な処置を迅速に行うことも課題でした。

これらの課題を解決するため、アプリズム様は AI による自動監視システムの開発に着手しました。システムの実現には、高精度な AI モデルの開発、エッジデバイスでのリアルタイム推論、そして多数のデバイスを効率的に管理する仕組みが必要でした。

AWS サービスの採用理由

アプリズム様が AWS のサービスを採用した理由は、主に3つあります。

第1に、AI モデルの開発における GPU リソースの調達の迅速性です。GPU の調達は社内外の要因で困難であり、通常2週間程度かかっていました。Amazon SageMaker AI を利用することで、必要な時に必要な GPU リソースを速やかに利用開始できました。また、必要に応じてインスタンスサイズを柔軟に変更し、迅速に必要なトレーニングジョブに投入できることも大きなメリットでした。

第2に、エッジデバイスの管理における運用負荷の軽減です。aiba では、複数の施設に設置された多数の AI カメラを管理する必要があります。AWS IoT Core のフリートプロビジョニング機能を利用することで、各カメラに個別に証明書をインストールする手間を省き、ネットワークに接続するだけでデバイス認証が完了する仕組みを実現できました。

第3に、データセットの保存からトレーニングジョブへの投入までをシームレスに実行できる統合環境の存在です。Amazon S3 にデータを保存し、Amazon SageMaker AI のトレーニングジョブに投入するという一連のワークフローを、シームレスに構築しました。

また、リモートで作業するメンバーも多い中で、クラウド環境を利用することで場所を選ばず開発作業ができる点も、チームの生産性向上に寄与しました。

ソリューションの概要

aiba のシステムは、エッジ側の AI カメラとクラウド側のデータ処理基盤で構成されています。AI カメラは馬房の上部に設置され、RGB カメラと暗視カメラの2つのレンズで馬の動きを24時間監視します。カメラ内で AI モデルが動作し、馬の骨格を推定して行動をリアルタイムで解析します。


図2: aiba システム全体のアーキテクチャ

図2に示すように、aiba のシステムは AI カメラによるエッジ推論と、AWS クラウドによるデータ処理・分析の2つの層で構成されています。

エッジデバイスとクラウドの接続には AWS IoT Core を使用しています。AI カメラは馬の状態を認識し、推論結果を MQTT プロトコルで IoT Core に送信します。

クラウド側では、IoT Core から受信したデータを Amazon Kinesis Data Streams に連携し、Amazon Managed Service for Apache Flink でリアルタイム解析を行います。異常を検知した場合は、エンドユーザーのスマートフォンに即座に通知が送信されます。通知には異常検知時とその前後の映像へのアクセス情報が含まれており、離れた場所からでも馬の状態を確認できます。

また、アプリケーションのログデータは Amazon S3 に保存され、Amazon Athena で直接クエリできる仕組みを構築しています。お客様の増加に合わせて柔軟にスケールできる点も、AWS のマネージドサービスを活用する大きなメリットです。

AI モデルの開発には Amazon SageMaker AI を使用し、スクラッチでモデルを構築しました。


図3: AI モデルのトレーニングパイプライン

図3に示すように、データパイプラインは、画像データを Amazon S3 に保存し、SageMaker AI のトレーニングジョブに投入する流れで構築しました。トレーニングジョブの出力モデルは、カスタムスクリプトで AI カメラ専用の形式に変換し、デバイスにインストールします。

エッジデバイスとクラウドの接続には AWS IoT Core を使用しています。デバイスの認証には IoT Core のフリートプロビジョニング機能を利用し、カメラをネットワークに接続するだけで自動的にデバイス認証が完了する仕組みを実現しました。AI カメラは馬の状態を認識し、推論結果を MQTT プロトコルで IoT Core に送信します。

クラウド側では、IoT Core から受信したデータを Amazon Kinesis Data Streams に連携し、Amazon Managed Service for Apache Flink でリアルタイム解析を行います。異常を検知した場合は、エンドユーザーのスマートフォンに即座に通知が送信されます。通知には異常検知時とその前後の映像へのアクセス情報が含まれており、離れた場所からでも馬の状態を確認できます。

また、アプリケーションのログデータは Amazon S3 に保存され、Amazon Athena で直接クエリできる仕組みを構築しています。お客様の増加に合わせて柔軟にスケールできる点も、AWS のマネージドサービスを活用する大きなメリットです。

導入効果

aiba の導入により、複数の施設で大きな効果が得られています。

最も顕著な効果は、ラクエドラゴンホースパーク様(滋賀県大津市)での「夜間宿直なし」という運営モデルの実現です。従来は夜間も人が常駐する必要がありましたが、aiba による24時間監視により、従業員のワークライフバランスに配慮しつつ、夜間も馬の安全を確保できるようになりました。異常検知時には自動で全スタッフに連絡が届き、誰が駆けつけられるかを迅速に決定できます。また、異常行動の前後の録画機能により、離れた場所からでも馬の状態を確認でき、到着後に無駄なく迅速な対応が可能になりました。

技術面では、Amazon SageMaker AI の活用により、AI モデルの開発サイクルが大幅に短縮されました。GPU の調達に通常2週間かかっていたところ、SageMaker AI を使用することで速やかに GPU の利用を開始できるようになりました。これにより、モデルの改善サイクルを高速化し、より精度の高い AI モデルを迅速に開発できるようになりました。

AWS IoT Core のフリートプロビジョニング機能により、デバイスのプロビジョニングにかかる工数を約90%削減できました。新しい施設への導入や、カメラの追加・交換時の作業が大幅に簡素化され、運用負荷が軽減されました。

また、クラウド環境を利用することで、リモートワークのメンバーも含めたチーム全体の開発生産性が向上しました。場所を選ばず開発作業ができることで、柔軟な働き方を実現しながら、プロジェクトを効率的に進められるようになりました。

お客様の声

AIクリエイション本部 AX推進事業部 マネージャー横川様からは、以下のようなコメントをいただいています。
「Amazon SageMaker AIを導入することで、自社モデル学習用のコンピューティングリソースを必要に応じて柔軟に拡張することができました」

まとめ

株式会社アプリズム様は、Amazon SageMaker AI と AWS IoT Core を活用することで、馬の見守りシステム「aiba」を開発しました。SageMaker AI による迅速な AI モデル開発、IoT Core のフリートプロビジョニングによる効率的なデバイス管理、そしてマネージドサービスによるスケーラブルなデータ処理基盤により、高精度な24時間監視システムを構築できました。

その結果、従来考えられなかった「夜間宿直なし」という革新的な運営モデルを実現し、従業員のワークライフバランスの改善や、運用コストの削減など、ビジネス面でも大きな効果を得られています。今後も、AWS の技術を活用しながら、馬の健康管理と動物福祉の向上に貢献していくことが期待されます。

手前から左より

株式会社アプリズム:大原様
Amazon Web Services Japan:アカウントマネージャー 今井 彩渚
株式会社アプリズム:舛野様
株式会社アプリズム:湯元様

奥から左より
株式会社アプリズム:横川様
株式会社アプリズム:青木様
株式会社アプリズム:河原様
株式会社アプリズム:アユス様
Amazon Web Services Japan : ソリューションアーキテクト 伊勢田 氷琴